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ウォー・オブ・ザ・黒月【零】

 

 黒月学園高等部専用校庭。高等部全員が集まり、キッチリと整列している。


『それでは始めに、黒月学園高等部生徒会長、黒宮美烏さんからの挨拶です』


 大戦記祭。


『皆さん、おはようございます』


 祭りなんて名前をしているが、ようは実戦的なサバイバルゲームだ。

 死者が出ないなんて表向き。まぁ死者は出ないがそれでも全治1ヶ月の怪我が出る位にヤバイ代物だ。


『と、いう風な能天気な挨拶はこれきりだ』


 おっと挨拶の雲行きが怪しくなって来たぞ?


『皆の者!これは戦争である!模擬戦だからといって手を抜いたら全員処刑だぞ!』


 すると皆が一斉に「うぉぉぉ!」と叫ぶ。

 これが歓声なのかノリなのかは定かではない。


『戦争は非情だ!だからこそ、不必要な情や念は捨て去り、ただ楽しめ!いいか、戦争は楽しんだ方が勝つ!……以上だ』


 いやその論理はどうかと思うよ……。というツッコミは無い。

 皆、一斉にうなり声をあげる。ていうかみんなテンションたかいなぁ。


『では皆さん。指定の位置に移動してください。なお、開戦の合図は大型の火炎魔法です。現在時刻は9:00、これから二時間後に開戦の合図を放ちます。それまでに各自野営の準備を完了させてください』


 そんな感じで説明が終わる。


 ミラン・アルノアードは、説明が終わった事を確認し、すぐさま指示を出した。


「……よし。全軍、隊列パターンAで陣まで移動だ!」


 ミランのその一言で、アルノアード軍が移動していく。

 その数約500人。

 どっかの国の行進を連想させるように、ぴっちりとした間隔とリズムで進んでいく。

 

 ていうか、正直凄い事だ。


 思想も、気持ちも、思考も、ついこの前までバラバラだった生徒たちが、これだけの整った動きを見せるのは、中々に難しい。

 これだけで、彼の能力の高さが伺い知れた気がする。

 

 彼らの装備は学園が支給した緑の迷彩服に特殊素材の防弾チョッキ。

 それと各自の必需品を詰めたバッグを背負い、頭部にはこれまた学園側が支給したインカム。

 もちろん全員が装備している。


「なんか、これマジで戦争するみたいでやだなぁ」


 と、黒宮秀兎は呟いた。


 中肉中背、黒髪に黒の瞳、昨日のゴタゴタの所為で寝不足気味、やる気が無い、覇気が無い、目にくまが出来ている等、いつも通りの、死にそうな、ユルユル〜な姿。

 彼は目の前の息の合った行進に心底驚いていた。


「ていうかやっぱ多いですねぇ〜」


 と、言うのは金髪で蒼眼、可愛らしさと元気が溢れ出る容貌を持つ少女、白宮ヒナだ。

 まぁ見た目通り、彼女は転校早々人気大爆発で、もう告白が三十回くらいあったらしい。

 イケメンで敵軍大将のミラン・アルノアードからも告白されていた。

 だが、それら全てをことごとく断っている。

 まぁまがいなりにも俺たちは夫婦なわけで、断るのは当然なのだろうが。

 

「なぁ、いいの?」

「え、何がですか?」

「ミランからの告白、断っちゃって」

「はぁ?何言ってるんですか?」

「だって俺よりミランの方がイケメンじゃん」

「あのですねぇ、私たち夫婦なんですよ?夫が妻の浮気を促してどうするんですか」

「俺縛り付けるのとか苦手だし、相手の意思尊重しちゃうし。大事なのはお前の気持ちだぞ?」

「まぁなんにしても私は秀兎さんしか好きじゃないので」

「う〜ん、複雑な気分だ……」


 俺なら、自分みたいな奴はとっととふってミランに鞍代わりするのに……。


 そんな奇妙な夫婦話をしていると、


「あ、秀兎。生徒会の方も動き出したよ」


 後ろから声をかけられる。

 秀兎は振り返り、その方向を見ると、そこには黒い海坊主が……

 

「ってシャリーか」


 黒い海坊主もとい、シャリー・クシャーがそこにいた。

 艶々した黒髪を無造作に流している。ていうか量が半端無いので陸にでた海坊主だ。

 所々に寝癖がついている。それと異様に長いアホ毛がある事に気付いた。


「お前また海坊主になってる。折角の顔がそれじゃ見えねぇぞ……てこれ俺何回言ったけ?」

「さぁ?私よく言われますし、一々数えてません」

「シャリーさん顔可愛いのに……」

「女は顔じゃなくて心ですよ!」

「おお、カッコいい発言です……!」

「え?何処が……?」

「やっぱり主人から一歩引いた態度がグッとくるよね」

「やっぱりそうですよね!」


 乙女の心は理解不能と認識する秀兎を他所に、その乙女二人はキャイキャイとはしゃぎまくっている。


 と、変な状況に気を取られていると、


「そこの班!はやく指定のベースに行きなさい!」


 怒られてしまった。


「うし、行くか」

「はいっ」

「そうですね」


 三人は歩き出す。

 準備は万端。

 作戦も完璧。

 さぁ勝つぞ!

 全ては休みの為に!



 と、視界に入るのはアルノアード軍の大軍隊。

 

 

 後ろを見る。



 野営の準備を進める生徒会の精鋭部隊。



 両軍とも気合いが入りまくっていて、士気がやばい位高い。


 …………正直、


「「「勝てる気しねぇ〜……」」」


 500人vs500人vs………………3人。

 

「ま、まぁ、大将を倒せば一発で勝てるし、…………大丈夫だよな?」

「さ、さぁ……?」

「が、頑張りましょうッ!」


 ここに来てちょっと逃げ出したいな〜と思う秀兎達だった。

短編集というか、まぁそんな感じで進んでいきます。

ていうか、ここから30話くらいはこめでぃが強くなるかと……。

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