それは不幸な魔王の物語。
「愛してる」
彼女はそう言ってくる。
「うん僕も」
だから自分もそう答える。
それが普通だと思っていた。
そうすれば彼女は悲しまないから。涙を流さないから。
だから答える。
誰にだって、自分を愛してくれる人には必ず言う。
「こんな僕を愛してくれてありがとう」
「こんな化け物を愛してくれてありがとう」
「こんな、不幸な化け物を愛してくれて、ありがとう」
精一杯の、感謝の気持ちを込めて。
それは自嘲に聞こえるかもしれない。
それは自虐に見えるかもしれない。
だけど、
それでも僕は、本当に感謝しているんだ。
自分の運命が憎いわけじゃない。
自分にかかった、この呪いが憎いわけじゃない。
でもこれは自分を不幸にするもので。
自分の近くにいる人を傷付けてしまう。
自分の所為で周りが傷付いて、その所為でその人の周りが泣く。
周りの人が泣いて、自分に恨みをぶつけて来る。
周りの人が自分を恐れて、自分から離れていく。
それが恐かった。
周りの人が泣くのが恐かった。
周りの人が離れていくのが恐かった。
周りの人に裏切られるのが恐かった。
それでも、やっぱり周りは傷付いていく。
だから、逃げたかった。彼女と二人で、どこまでもどこまでも。
彼女は傷つかない。どんな事があっても、自分から離れない。
だから二人で寄り添って、何処までも逃げたかった。
だけど、それももう終わり。
自分の所為だ。自分の所為で、世界が終わる。
自分が何もしなかったから、暴走する。
これを殺さなくちゃいけないのに。
僕はそれをしなかったから。
だから僕は叫ぶ。
憎いと。
自分の、自分に宿ったこの宿命が憎いと。
怨嗟の声を上げる。
何故。
何故自分がこれを殺さなければいけないのか。
そんなの無理だ。
だって神様は僕を好きだから。
だって僕は彼女が好きだから。
だから、殺すのなんて、無理だった。
だから世界が終わる。神様が産んだ《生物》が、世界を喰らう。
世界が崩壊する。
世界が、闇に包まれる。
こんな事なら、こんな事になるなら、
《魔王》になんて、ならなければよかった。
「そんな事を言わないで。私は、私は貴方が魔王で、本当によかったと思ってる」
そう言って、君は消え始める。
僕も消え始める。
さようならは言わない。
「愛してる」
「愛してる」
世界が消える。
また、
また、
また、世界が終わり、世界が始まる。
今度は、今度こそは、
「これを、君の代わりに神になるこれを、殺すよ……」
「約束だよ?」
「うん約束だ」
そこでまた、世界は終わった。