弐拾八.っておいおい俺が受ける想像しちまった。
エルデリカの叫び声が聞こえる。
《悪魔》の咆哮が聞こえる。
と、
――聞こえるか!
頭に響く、凛々しい声。
「ルシア!」
聞きたい事があった。知りたい事もあった。が、
――説明は後回しだ!時間は一秒と経ってない!今は悪魔をぶっ殺す事だけを考えろ!
今はそんな場合じゃないよな〜。
「……ちっ、後でちゃんと説明知ろよ!」
クルリと空中で回転し、地面に着地。闇で着地時の衝撃を喰う。
「陛下!」
エルデリカが駆け寄ってくるが、首を振って、
「近付くな!」
「ッ!」
「ちくしょーイテーなこのヤロー!」
悪魔を睨みつけると、その悪魔が
「ぎゃぁぁぁぁああああああ!!」
と気色の悪い声で叫びながら自分に向かって突っ込んでくる。
「テメェはそれしかできねぇのか、よッ!」
タイミングを合わせて顔面に回し蹴りをぶち込む。
グギョッという呻き声とガコッという音。見事にヒットだ。
悪魔を宙に浮かせたまま、今度は大きくアッパーをかます。これまたヒット。
勢いをつけ過ぎた所為か、悪魔が空高く飛び上がる。
すかさず闇を伸ばそうとするが、
――馬鹿!《悪魔》に闇は効かないんだぞ!
「なっ!そういうのは先に言ってよ〜……」
仕方なく魔法陣を展開。色は赤。
「炎よ、巨槍となりて敵を貫け!」
魔法陣の中心に巨大な光球が出来る。それが膨らんでいき、そして弾ける。
ズァッ!と巨大な炎の槍が、悪魔を貫く。いや、呑み込む。
「ぎゃぁぁぁぁああああああああ!!」
断末魔のような声。
炎の槍が爆発する。
黒い物体が、宙を舞う。
――悪魔はまだ死んでいない。
「ぐおぉぉぉぉおおおおおおおお!!」
咆哮と共に、口で光球が生成されていく。
「させるかッ!」
跳躍、超人的な跳躍によって一気に間合いを詰める。
空中で体勢を整え、クルリと一回転。踵を脳天に叩き込む!
「ぐぎょぉ……!」
光球の生成が止まる。
しかし攻撃はやめない。
「せぇーのッ!」
両手を組み合わせ、悪魔の背中に叩きつける!
ドゴォ!と言う音と共に、悪魔が急落下していくが、魔王は地上に先回り、落ちて来る悪魔に向かって魔法陣展開。色は青。
「水よ、巨槍となりて敵を呑み込め!」
巨大な水の槍が悪魔に向かって放たれる。
魔王はすぐさま、水に闇を伸ばす。
――馬鹿!何度言ったら……
「黙ってろ!」
水の槍が黒に染まる。
巨大な、闇の槍が悪魔を呑む込んだ。
「ぎゃぁぁぁああああ……………」
断末魔の様な咆哮が、聞こえなくなる。
闇色の槍が、魔力を失い途切れる。
そして、落ちて来る。
悪魔ではなく、巨大な氷塊が。
悪魔が氷漬けになっていた。
――なるほど、闇で水の温度を奪ったか……。
「そ。んでもって……」
魔王の目の前に黒い亀裂が入る。
魔王は亀裂の中に手を突っ込んで……。
ズバッ、と引き抜く。
黒い刃に、白い蛇の刻印。《悪魔殺し》(コピー)。
跳躍し、悪魔を氷ごと突き刺す。
「ルイン、レリズ、ディメナス。……弾けろ悪魔」
巨大な氷塊に亀裂が入り、白い光が溢れ出す。
そして、爆発。
氷漬けの悪魔は、見事に粉々になった。
◇◆◇
「ふぅ……」
剣を放り捨てると、黒い霧になって消える。
エルデリカが必死の形相で駆け寄ってくる。
「陛下!お怪我は!」
「おぉ、エル。大丈夫、なんともないよ」
エルデリカの表情が和らぐ。が、すぐに表情を引き締めて、
「申し訳有りませんでした陛下。処分は何なりと……」
いつもとは違う、申し訳なさ100%の表情。
心配、失態に対する悔やみ、等々。
それらから来る処分の要求。
いるよね、こういうキャラ。忠義物とか特に。困るよね、対応。
まぁ別に処分する必要も無いけど。
「いいって、今回の事は不問にする」
「し、しかし……」
「オッケーオッケー不問不問。しかしもでももけれども無し!」
「うぅ……」
苦しそうに眉間にシワを寄せる。
ていうか、こういうキャラはホントにちょっと困るなぁ。
「…………」
「…………」
立ち去ろうとしない。
どうしても処分が受けたいらしい。
母さんなら鞭打ったり水責めにしたり常人では考え付かない恐ろしい罰を……っておいおい何故か俺が受けるのを想像しちまった。
まぁとにかく、俺はそういうの絶対やりたくない。
どうしようか……。
「…………ん〜」
「…………」
……あ、そうだ。
「…………」
「とりあえず、俺がぶっ壊した部屋の扉の採寸と発注と取り付け。それからあの氷塊の片づけと皆にもう休むよう伝えるのお願いできる?」
「了解しました」
「明日でいいから、今日はもう寝ていいよ」
「…………了解、しました……」
渋々と去っていく。
「任せたぞー!」
寂寥感漂う背中に、そう言ってやった。
さて、悪魔もぶっ殺した事ですし。
「さ、説明して貰おうかな?ルシア」
解らない事を、自分の知らない事を、知ろうかね。