弐拾七.ポカンじゃないよ、ドゴン!だよ。
「待て!」
ルシアが、自分と美烏の前に立ちはだかる。
「退けルシア!これは秀兎の為でもあるんだぞ!」
「そんな無理やりでこじ開けて、狂ってしまったらどうする!」
「……ッ!」
「知っているだろう!一度狂った魔王が、何をしたのかを!忘れたとは言わせないぞ、あれは、あの《悲劇》を二度と起こさない為に私は封じ込めたんだ!」
「だけど!もう時間が無いだろう!このままではいずれ殺されてしまう!だから、殺されるくらいなら、狂わせてもいい!」
「駄目だ!狂わせては生きている意味が無いだろう!」
「だったら、だったらどうすればいい!コイツを、コイツを救うにはッ!お前は秀兎が死んでもいいのか!」
「良い訳が無いだろう!だが、狂ってしまっては……!」
「だったら、だったら……ッ!」
そう言って、美烏は泣いた。泣き崩れた。
ルシアが美烏を抱きしめる。
「…………」
秀兎は、かなり困惑していた。
今までに、一度も泣いた事なんて無い姉が、自分の目の前で泣いている事。
何故泣いているのか。
推測は可能だ。
さっきの会話から、どうやら自分を救おうとしたらしいのだが。
いやそもそも、自分が殺されるとかどうとか、もうホントに何が何だか、まったく理解できない。
「…………」
当然、かける言葉も出ない。
「だけど、もう、あの《呪われた皇子》は、《魔王》を、秀兎を殺しに来たんだぞ……」
「大丈夫だ。あれは小手調べ、秀兎の力で殺せる程度の《悪魔》だ」
「でも、でも……」
「大丈夫だ」
「なら《力》だけでも……」
「…………」
「お願いだルシア……」
その声は、今にも消え入りそうなか細い声で、
「……はぁ」
ルシアは、参ったとばかりに肩を竦める。
「……分かった。第一の封印術式を解こう」
「ホントか!」
「ああ、というわけで……」
ずわりっ、と空気が変質する。
「そこのな〜んにも知らない魔王秀兎君。今から君に《封印しちゃった力》を開放します」
と、何処からとも無く巨大なハンマー登場。
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「へ……?いや、ちょ、ちょっと待ってよ、俺、ホントに何もわかんないし、痛い思いすんのもヤだし……」
そう言う内にも、ルシアは超でかいハンマーを振りかぶり
「いやいやだからやめっててばもっと他に方法がぁぁぁぁぁあああああああああ!?」
カチンッ、でもポカンでッ、もなく正真正銘の重い一撃。
ドゴンッ!……ヤベェって首の骨折れたって、ああ、視界がブラックアウトす……。
と、そこで再び落下感が戻ってくる。
「あ?へ?ええぇぇぇぇ!!?」
戻ってきていた。そこは、中庭庭園の上空だった。