表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/59

弐拾六.《魔王》と《魔女》、《姉》と《弟》。

 

 深い、深い闇に堕ちて行くような感覚。

 奈落の底へ、落ちて行くような、そんな感覚。

 

 

 

 

「ん?何故お前がここに居る?」

 

 そう声をかけられて、我に返る。


「へ?」


 落ちていく感覚は無い。嘘のようだった。確かに自分は、赤い光の球に当たって、それが爆発し、余りの痛さに《闇》の操作が出来なくなって墜落したはずだった。

 

 そうだ、ちゃんと憶えている。

 

 ……。

 

 いや、でも、身体はなんとも無い。何処を見ても、いつも通りの、火傷一つ無い健康体だ。

 でも、ちゃんと痛みを覚えている。

 エルデリカの声が聞こえた気がする。

 

 ひどく、ひどくおかしな感覚だった。夢と現実が入り混じったような、そんな感覚。

 

 と、


「おい、何を呆けている?」

 

 そんな声をかけられて、思わず秀兎はその方向に顔を向けた。

 

 秀兎はその声を知っていた。

 ずっと前から、知っていた。

 凛とした、はっきりとした声。

 彼女は自分の《相棒パートナー》だと言う。

 自分に《闇》の使い方を教えてくれた。

 

 その声の主を見て、秀兎は溜息を吐いた。


 

 

 真っ白な、雪のように白い、艶やかな、色が抜けて脱色したような物とは大違いの髪。

 細い、しなやかな肢体に、美しい肌。

 悪戯っぽい、吊り気味の、鮮血を湛えた瞳、長い睫毛。

 可愛らしい様で、それでいて大人びた、不思議な容姿。


 

 

 女神、では無い。

 彼女を女神と呼ぶには、余りにも妖し過ぎる。

 そう、一番しっくり来る表現は、


 《魔女》、《女王》、そのたぐい

 

「『ルシア』」


 彼女の名を、呼ぶ。

 

 とそこで、


「あ痛」

 

 目の奥が、ずきりとする。

 だが、ほんの一瞬でおさまった。

 

「な、何……?ていうか、ここ、どこだ……?」


 ゆっくりと見回すと、そこは、円状の広間だ。

 円を分断するように赤いカーペットが敷かれ、片方には《魔女》が座る椅子、もう片方は扉だ。

 屋根は、等間隔に設置された石造りの柱で支えられ、その間から外が見える。

 月明かりに照らされた、綺麗な雲海と、優しい闇色の空が見える。

 

 ますます分からなくなる。


「ていうかなんで俺こんなところに……」

 

 その、なんの引っ掛かりも無いような一言に、《魔女》が、一瞬だけ悲しげな顔をする。


 自然と目が合う。


「そうか、まだ……」


 その言葉を、秀兎は聞き逃さない。


「ん?」


「いや、こっちの話だ。それより秀兎、何故お前がここに……」


 と、突然、彼女は言葉を中断した。

 いやそれどころか、今まで合わしていた目が、見開かれて自分の後ろの方を見ていた。

 

「ん……?」

 

 怪訝に思い、後ろを振り向いて、


「……ッ!」


 瞬間、身体に悪寒が走った。


 《鬼》だ。

 《鬼》がいる。



 紅蓮の髪。小学五年生ほどの体躯にしなやかな四肢。

 鬼の面。そして、目の部分から見える鮮血の双眸。

 

 

 彼女は白い、金色の装飾が施された法衣の様な物を纏い、そこに立っていた。


 ――黒宮美烏だ。


 しかし、攻撃されそうだから悪寒が走った訳ではない。


 殺気だ。恐ろしい程の莫大な殺気。それが誰に向けていられるのかは解らないが、それでも気を抜いたら殺されそうなほどの濃い殺気だ。

 

「…………なんのつもりだ、黒宮美烏。勝手に入り込んできて何をそんなに殺気立っている」


 魔女の声には、緊迫感と、殺気が篭っていた。


「解っているはずだルシア。もう、時間が無いんだ」


 美烏は低い声音で言う。


「勇者はもう、駄目だ。呪われた。いや狂ったと言うほうが正しいか、なんにしても、勇者はもう『あちら側』についてしまった」

「待て、アイツは本当の勇者じゃない。まだ『こちら』には《光の姫君》がいるじゃないか」

「姫君の封印は堅牢だ。あの閉じ込められた姫君では絶対に《呪れた皇子》に勝てない」

「まだだ、世界はまだ狂っていない、軋みを上げていない」

「では、弟を見殺せというのか?」

「………」

「はっ、到底無理な話だ。むざむざと殺されてしまう弟を放って置くほど私は愚かではない」

「無理だ。お前では、お前でも《呪われた皇子》に勝てるはずが無い」

「解っている。だから……」

「……」

「《扉》を、開く!」


 突然、美烏は法衣をはためかせ、疾走。


 人間を超えた速度。


 手には、紅い刀身の剣が握られていた。

さぁ、ちょっと意味不明な単語が沢山出てきましたー!

やっと序章が完結しそう……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ