弐拾参.最強の母の娘はやはり最兇。
――放課後。
「イタタッ。うおぉ〜超イテー……」
秀兎たちは生徒会室に向かっていた。
ヒナのルールフォンを取りに行く為だ。
シャリーは用事があるらしく、先に帰ってしまった。
「魔王が一般人に殺られるって……、なんでやり返さないんです?ホントは強いのに」
「それじゃあ皆が恐がるだろ?俺は普通の学園生活が送りたいんだよ」
と、そこで足を止める。
「ここが生徒会室」
そう言って、何処にでもありそうな扉の前に立つ。
《生徒会室》
そう書いてある。
「案外普通なんですね」
「まぁ、外見はな。と、その前に……」
秀兎はルールフォンを取り出して現在時刻を確認する。
「3時24分。オッケー、今の時間ならいないな」
「どうしたんですか?」
「ん、いやなんでもない。よし、行くぞ」
そう言って、ドアをノック。
「どうぞ〜」
男の人の声。
「今の声は?」
「今の副会長ね」
そう言って、ドアノブを回し扉を開く。
「失礼しま〜「はっはぁぁ!!」ブゥゥゥッ!!」
開けた瞬間、何かが跳んで来て彼の顔面に当たる。
いや、何かではなかった。少女だ。小学五年生くらいの少女だ。
黒月学園の制服、白のワイシャツを着用し黒いネクタイをつけ、黒いスカートを身に着けた少女の跳び蹴りだ。その少女の足の裏が、秀兎の顔にめり込んでいる。
しかも、その少女は真っ赤な瞳に真っ赤な髪をしていて。
すぐに分かった。
この少女が『彼女』の血縁だという事を。
しかし、まぁそれは置いといて。
「秀兎さん!?」
少女の足は、ちょっとヤバイ位にめり込んでいた。
そのまま二人は床に倒れる。
「む、なんだこの小娘は?」
と、やや切れ目の、紅蓮の双眸でこちらを見てくる。しかし、彼女は秀兎の顔面にめり込んだ足をどけない。それどころかグリグリと押し付け始めた所が彼女の血を感じさせる。
ヒナは一瞬、貴方のほうが小さいのでは?と突っ込みそうになるが、まぁ突っ込んだら痛い思いをしそうなのですんでの所でやめた。
「あ、あの、それよりも彼は……」
「んぁ?コイツか?コイツなら心配は要らない。コイツはこうやって痛めつけられるのが大好きな天性のマゾだからな」
「へ、へぇ。そうなんですか……」
そういえば思い当たる節もあるような……?
「違うわぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!」
ガシッと少女の足を掴む。
「おとと」
「ふざけんなよ!俺はガシガシ踏まれて快楽得るような輩じゃねぇ!」
「む、違うのか?ではあれか、毎晩街を彷徨っては出会い頭に攫ってファックするのが趣味か?」
「それもちっがう!」
「だったらなんなんだお前は。MでもSでもないなんてそんなはずは無いだろう?昔は踏まれてはぁはぁしてたくせに」
「それは息苦しいから喘いで……」
「とまぁ冗談は置いといて」
「もうこの人殺させてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「ホントにコイツは誰だ?」
少女が見詰めてくる。
その仕草が、全部彼女の様に見えて、
「うぅ……」
ヒナは思わず呻いた。
当たり前だ。その視線が、目付きが、獰猛な鷲か豹に睨まれているような気分にさせるのだ。
心臓が縮こまる。
「知らないの?こいつは第一学年で知らぬ者なしと謳われている大人気女学生、白宮ヒナさんだ」
と、秀兎が言う。しかし、ヒナは妻と言ってくれなかった事が少し寂しいと思った。
しかし、彼女の反応は、思っていたのとは違った。
「いやそれは知っているんだ」
と言う。
「私が聞きたいのはそうではなくて、コイツが秀兎の何なのか、どういう経歴で、どういう奴で、どういう経緯で秀兎周りにいるのか。それが知りたい」
と言う。その表情は、真剣そのもので、小学五年生の顔とはまるで違った。
彼女の、『黒宮・竜輝・レイア』の、その顔だった。
彼女の、尋問する様な、全てを見透かしているような、変な事を言ったら殺されそうな、そんな視線を彼女は放っていた。
「…………」
ふぅー、と、秀兎は肩を竦める。
そうして、目配せしてくる。
ここ一ヶ月で、彼の目配せの、彼の意思をある程度汲み取れるようになった。
そうした経験の上で、彼の目配せの意味が「言ってやれ」と言う意味だと悟る。
「私は……」
そう言って彼の反応を確かめる。別に止める気もないようだ。
一息置いて、
「私は、フリギア帝国第三皇女、ヒナ・ラヴデルト・フリギア。第四位皇位継承権を持つフリギア皇帝の第四子息」
王宮で習った、形式や礼儀作法に注意して、彼女を見詰める。
「そして私、ヒナ・ラヴデルト・フリギアは彼、黒宮秀兎の妻です」
その言葉に、彼女は驚いたように目を見開いて、すぐに目を細め、顎に手を当てる。
「ふむ、《光の姫君》か……」
彼女はその、『奇跡』と呼ばれる、『呪われた呼び名』を口にする。
「ておいおい。まさか母さんに黙ってこんな事を……」
「それこそまさか。一番最初に言ったよ」
「何て言ってた?」
「『面白いから結婚しろ』だってさ」
「はは、母さんらしいな」
その微笑みは、どことなく寂しげで、
「お前はそれでいいのか?ただでさえ『呪われている』のに……」
「いい。別にどうって事無いよ。知ってるだろ?俺の性格。俺ってば強欲ちゃんなのよ?」
「……ああ、そうだったな」
ヒナは、その会話に、少し違和感を感じた。
「そうか、オーケーオーケー。じゃ、立ち話もなんだ、入ってくれ」
彼女はそう、促してきた。
戦争を始める前の準備期間。
ニ〜三話くらいありますが、ご了承してください。
しかし黒宮の人って恐いなぁ〜。