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壱.御妃候補の勇者。

改めまして、黒ウサギ0です。

新人です。右も左もわかりません。はい。

序の部分で沢山の人がアクセスしてくれました。

ありがたや。

さて、今回の話もコメディは少ないですが、次からがんばっていこうと思います。

 

 ―世界の何処かに、彼の城がある。


 多重に結界を張り、霧の魔法を使い、転移魔法の罠を至る所に仕掛け、そうしてまで外界との関係を絶った場所。

 決して辿り着けぬと謳われた、暗黒の宮殿。


 魔王城。


 何人のもの使用人が住み、屈強な騎士が護る難攻不落の絶対城塞。


 そこに、一人の少女がやってきた。


 彼女は自分を勇者だと言う。もちろん嘘だとわかる。彼女は、世界最大の人民と領土を持つ帝国フリギアのお姫様だ。それくらい、魔王は知っていた。

 

 そして、戦いを挑まれた。


 彼女は、自分を倒したら幸せになれるという。

 ――何故?

 自分を救うと言う。

 ――どうやって?

 

 そして、俺は……。


 


 そんな事を考え、そこで考えるのをやめた。

 それなりに見栄えのいい執務室。

 魔王は、メチャメチャめんどくさそうな、絶望感が漂う顔で目の前を見た。

 ハリーなポッターさんの本と同じくらいの分厚さの書類の束が、合計で十個くらい置かれた机。

 これが、今日処理しなければならない魔王の仕事である。

 部下たちが提出した書類なのだが、内容がもう見たくなかった。


『騎士たちの武具配給の予算について』

『魔王城増築の予算案』

『新しい魔術の研究費について』

『中庭魔法陣の現在状況報告』


 等々。真面目な物も多い物の、


『騎士たちの《温泉旅行》についての議案書』

『ねずみ駆除がもうホントやなんですけどの議案書』

『トイレ掃除がめんどくさいの議案書』

『彼女が欲しいので外に行っていいですか?の議案書』


「ふざけんなぁぁぁああああ!!」


 と、思いっきり叫ぶ。いやマジで。くだらなくない?ちゃんとやってくれないとほんとに困るって言うかさ。

 しかし、部下が我が侭なのは今に始まった事じゃない。


 と、コンコン。というこ気味好い音が聞こえたので、「どうぞ〜」と言う。


「失礼しま〜す。どうも〜」


 なんて言いながら、彼女は入ってきた。

 ヒナだ。俺を救いに来た少女。


「ん〜。どったの?」

「いや、暇だったんですよ〜」

 

 なんて言いながらこっちに近付いてくる。


「暇?城周りはもう終わり?」

「はい、それにしても広いですね〜」


 魔王城に住む人間はざっと三千人。ものすごく少ないが、今は徐々に増えている。

 それなりに、人が快適に暮らしていける設備も整っているし、そして広い。

 各所に転移魔法、要するにワープポイントみたいなものもあるので別に不自由は無いけど。

 

「暇だったら俺の部屋に行けば?ゲームとかあるよ」

「あ、は〜い。借りま〜す」

 

 ヒナは執務室から出て行く。


 魔王は、怪訝な顔をして、思う。

 ――本当に、何をしに来たのだろう?


    ◇◆◇

 

 結局、俺は勇者に負けた。

 いや、五分五分の力で衝突したのだが、精神的な差で俺が負けた。

 気付いた時、俺は仰向けでぶっ倒れて、アイツが馬乗りで俺の首に剣の刃を当てていた。


 あーこのまま死ぬのかー。

 まだやりたい事あったなぁー。

 そういえば俺朝ベッドメイクして無いや。

 途中のロープレとかギャルゲーとかやっときゃ良かったなぁー。

 あー今週発売の漫画最新刊たちよ、すまない。コンプは出来そうに無い。


 とか。

 一瞬で色々考えてあははやべぇ自分未練たらたらじゃんとか結論出して。

 

 だから、勇者の行動に感謝したのかもしれない。

 

 自分の唇と、相手の唇が重なる。


 いつもなら「kneg(これなんてエロゲ)ー!」なんて叫ぶ余裕もあったんだろうけどさ、もう頭ん中は困惑で一杯。

 でもすぐに、

 

 すぐに涙が出てきちゃって。

 

 生けているからか、初めて話を聞いてくれる奴が現れたからか。

 いろんな原因が浮かんで、

 結局俺自身が嬉しかったのかもしれない。

 生きている事が嬉しくて、

 理解してくれる奴がいたから嬉しくて、

 だから、自然と涙が出たんだと思う。

 

 

 しばらく唇を重ねていた。

 ように思える。

 時間がゆっくりと流れて、何分もキスしていたように思えた。

 後から聞いた話だと、ものの十秒だったらしいのだが。

 それでも俺は、時間が所詮人間の感覚である事を思い知らされた。

 

 やがて、アイツから唇を離す。

 

「魔王、いえ、貴方のお名前は?」

 名前、そういえば自分の名前を告げるなんて久しぶりだ。

 

「……秀兎(しゅうと)。秀の兎で秀兎」

 

「そう、……秀兎、……いい名前ですね」

 噛み締めるように呟いて、

「私はフリギア帝国第三皇女、ヒナ・ラヴデルト・フリギア」

 落ち着いた顔でそう言った。

 知っている。破魔の力たる《光》を宿す、奇跡の姫君。

 自然と目が合う。綺麗な、とてつもなく鮮やかな蒼の双眸と。

「……!」

 あれ、なんかすっごい紅くなった。

 ん? ていうか、こいつ、何がしたいの?

「わ、わた……!わたし、と……!」

 倒されて、キスされて、安心して、……ていうか、なんでキスしたの?なんで名前なんて聞くの?

「わたしと!」

 謁見の間に響く、上擦った声。

 ねぇちょっと待ってよ、もしかしてこいつ、えぇていうかマジで……!


「わたしと、結婚してください!」


 …………………………………………………………。

 えぇ〜マジで〜…………。

 

    ◇◆◇

 

「的な感じだった訳よ」

 事の顛末を、秀兎は説明していた。

 やっと机仕事(デスクワーク)が終わり、「自由だぜヒャッホウ!」

 と、思いきや「秀ちゃん結婚するの〜!?」

 と、待ち伏せされていて開放五秒で自由は散ってしまった。

 今は自分の部屋。ヒナは居なかった。


 しかし、捕まった相手が悪かった。


「へぇ〜。ヒナちゃんってカワイイんだねぇ!」


 小学生がゴロゴロしている。

 いや実年齢は小学生じゃないんだろうけど見た目がね。

 桃色の、珍しい色の髪を、腰まで伸ばした少女は言う。


「わたしも早く会いたいなぁ」


 彼女の名前は紅葉。魔王城技術開発部のトップ。IQ三〇〇らしいよ。


「ゴロゴロするな、埃がつくぞ。今日はまだ掃除機かけてないしって本棚の本をバラバラに並び替えるな!直すの俺なんだぞ!」

 行動はそこらの小学生と変わんないのが不思議だ。

「テメェ俺のクローゼットを漁るな!」

「これ何?」

「それ靴下!」

「これは?」

「それパンツ!勝手に漁るなって!におい嗅ぐなぁぁぁぁぁ!!」


 散々漁り中身をぐちゃぐちゃにしてから、紅葉は「あはははは!」と部屋から出ていった。


「ちくしょう、台風一過みたいな惨状だ」

 と、

「そうそう」

 紅葉が入り口から頭だけを出していた。

「また来たの!?」

「ヒナちゃん、今何処?」

 ……なんだ良かった。

「んー、そういえば。あー、アイツなら今は中庭にでもいんじゃないか?」

「なんで中庭?」

「あそこは花とか沢山あるだろ?アイツ帝国に居た頃から花を愛でるって有名でさ、だから多分中庭……」

「わかった!あとヒナちゃんは御妃候補なんだから沢山お話しなきゃ駄目だよ!」

「してますよー」

 そう言って、紅葉は走り去っていった。



 ……そういえば。


 アイツが中庭に居て大丈夫なのだろうか?

 魔王城の中庭は、ただの中庭とは訳が違う。

 噴水を中心に色とりどりの花壇が円状に展開し、噴水から溢れ出る水は中心から周りへ出ていくように細い水路を流れるのが魔王城の中庭の基本構造だ。まあ外見はそこらと違わないだろう。

 

 しかしこれは、即座に百通りの広範囲戦略魔法を展開する為の魔法陣でもある。

 

 例えば、今魔王城に周囲に展開されている霧の魔法。

 外の人間をここに立ち入らせない為の魔法は、中庭の陣が作動している為、半永久的に展開され続ける。

 この防衛の魔法陣を、即座に攻撃の魔法陣に切り替え、フリギアの帝都に遠距離攻撃仕掛ける事が可能だ。それも一回で街が無くなるくらいの強力な攻撃魔法を、だ。

 しかし、

 

 そこに全てを破壊する《光の姫君(アイツ)》が居ていいのだろうか?

 

 どれだけ精密で高性能な機械でも、チップ一枚足りなければ簡単に崩壊する。

 魔術にも同じ事が言える。

 どれだけ強力な魔術でも、何かしらのイレギュラーがあれば簡単に崩壊する。


「それはありませんよ陛下」

 

「ん?」

 いきなり声をかけられた。思考を読めれていた。

 別に驚く事じゃない。ドアはさっきから開きっぱだったし。

「ああ、シャリーか」

 ドアにもたれかかっていた黒髪の少女は、妖しげに微笑む。


 魔術師団《団長》、中庭迎撃魔法陣の管理人、シャリー・クシャー。


 こいつなら、何かしらの魔術で人の思考を読む事も可能だし。

「あの子、自分の力を抑え込める呪具か何かを付けてるみたいですから」

「…………まぁお前が言うんだから大丈夫なんだろうけど、あと陛下って呼び方やめてくんない?それで呼ばれるとなんか背筋がくすぐったいというか……」

「駄目。公私は使い分けるのが私流」

「ふーん、ま、いいか。……て、何か用?いっつも研究室に引きこもってるくせに」

 いつもは寝間着みたいな服装で魔道書と羊皮紙にかじりついてる筈なのだが、今日はどっかの式典に行くかのようにきっちりした服を着ている。

 珍しい事もあるもんだ。

「あー、やっぱり忘れてる」

 シャリーは肩を竦める。あ、これ俺が馬鹿やった時にとる対応だ。


「今日は陛下のお母上様に会いに行くのでは?」


 …………………………………………………………………。

「………………………ヱ?」

「だから、今日は午後から転移魔法を使って隠居されたお母上の下にいくのでは?」

「………………………なんで?」

「…………御妃候補の件ですよ。昨日連絡しといてくれって言ったのは魔王様ですよ?」

 え、あ、そうか。娶るかどうかを母さんに聞きに行くんだった。……って、ん?

「今何時?」

 嫌な予感が背筋をくすぐる。


「……午後二時。約束の時間から、完璧に一時間オーバーです」


 …………………………………………………………………。

「あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」


 完璧に、完全に、俺の死刑が、いや死刑とまではいかないが、無事では帰れない事が、約束されてしまった。


次回、女王様(姑)、降臨。

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