拾八.最強の母の母は最凶。
魔王の教室。
女王の教室みたいだなぁ〜。
日本は元々、前科や様々な理由で社会復帰、日常生活が出来ない人達が集まり、暮らしていた本当に小さい集落だったそうだ。
そして、それが今から八十年前。正確には八十二年前。
そのたった八十年で、日本は帝国に匹敵する『暮らし』、『国家的地位』を得る。
その時の先導者が、『黒宮雪魅』。俺の祖母である。
日本を引っ張り、『集落』から『国』に変えた、超人女性。
その祖母が創った学校が、我が母校である。
――黒月学園。
中高一貫。広大な敷地。来る者拒まず。
有能な人材をいくつも輩出してきた、日本で最も有名な学園だ。
◇◆◇
一年十組。それが魔王の教室。
黒宮秀兎。学園長の孫であり、現生徒会長の弟。ちなみに現在生徒を牛耳っているのは美烏だ。生徒会の権限を増やしまくり、職権乱用も良い所な活動をしているのです。もうアイツが魔王でもいんじゃね?と思う位の暴虐ぶりだ。
まぁそれはおいといて。
黒宮秀兎は、右手で両方のこめかみを押さえた。
眩暈がする。
本格的に、眩暈がする。
目の前の光景が、ぐにゃりと歪む。
何でだろう?本当に、何でなんだ。
「……………………」
目の前の、俺の前と右斜め前の悪友たちが超騒ぎまくってる。
「なぁ秀兎!見ろ見ろ!見なきゃ損だぞ!」
「いいな〜。あんな子に好かれてみたいっ!」
ああ、そうだね、可愛いね。
「あ!あ!こっち見た!ぜってぇ〜俺見てくれたよ!」
「俺!俺!あの子に詩書いちゃう!」
ちょっとそれ恥かしくない?もう気持ち悪いよ?
と、そんな感じの突っ込みも入れる事が出来ない俺は、げんなりとした顔で前を見る。
そこには、
そこには『金髪』で『童顔』で『蒼い瞳』の人が立っていて、
あれ?この人めっちゃ見覚えあるわ〜って感じの人が立っていて。
その人を連れてきたくそったれ教師が、
「は〜い『転校生』は女の子でした〜。おめでと〜野郎共、残念でした子猫ちゃん達〜」
と、ちょっときいたことあるわ〜な発言をする。
そして、
そしてその転校生は、
「今日からお世話になります、『白宮』ヒナです!皆さん、よろしくお願いします!」
あああ、何で居るのぉぉぉぉぉ〜…………。
◇◆◇
「そっか白宮さん帝国から」
「はい、貴族の父が死んだ為に向こうでの生活に問題が……」
なんて、ちょっと悲しいよみたいな顔をした瞬間。
「きゃぁぁぁぁかわいいぃぃぃ!!」
と女子から黄色い声が上がり。
「えぇ白宮さんて魔法つかえるんだぁ〜」
「えぇ、特に治癒系魔法は得意です」
「僧侶みたいだねぇ〜」
「淑女たるもの、男性をサポートするのが使命ですから」
なんて、嬉しそうな顔をした瞬間。
「されてぇぇぇぇぇぇ!!」
と男子から奇声が上がり。
とにかくヒナが大人気だ。
「……はぁ……………」
そんな、自分の嫁の人気ぶりを遠巻きに感心していると、
突然、真っ黒な物体が視界に入ってきた。
「うお……」
「自分のお嫁さんが大人気で嫉妬ですか?」
シャリーだ。真っ黒な、艶やかな髪のロングを、無造作に流している。あれだ、海坊主だ。陸地に生息する海坊主だ。
「お前、折角の顔がそれじゃ見えねぇぞ……てこれ俺何回言ったけ?」
「さぁ?私よく言われますし、一々数えてません。で?で?秀兎はやっぱり嫉妬してるんですか?」
と、黒髪の間からキラキラ光る目に、ちょっとうんざりしながら、
「あのなぁ、俺はそういうのしません。俺に独占欲なんて、あると思う?」
「……ありませんねぇ」
まぁ、大半の人生を一緒に過ごしたこいつなら、そう言うだろう。
「欲と言っても旺盛なのは主に『性欲』『睡眠欲』『食欲』『だらけ欲』ですかねぇ」
ん?
「ちょっと待ってよ。何?俺そんなに性欲旺盛じゃないよ?」
しかし、シャリーはにやりと「しめた」という様な顔になって。
「じゃぁ棚の中のエロゲーは捨てる方向で」
グハッ!?
「待って!それだけは!エロゲーって言っても泣きゲーとかもあるから!結構感動するよ?だからやめて!」
「泣きゲーですか。まぁそれは私もやりたいので免除しますが、……そうですねぇ〜『飼い主日記』と『宮殿の悪魔』はぼつですかねぇ〜。結構歪んでますし」
「あー、あれは俺もさんせ〜。『飼い主日記』は主観が女のマゾ向けだし、『宮殿の悪魔』はバッドエンドが多すぎるしな〜。全滅エンド、国崩壊エンド、殺戮エンド、ヒロイン殺しエンド、主人公死亡エンド、主人公がヒロインに殺されるエンド、その他。まぁハッピーエンドも大して感動できなかったし別にいいよあんなクソゲー」
「ですよねー」
……ん?
「……なんで知ってんの?なんで内容知ってんの?ていうか何でそれがある事知ってんの!?」
「ははは、それは乙女の秘密って奴ですよ」
「コワッ!乙女の秘密コワッ!……ていうか何?人が居ない時に無断で部屋に入って物色するってどういう事?」
「乙女の秘密がばれた!?」
「いや大体想像が付くでしょ……」
「まぁ無断で入ったり無断で物色したのはすいません。まぁいいじゃないですか、ほらアレですよ、幼馴染の特権」
「だから俺の小説の位置も知ってたのか。納得納得、……と行きたい所だけど念のため聞いておこう。他には何もしてないよな?」
「すいません、パンツの匂い嗅ぎました」
「大胆告発ぅぅぅぅ!!」
「ははは、残念な事に洗い立てパンツでした」
「いや俺放置とかしないし……」
「今度はゴミ箱の中身でも嗅いでみようかと……」
「止めてぇぇぇぇ!……ていうか何?何がしたいの?幼馴染だからってそういうことしていいの?」
「はっはっは」
と、ひとしきりバカ話して、
「…………ははは」
「…………ははは」
と、二人で笑って、
「……とりあえず、学園長んとこ行こうぜ」
恐る恐る、提案する。
「ですね。あの人、今回は何を考えてるんでしょうか……?」
心なしか声が震えてるぜ。
「わからん。でもきっとおかしな事だ」
「……『遺伝』って言葉知ってます?」
「……当たり前だろ」
あー、うん、そうなんです。
もうほんとに悲しいことに、
学園長は母の母のなのだった。
◇◆◇
母の名前は、『黒宮・竜輝・レイア』。
俺の祖父(先々代魔王)が、ややこしい事に『レイア』の名前を付けたのだ。
なんでも、『レイア』という言葉には『神秘』『穏やか』なんて意味があるらしいのだが、まぁ知ってのとおりでそんな言葉はあの人には身につかなかった。
そして学園長室前。
超小声で話す二人。
「シャリー、マジで行くの?」
「陛下をみすみすこんな危険地帯に行かすわけにはいきません。とりあえず、私から入ります」
なんかシャリーが公私の公なモードになり、王様思いの良い部下になっている。
「気をつけろ。あの人見境無く襲ってくるから。捕まったら最後かもしれないぞ……」
「分かってますよ……」
コンコンとノック。返事はすぐに返ってきた。
「どうぞ〜」
その声に、二人の背筋を、「ぶわりっ」と得体の知れない何かが走る。
「し、失礼します!」
震えながらも、ドアノブを回し、ゆっくりとドアを開け……
ドゥン!!「べぶぅッ!」
そんな音を聞いた瞬間、シャリーの姿が消えた。
いや、良く見たら丸い鉄球が腹に直撃したシャリーが真後ろに吹っ飛んでいた。
「!!??!??!?!!」
戦慄。
「あれ〜?ほんとにシャリーじゃん。っかしぃな〜確かに秀兎の気配だったのに……」
と、到底齢八十を超えてもいなそうな女性の声が聞こえる。
「おーい大丈夫かシャリー。すまんすまん!」
ぺたぺたぺたと、変な足音が聞こえる。
「!!!!!」
あ、
「なんだいるじゃぁ〜ん」
と、ドアから出てきた『鬼』が言う。
無邪気に笑って、そして邪悪に笑う。
「ははははは。二人とも、来い」
シャリーがふわりと浮く。そのままふよふよと学園長室に引き擦り込まれる。
「や、やだぁぁぁぁああああ!!!!」
そんな声も、聞いてくれる人はもちろんいる筈も無く……。
程なくして、
『ぎゃぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!!!』
断末魔が、響き渡るのだった。
と、言うわけで、次回から楽しい楽しい学園生活が始まる、かも知れない☆
まぁぶっちゃけ不幸な出来事書いていく予定です。