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拾六.他愛無い《約束》。

さぁ無人島さようなら。

やっとこさ終わりです。

 

 帝国には、最強と呼ばれる『騎士』が居る。

 『最強の勇者』と、同等の、いやもしかしたら勇者よりも強いかもしれない。

 ――クレス・ヴォレス・エディア。

 経歴としては、帝国軍の一兵士から始まる。

 しかし、彼の実力はその頃からずば抜けていた。

 射撃、武術、殺人術はもちろん。

 作法、礼儀、常日頃から磨かれる騎士道精神。

 

 そして、彼は『軍』から『騎士団』に移り、全ての騎士に挑み、勝つ。


 あっという間だった。

 彼が移り、一ヶ月と経たない内に彼は頂点へと登り詰める。

 彼は天才だった。武人であり、その上頭も回る。

 

 

 しかし、彼を唯一負かした存在が居る。

 


 エルデリカ・ヴァーリエ。魔王城一の『女騎士』。

 彼と彼女は二人だけの決闘を行った。


 結果、彼は負ける。


 常軌を逸した戦術も、卓越した戦略も、彼女は赤子の手を捻るように、叩き潰した。

 たった、『六歳の女の子』が、帝国最強の、『十七歳の少年』を負かした。 

 

 そして、 


 その最強の、『世界最強の騎士』であるエルデリカ・ヴァーリエは跪いている。

 

 『世界最強の騎士』は、『魔王』の前で跪いている。

 

「えええええぇぇぇぇぇ!!!!」


 ヒナはそう叫ぶ。

 

「んぁ?どした?」

「…………」

 

 ヒナは、エルデリカの顔をジーッと凝視し、

 

「えええええぇぇぇぇぇ!!!!」


 また叫ぶ。


「い、意味のわかんねぇ叫びを……」

「だ、だって、あの帝国最強の騎士を倒したのが、まさか女の人だったなんて……」

「…………あぁ、そういえばそんな男がいましたねぇ」


 と、エルデリカは無表情のまま言った。


「勝ち組宣言?」

「……勝ち組宣言、……うまい。いただきます」

「…………え?な、何が?」

「気にするな。いっつもこんなんだから」


 なんか、ちょっと変わった人だ。

 

「ところで陛下。何故、帝国の姫君と……?」

「……ん。えっと、こいつは、……あー、なんて言うの?改めて言うの恥かしいな、ちょっと察して」

「そんなんで伝わるん……」


「察しました」


「伝わった!?」


「要するに、陛下が攫ってあれちょっと責任取らないといけない状況になってしまったと」


「はーい察してないねー」

「…………」

「ではちょっと襲ってしまい洒落にならない状況になってしまった?」

「はいちがーう」

「では、うーん、少し面白くないですけど、陛下が彼女に一目惚れ?」

「うーん、違う……」

「ではどう言う事ですかぁぁぁぁあああああ!!!」


 と、彼女は目にも止まらない速さで魔王の懐に飛び込み、拳を振り上げていた。


「あやっぱりねぇぇぇぇぇえええええ!!!!」

「…………」

「では、どういう事なのですか陛下!?陛下が襲ったんでしょう!?陛下が攫ったんでしょう!?でなければこんな可愛いお姫さまが陛下の傍に居るはずが無いじゃないですかぁぁぁああ!!」


 と、無表情の顔が、もうなんて言うの?うーん、まぁ怒っている顔になっているよ。


 て、何?何この人?え、陛下って王様でしょ?いやもう王様に対する態度じゃないし、そもそも暴力を振るって良いんですか?

 ていうか、この人なんで怒っているの?ちょっと、訳分かんないよ?

 ほんと、何がしたいの?


 エルデリカは、魔王の首を絞め始まる。


「で、どういう事なんですか?なんで、陛下みたいな役立たずの、間抜けの、万年ボケボケでやる気の欠片も無い陛下の傍に、こんな可愛いお姫様が?」

「うっ……、ちょっと…………、苦しいん、…ですけど……?」

「それが何か?」

「……え、……俺魔王なんですけど……?」

「それが何か?」

「……ちょっと、……ほんとに、苦し、マジで……!」

「そ れ が な に か ?」

「あうぅぅぅ…………」


 あ、魔王の顔が青ざめてきてる。ちょっとやばくない?


「……ぁ、……ぁぇ…………」

「ちょ!これは少しヤバイですよッ!」

「む、ヒナ様。いいのです、これは天罰なのです」

「いやいや貴方彼の部下でしょう!?殺したらヤバイでしょう!?」

「……まぁもう飽きてきたので開放しますが……」

「……あふぅ…………」


「まったく、私というものがありながら、こんな可愛いお姫様を傍に置くなんて……」


「……ヱ?」

「まっ!誤解を招く言い方をすんな!……あ、あれ?ち、違うよ?こいつとはなんとも無いよ……?」


「あの熱い夜の事を無き物しようとするのですか!?」


「……(ブチッ)」

「また誤解を招く言い方を!違う、こいつが言っている事はお前の思っている事とは違う!」


「ああ、あんなにも激しく『攻めて』きたのに……」


「『責めて』……?」

「違う!お前の言っている『責め』とアイツの『攻め』は絶対違うッ!」


「やはりやりあきれば捨てるのですねッ!!」


「犯りあきれば捨てる……?ほぉぉ、お話を聞きましょうか?あ、その前に少しボロ雑巾になってもらいますけどねぇ?」

「違うッ!アイツが言っているのはけっ「言い訳無用ッ!!」ぶぅ!ちょ、ま、やめ……!」


 その光景を見て、エルデリカは、少しだけ、唇の端を曲げる。面白そうな顔になっている。

 

 それだけで、もう秀兎は泣きたくなった。また、自分をいぢめる奴が帰ってきた、と嘆いた。



 ◇◆◇



 ちなみに、エルデリカの言っていたのは『決闘』の話である。



 ◇◆◇



 まぁ、何とか誤解も解け(俺がボロ雑巾になったが)、今はのんびりとした雰囲気が流れている。


 シャリーが頑張ってくれたおかげで《門》との接続は完了し、ここには魔王城の人間がちらほら居た。

 夕日が、もうすぐ沈む。

 夜になる前に、帰ろう。


 そう思っていると、隣にエルデリカが居た事に気付く。


「……どした?」

「…………」


 無言モードの彼女の表情は、しかし、少し、いや幼い頃から一緒に居た秀兎たちでしか分からないほど少し、哀しそうだった。


 魔王は、察する。


「……ヤバイ感じ?」


 彼女は首を縦に振る。


「……今は、大丈夫?」


 彼女は首を縦に振る。


「……話してくれ」

「…………」

 

 少し、悩み、そして、彼女は魔王に『それ』を話す。


「………………」


 彼の耳元で、彼にしか聞こえない声量で、『それ』を言う。


 そして、


「…………」


 魔王は、悲しそうな、もうホントに泣いてしまいそうな顔をする。


 『それ』は、悲しくなる報告だった。

 

 『それ』は、聞きたくない報告だった。

 

 胸が、心が痛くなる。


「…………」


 『それ』を聞くだけで、ちょっと未来が見えた気がする。


「…………」


 と、そこでヒナが駆け寄ってきた。


「んぁ?どったの?」


 と、秀兎は聞いてみる。


「秀兎さん」

「ん?」

「呼んでみただけです」

「なんだそりゃ」

「あはは」


 笑う。もう沈む、夕日に照らされた顔が、笑う。

 つい見惚れてしまう。物凄く元気そうな、傍に居るだけで元気を分けてもらえそうな笑顔を見て、つられて笑う。


「ははは」


 彼女は、自分を好きだという。自分に愛を捧げると言う。

 勇者と偽って俺に会い、そして勢いで結婚して、今日はデートに来たはずだった。

 それが、こんな無人島に着いてしまって、勇者が来て、それで、こんな凶報まで来て。

 

 それは全部、俺の所為だ。


 不幸を背負って歩いていかなければならない、俺の定め。

 その所為で、彼女は不幸になるかもしれない。

 そう思うと、心が痛い。


「なぁヒナ……」

「はい?」


「お前はさ、なんで俺の所へ来たの?」


 聞いてみた。彼女が傷つくかもしれない事を、聞いてしまう。


「…………」

「こんな『見ず知らず』の、化けモンの所になんで来たの?」


 彼女が、少しだけ、傷ついたのが分かった。

 彼女の顔が少しだけ、歪んだから。

 彼女が、悲しげな顔をしたから。


「もう、逃げるなら今の内だよ?きっと後悔するよ?あぁ助けてくれって。もう、ほんとに後悔するよ?逃げるなら、……離れるなら、今の内だよ?」

「…………」

「後悔しても、俺は助けられないよ?そんでもって、誰もお前の事、助けられなくなるかもよ?」


 なんて馬鹿なんだろうと思う。これじゃあ、救って欲しいって、助けてくれって、バレバレじゃないか、と秀兎は思う。

 それでも、きつく言ったら彼女の顔がもっと歪みそうで。

 きつく言ったら彼女がどこかへ行ってしまうんじゃないかと思って。


 結局自分は弱虫だ。弱くて脆くて、寂しがり屋の、化け物だ。


 彼女の泣く顔は、あんまり見たくないな、と思う。

 彼女の泣き顔が、するりと、心の中に入ってきそうで。

 彼女の泣く顔が、脳裏に焼きつきそうで。


 だから、彼女の泣き顔は、あんまり見たくないと思う。

 


 でも彼女は泣いた。



 ぽろっと、涙を流した。


「あー、その、ほんとゴメンね?マジで……」


 分かってた事なんだけど。

 十分予想してたんだけどね。

 でもちょっと聞いとかないといけないんだよね。

 

 と、あーあみたいな事になっているのを他所に

 

「ふわぁ、眠い…………」

「……あれ?」

「欠伸我慢したら涙出ちゃいましたよ〜」


 とか言う。


「え?マジ?え、俺、ちょっと深刻な話してたんだけど……?」

「私は眠いですねぇ〜」


 また欠伸する。

 

「ねむ?いや、俺も眠いけどね……?て、聞いてた?俺の話、聞いてた?」

「聞いてましたよ?僕ちん化け物なんだけど離れないで〜みたいな事を言ってたような……?」

「え、何その解釈……?つうか、性格がどんどん酷くなっていってない……?」

「あ、酷いですね〜。私だって最初は清楚で純粋な乙女だったんですよ?まぁ周りがアレなんで……」

「ま、まぁ環境は大事だよね……。で、聞いてたの?」


 彼女は、肩を竦めて、


「………………はぁぁあああ〜」


 と、溜息。


「な、なんでそんな盛大な溜息を……?」


 彼女は、意志の強い、蒼い双眸で見詰めてくる。


「私は逃げませんよ」


 一言、そう言う。


「私は逃げませんよ?私は離れませんよ?私は、裏切りませんよ?」


 ああ、また、『罪』が大きくなる。


「…………そう、誓いましたよ?」


 心がイタイ。


「…………ぁ」


 魔王は、少しだけ呆けて、それで、

 

「また……」

「?」


「また、デート行くか……。今回台無しだったし」


「……、はいっ!」


 また、《約束》。二人の《約束》。他愛も無い《約束》。


 少しだけ、心の、痛みが、増して、和らいだ。そんな気がした。

さぁさぁ次回は〜学校へ行こうMAX〜!!

学校での魔王はどんな感じ?ん、いつもな感じ!

てわけでとりあえず不幸な一日を書こうかなぁ〜と、思っていたりいなかったり。

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