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拾伍.魔王と勇者は友達になれない。

 

「は!くぅ!でやぁ!」


 首、突き、横薙ぎで胴、立て切り。

 

 胴、突き、胴、突き、足、切り上げ、斜め切り。


「はぁ、たぁ!ふっ!」

 

 勇者は焦っていた。

 勝てないのだ。魔王に。

 帝国最強の筈の自分が。

 千の魔物を屠ってきた自分が。

 

 まるで歯が立たない。

 

 自信があった。自負もあった。全てを自覚し、変え、強くなった筈だった。

 

 しかし剣が当たらない。

 

 魔王は、剣を剣で防ぎ、避け、流し、それでいて未だに攻撃してこない。

 絶望的だった。

 勝てないと裏付けられていく。

 

 しかし、


「はぁぁぁぁああああ!!」


 倒すと、誓った。だから、当てるッ!


「え、ちょっと、ペースが上がって……!」


 魔王が、初めて慌てて見せた。

 勇者には、これが勝機に見えた。


「たぁ!はッ!とうっ!」


 ドンドンペースを上げる。

 

「くっ……!げっ……!」

「くはぁっ!」


 もうスタミナも限界だ。もう剣もぶれて来た。

 しかしッ!

 

「ちょ……!ヤバイッ!」

「でやぁぁッ!」

「く……っ!」

「とぉおあっ!」




 そして、




 ブスリッ。と、


 もうホントに呆気無く。


 《悪魔殺し》が、刺さった。


「ちょ……!うそーん……」


 ガフッ、と魔王が吐血。


「……!?」


 勇者は、少し呆気にとられたが、しかしすぐに我に返る。

 もちろん、これだけでは終わらない。終わらせない。


「ルイン、レリズ、ディメナス」


 呪文だ。《悪魔殺し》が、邪龍から奪った、《力》を発動する為の、呪文だ。


「あ、やばッ!」


 ピシッ!と、魔王の身体に『亀裂』が入る。

 その亀裂が、全身にまで入って、魔王が焦る。


「あぅ、うそぉん……」


 とか言って、その亀裂から、真っ黒な光が溢れ出す。

 もうすごい量の光の線が、魔王から溢れる。


 そして、





 ドカンッ!!と、





 爆発した。


 魔王が爆発して、黒い欠片となって、散り散りになった。  

 その欠片が、夕日を反射させ、ちょっと幻想的な光景になる。

「……倒したのか?」

 そう呟く。

 

 魔王は、……死んだのか?


 少しだけの不安を残しながら、全身の力が抜けていく。


 無理だ。もう限界だった。


 ◇◆◇


 勇者の手から、《悪魔殺し》が落ちる。

 

「…………」


 長かった。酷く永い戦いで、もう身体は疲れきっていた。

 ドサッと倒れる。もう、立つ力も残っていない。

 

「…………」

 

 眠い。目を瞑れば、そのまま眠れそうな程、眠い。

 しかし、そんなぼんやりとした頭で勇者は考える。

 魔王の事。

 姫の事。

 自分の実力、身の程。

 これからの事。

 帰ったら英雄扱いか、とか、本当に皇帝になれたりして、とか。

 そんな、


 そんな『淡い希望』にすがるほど、心身ともに疲れ果てていた。


 と、急に、身体が、本調子とは言えないほどだが、軽くなる。

 すぐに、ミズキの治療魔術だと分かる。

 

 ゆっくりと、顔を上げてみる。そして、その光景に、

 

「だよなぁ……」

 

 と、呟く。


 そこには、ドカンッ!と爆散した筈の魔王が立っていて。

 

「はっはっは〜。まだまだだね勇者クン」


 とか言い出す。


「うわその台詞うぜぇー」 


 負けじと、軽い調子で言う。


「つかもうホントに化けモンじゃねぇか。《邪龍の力ディスメサイア》使っても倒せないとか、マジどゆ事?」


 もう敬語も必要無いと思うほど、予想通りの結果だった。


「実はアレは俺の影分身クンでした〜」

「え゛ー。影分身卑怯だろ。こっちは無駄に体力削られたのに……」

「実は勇者クンの動きをコピーしました」

「うわぁ、卑怯すぎるー」

「でもおかげで分かったよ、帝国最強の勇者はクソ強くて化けモンみたいだって事が」

「俺も分かったよ。魔王ってのがどんだけ厄介な奴か」


 やけに人間臭くて、そして化け物みたく強くて頭が良い。


「おまけに害意が無い。敵意が無い。殺意が無い。そして悪意が無い。もうイメージがまる崩れだ」


 しかし、魔王は少し哀しげな表情になる。


「……ははは、いやまぁ良かったよ。誤解が解けたみたいで」

「そうだな。なんかもう超誤解してたわ。すまん」


 そう言って、勇者は握手を求めた。

 

「あやまんなって……」

 

 魔王が、その握手に応じ、二人の間に友情が、









 二人の目が、ギラリと光る。








 

 芽生える筈も無く。


 ドガァッ!と、互いの拳が、互いの顔面にめり込む。

 

 しかし止まらない。いや止まってはならない。もう戦いは始まっているのだから!


「ふざけんなよテメェ!何ディスメサイア使ってんの!?こっちは分身じゃなかったらホントに死んでぶぅっ!!」

「ざっかしぃわアホ!こっちは生身の人間なんだぞ!!もう少し手加減ぶぅぅ!!!!」

「手加減!?あんな化けモンの剣技で手加減なんて出来るわけなっぼぅ!!!!」

「ふざけんな死ね死ね死ね!!」

「オラオラ!この、化けモンがッ!!クタバレッ!!」


 クロス、クロス、クロスクロスクロォォォォス!!!!

 

 自らの命を賭けた渾身の右拳。左手は離さない。

 

 ギャーギャー。ギャーギャー。


 ドカッ!ガンッ!ゴキィ!ドカドカドカッ!


 ギャーギャー。グワワワワワッ!!


 ゴキィ!バキィ!ドガドガッ!ガツガツガツッ!!

 



 と、意地の張り合いの戦いは五分ほど続き。


 


「く、クソが……」

「な、なかなかやるじゃねぇか……!」

「勇者のくせに……!」

「魔王のくせに……!」


「「生意気だぁぁぁぁあああああ!!!!」」


 もう、ほんとにホントに振り絞った力と力が、ぶつかり合うッ!!


 そして二人は、燃え尽きた。


 ◇◆◇


 ちなみにどうして誰も突っ込まなかったのかというと、皆サンドイッチとか食べてて、よくある女子同士の話に花が咲いていて突っ込むのがめんどくさかったからです。


 ◇◆◇


「んじゃ行くわ」


 と、勇者は言う。もう何だかんだで、いい時間なので、基本的に良い子良い子な勇者は言う。


「帰れ帰れ」


 と、魔王は言う。何だかんだで、勇者はいい奴っぽいのだが、アイツとは仲良くしていけそうにないなぁ〜とか思う魔王は、言う。


 と、そんな二人に近付く人物が一人。


「…………」


 エルデリカだ。


「どした?」

「…………」

 

 エルデリカは、無言で紙を差し出す。


 その紙には『じひょー』、と書かれていて。


 それに、勇者が少し顔をしかめる。


「…………」

「…………」


 無言で、二人は、目で語り合い。


「…………」

「……分かった」


 と、勇者が言う。

 

「と、言うわけでエルデリカを置いていくわ」


 と、早口で言って、転移魔法で消える。


「え、ちょっと……」


 ヒナは言うが、もうその声は届かない。


 ヒナには、意味が分からなかった。


 ◇◆◇


 で、置いていかれたエルデリカは、真っ直ぐに魔王を見詰めている。

 魔王の横で、ヒナはますます頭を悩ます。

 魔王は、無言。


「…………」

「…………」

(なんだろうこの沈黙は……)


 ちょっと考えてみる。

 

 なんで残った?

 魔王に用がある?

 それは勇者にも見せられないような物?

 だから一人残った?

 その『用』は?


 ちょっと可能性を考えてみる。


 1.復讐。「貴様の所為でぇぇ!!」「グワァァァァ!!」 

 2.実は友達。「やぁ!」「久し振り!」

 3.実は……。「あの、わたし、実は貴方の事が……」「な、何この展開……!?」


 うん、3は無いね。うんうん、無いよ無い。絶対無いッ!

 と、否定したいけど戦ってる時の魔王ちょっと格好良かったなぁ〜とかもしかしてそれでフラグがッ!?と自己完結してしまう。

 

(ま、まぁ3は置いておいて……)


 2は、ありそうだ。魔王は、秀兎はあれでも高校生な訳で、その、学校の友達でした〜とか、ちょっとありそうな……。

 

(ないない、そんなゲームじゃあるまいし。帝国最強の勇者の仲間が友達ってのは……。と、言う事は1……)


 実は、ちょっとやんちゃな時期があって、その時の被害者さんでした〜。


 うーん。でもこれはちょっと……。

 ここ十数年。街が潰されたり、とかそんな感じの被害は出ていない。何処も彼処も平穏無事、そんな大災害は起きていない。

 

(じゃあやっぱり3が!?)


 うん、たしかに、戦っている時の彼は、ちょっと格好良かった。

 あの化けものみたいな勇者と、余裕ぶっこきの表情で戦っている姿。

 ミズキに欠点を指摘していた時の姿。

 おどけている時の姿。

 

 うぅ、たしかに格好良かった。


 だとしたら本当に3か!?

 実は、実は一目惚れですとかッ!?

 あわわわわわっ!


(どどどど、どうしようっ!?)


 え?もうこの人、ほんとに綺麗なんですけど?自分じゃ、まるで勝ち目無いよ?

 

 とか思っているうちに、そのめっちゃ美人なエルデリカさんが魔王に近寄る。


 えええ、ちょっと待ってぇぇぇ!とか思ってももう遅い感じ。

 二人は、無言で、エルデリカさんは、無表情で、魔王は、ちょっと優しげに微笑んでいる。

 つうか何?何その微笑み?ちょっと、ちょっとえええええ?



 と、ヒナの思考が暴走している内に、



「陛下……」


 彼女は、彼を呼んだ。


 彼女は、確かに、魔王の事を陛下と呼んだ。


 『魔王』ではなく、『陛下』と呼んだ。


 その一言で、ヒナの思考が、カチリッ、ていう感じで切り替わる。


「え……」


 かなり冷静な、それでも動揺した頭で、考える。

 

 普通の人なら、彼を『陛下』と呼ばない。『魔王』と呼ぶ。

 『陛下』と呼ぶのは、そう魔王城の人間くらいだ。 

 だから、結論的に、彼女は……。


「騎士団団長、エルデリカ・ヴァーリエ。只今戻りました」


 そう言った。


「ん、お帰り」


 魔王は、そう言った。


 で、ヒナは。


「えええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 そう叫んだ。

デートのはずだったんですけどねぇー。

そんな展開は、あんまり無いみたい。ちょっと勿体無かったかなぁ。

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