拾四.でかさと強さは比例しない。
「炎よ!闇の者を死の業火で呑み込み給え!」
炎の、真っ赤な奔流が、もう川を流れる水のように大量に飛んでくる。
紅色の魔法陣。そこから蛇のように、ズバァッ!と炎が飛んでくる。
「ちょっとちょっと〜。的確じゃ〜ん」
完璧な、隙を突くタイミング。
勇者との絶妙なチームワーク。
的確なサポート。
強力な魔法。高い魔力。
おだてる訳じゃない。本当に、――ミズキだっけ?――彼女は強かった。
「はぁ!ふっ!たっ!」
胴。首。突き。それらの動作が、一つの流れで襲ってくる。
屑島コクト。十七歳という若さにして帝国最強の勇者になった男。
さっきから、物凄い剣技を見せてくれる。
いくつもの部位を狙った的確な太刀筋を、流れる様にやってのける。
「はぁああ!」
今度は首から始まる。
首を横薙ぎに、突き、腿を断ち切ろうと、足を切断しようと、脹脛の筋を絶つ為に、胴を分断、右腕を切断、右手を寸断、最後に両断。
物凄い速さだ。普通の人間ならば、彼と戦っては数秒で細切れになると思う。
普通の人間ならば。
だから、魔王は倒されない。
しかし、勇者は諦めない。
勇者が一度飛び退く。
「うわっ、ちょっと、炎がそこまで……!」
魔王が言えたのはそこまで。
炎が、魔王を呑み込む。
魔王が、炎に呑み込まれる。
「良くやった!ミズキ!」
「はいっ!」
勇者が褒めると、ミズキは嬉しそうに笑う。
しかし、緊張は解かない。
魔王が、これしきの事で死ぬはずがない。
彼女の知識が正しければ、彼女の知る魔王が正しければ、こんなに簡単に死ぬはずがない。
そして、炎が過ぎ去り、
「うぅー。もう少しで死ぬとこだった……」
魔王は、立っている。
「くっ……」
勇者が、少し辛そうな事にミズキは気付く。
(……押されている?)
魔王は防戦一方なのに?
勇者は本気だ。剣技を見ればわかる。
魔王は本気?
多分、魔王は本気じゃない。
「なんだっけ?ミズキ?君の名前」
「え、あ、はい。ミズキですけど……?」
いきなり魔王に話しかけられて、ミズキはちょっと動揺する。
「君何歳?」
「…………ナンパですか?」
いつの間にか起きていたヒナが言った。
「ありゃ、起きてたの?」
「ナンパですか〜……?」
「いやホントに強いな〜と思って」
「お褒めに預かり、光栄至極です」
「見たとこ、十六、七歳でしょ?」
「十六です」
「えっ!?同い年!?」
何故かヒナが驚いた。
「え、へぇ〜、同い年なんですか〜。ははっ、それにしても、お、おっぱいおっきいですねぇ〜」
「確かに大きなぁ〜」
「えっ?…………いやっ、あの……!」
慌てて胸を隠す。意味無いけどね。
「どうやったらあんなに胸が……」
「ヒナちょっと小さいもんね〜」
「はぅぅ……。確かにちょっと……」
ヒナがちょっと俯いて胸を押さえている。でもまぁ大きい方だよと後で言っておこう。
「で、話はズレたけどミズキさん。あ、やっぱ初対面の人はさん付けだよね?まぁなんでもいいんだけど……」
「はい?」
「本当に強いね。魔力は高いし魔法も多種多様だし、魔法陣の展開は速いし放つタイミング、勇者との連携プレー、もうすごいよ。あれじゃん?天才じゃね?」
やけに人間臭い仕草で、すごい褒められる。ミズキは、そんな魔王にどう対応していいのか分からず戸惑っている。
「今度戦う時はうちの魔術師団のトップを連れてくるよ。多分いい線行くよ」
そんな事を言うのだ。魔王は、褒め称えて、また戦いたいみたいな事を言うのだ。
その行動が、人間らしくて。
彼の仕草が人間らしくて。
ミズキは一瞬、緊張を解いてしまった。
「だけど、欠点が一つ」
しかし、魔王は、楽しそうな声で。
「命令形じゃない時点で、君は俺に勝てないよ」
魔法を放つ。
一秒もかからない魔法陣展開。色は紅色。
「炎よ、《巨槍》となりて敵を呑み込め」
炎系魔法。膨大な魔力。命令形。
ものすごい速さで、真っ赤な、ミズハの魔法とは比べ物にならない大きさの炎の奔流が、彼女に向かって放たれる。
ミズキは、緊張を解いていた所為で対応できない。
そのまま、ミズキは炎の奔流に呑み込まれ……
なかった。
「ぐっ……!くそっ……!」
勇者だ。勇者が炎を切り裂いている。
炎の奔流は、勇者の持つ《悪魔殺し》によって、二つに分断されていた。
しかし、炎は延々と、川の水のように続く。
「ミズキ!気を付けろ!来るぞ!」
しかし、その時にはもう遅く。
「残念だした〜。もう来てます」
と、後ろから声が聞こえていた。
そして、口に手を当てられていた。
「……!」
「いやぁ勇者くん。予想通りに動いてくれてありがとさん」
ミズキは、もう身体が動かなくなった。恐怖とか、その辺の感覚に動けなくなった。
でも、不思議と嫌悪感は無かった。
ちらり、と辛うじて見れた。魔王の顔を。
その顔は、もうホントに楽しそうで、想像していた感じの、狂ったような表情は無くて。
おまけになんか手から良い匂いがするなぁ〜とか、思えて、
でも恐怖で身体が動かなかった。
「えぇと、うぅ加減ムズ……」
魔王の指が、背筋に触れる。
加減……?
「雷よ、えぇと、こう……」
殺される……!
ミズキは目を瞑る。
「超弱めで彼女を気絶させて〜」
その瞬間、背筋から電気が流れ、ミズキは気絶する。
よろめくミズキを、魔王は抱きとめる。
「んじゃ、ちょっと待ってってね〜」
なんて良いながら、魔王はジャンプ。そのまま、ヒナたちが居る岩場の近くに降り立つ。
「あー!!お姫さま抱っこー!!」
なんかヒナが叫んだ。
「んぁー?どした?」
「いいな、いいな!お姫さま抱っこッ!!」
「え?いやこれは緊急的な措置であって」
「お姫様抱っこッッッ!!」
「うわコワァッ!!分かった!分かったからそんな獣みたいな表情で睨むなッ!」
「お姫様ダァァァァアアアッコッッ!」
とか言ってると、ドギャァン!という変な音が聞こえて、魔王の魔法が破壊される。
炎が、辺り一体に燃え移る。
「うわ、もう破壊された!速っ!ちょっとなんだっけ、アロマさん?この子頼んます!」
「りょ〜か〜い」
魔王は、ミズキをゆっくりとおろして寝かせる。
「魔王さんて、意外と紳士なんだね」
と、アロマが言ってきたので、魔王は笑う。
「母がうるさいもんで」
「あ、今の言っちゃお〜」
「なぁ!?待って!?それだけは!?」
アロマは、思う。魔王が悪い奴に見えない、と。
メチャメチャ人間臭くて、もうホントに人間みたいで、そして、今まで聞いてきた悪行なんかしそうに無いと、ちょっとだけ思う。
「ヤベッ!こっち来た!」
「行け行け秀兎さんッ!ゴーゴー魔王!」
また、勇者との切り合いが始まる。
「ねぇ、姫様?」
アロマは、何となく、本当に思いつきで聞いてみた。
「彼の事、好き?」
その言葉に、ヒナは即答。
「はい!もちろん!」
もう、本当に幸せそうな、屈託の無い、嬉しそうな笑顔で、そういうのだ。
ふぅ、なんとか投稿できました。
んで、もう一度「勇者嫁!」を読み直して「なんじゃこりゃぁぁぁああああ!!」と嘆き、改稿しまくる予定です!キャラとかは変わりませんが、新しい会話とかが入るかもしれないので気が向いたら読んでください。