拾弐.《約束》の彼。
すみませんでしたぁぁああ!!
二話投稿出来なくすみませんでしたぁぁああ!!
ヒナは、確かに感じた。
それは本当に、もうそれが何かもわからない物だったけど、
けど、ヒナは感じた。「頼もしさ」を、少女は感じた。
つい先月まで、帝国の城で遊んでいた姉たちは、皆同じ事を言う。
「魔王は悪。倒さねばならない」
城下の民は、彼をこう呼んだ。
「魔王は化け物。早く死んでしまえばいい」
敵意に侮蔑、嘲笑と憎悪、口を揃えて皆が言った。
心が、チクリとした痛みを感じる。
そんな戯言を、無視できるほど心が強くない。
それは、彼を信用していないから?……違う。
「違う。恐いんだ、私は……」
遠い昔、そう感じるほどに長い年月を過ごしてきた私は、未だに恐怖をはらえていない。
遠い昔の、二人の《約束》。そして起きた、《悲劇》。
圧倒的な力。二種一対の絶対的な《力》。
片方は《奇跡》と呼ばれ、もう片方は《化け物》と呼ばれ。
片方は幸運を、片方は不幸を、その身に刻んで、恐らく人とは比べ物にならない程の『長い道』を歩む。
呪いだ。全てを創りし《天空の主》の、呪いだ。
たまに、そんな呪いに自分が押し潰されそうになって。
彼も、同じはずなのに、それでも笑っていて。
二人は一緒で、約束を果たして、そして……、
「笑って、遊んで、いつの間にか好きになって、それで、それで……」
そんな、お姫様が思い描いた、良くある、普通の女の子の話は、
最初から狂っていて。
「…………」
ゆっくりと、膝を抱える。
「…………」
隣で寝転がる彼は、そんな狂った人生を、嘆かないのだろうか?
自分は、嘆いた。嘆いて嘆いて、もう嘆くのはやめようと思って、また嘆いて。
もう疲れて、そして、最後にすがった、二人の《約束》。
あぁ、恐ろしいほどの罪悪感が、自分に対する嫌悪感が、心を蝕んでいく。
蛇の様に巻きついて、締め付けてくる。
苦しい。
痛い。
あぁ、自分は卑しい。
彼を利用している?彼を、自分の物に?
裏切り者のくせに。図々しさは人一倍。
懺悔の時は、《真実》の懺悔は、まだ来ない。
いつかは来る。しかし、それが遅ければ遅いほど、《罪》は膨らんでいく。
自分はまるで、悪魔のよう。
彼を、私は腐らせる。私は、本当に腐っている。
「…………」
草が、花が生い茂る丘の上で、ゆっくりと流れる雲と蒼い空を見上げて、
「…………」
そして気付いた。
来たのだ。
彼らが。
「…………」
魔王を殺しに?私を救いに?
どちらにせよ、彼らは来た。
《悪魔殺し》を携えて。
《勇者》がやってきた。
◇◆◇
「カチャッ」と、静かに彼らは降り立った。
『高度三千メートル』からのスカイダイビングのはずなのに、彼らは静かに降り立った。
パラシュートは着けていない。飛行魔法の一種だろうか。
降り立った影は四つ。
見れば、白と金の装飾が施された鎧をきた男と、白いローブを身に着けた『女』が三人。
勇者ハーレム。そんな言葉が頭を過ぎる。
そして、彼らはすぐに目標を発見する。
目の前には、純白のドレス着た少女が立っていた。
近くに、彼の姿は無い。
「ご機嫌麗しゅう、ラヴデルト皇女殿下」
《勇者》がうやうやしく頭を垂れる。
後ろの三人も、それに続く。
「何をされにきたのですか、屑島コクト最高勇者閣下殿?」
彼女は微笑む。優しげに、やんわりと。
「最高勇者閣下殿ともあろう者が、こんな小島に、油を売りに来たのですか?」
「恐れながら、姫様を救う為にやってきた所存です」
やっぱりだ。たった十七歳で帝国最強の勇者になった彼だ。彼の、父の話を聞いて彼の心が動かない筈が無い。
いや、きっと根本的な部分にある筈だ。私を救いに来た理由が。
「お父様はなんと?」
「は、皇帝陛下は姫様を救い出した者を姫様の『婿』にすると」
……予想的中。ていうか、お父さんは私が居なくて寂しいのかな、それとも魔王に娘を盗られて悔しいからちょっかいを出してくるのかな?
ていうか、私結構美人、いやちょっとは可愛いとは思っていたんだけどなぁ?
いやホントに結構モテモテだったんだよ?
なのに彼は全然襲いかかってくれない。夜這いでも来ないかなぁとちょっと楽しみにしていたけど、なんかそんな様子は全然ない。……まぁ、今はどうでもいいんだけど。
「コクト殿?貴方はあの放送を見てはいないのですか?」
自分が、魔王の嫁になった事を帝国全土に伝えた筈だが。
「あぁ姫様。愚かな魔王に脅されているのですね。ですがご安心ください。この私屑島コクトが下賤で、卑劣な魔王を討って差し上げます」
ピクリッ、と、ヒナは眉を顰めた。
「心配はいりません。私は元より、彼女たちの実力も並ではございません」
コクトは、後ろで跪いていた従者を紹介しだした。
栗色の髪を肩の位置で揃えていた女性だ。名前を『アロマ』と言うらしい。
彼女は主に戦闘時の防御を担当するらしい。広範囲、超硬度を誇る防壁魔法が得意だそうだ。
ちなみに、ヒナは彼女をニ番目に綺麗だと格付けした。
次は水色の、ショートカットの人だ。
名前は『ミズキ』。魔法での後方支援(回復もふくむ)が担当。
彼女も美人なのだが、『三番目』だ。しかし、なんかおっぱいがデカイ。
えぇーって思う位デカイ。別に嫉妬してる訳じゃないよ?ホントですよ?
そして、最後の人。
名前を『エルデリカ』と言うらしい。戦闘時は『戦闘補助、および周囲掃討』だそうだ。
しかし、そんな事がどうでも良いほどに彼女は美人だった。
なんて言うのだろう、こう言うのを『女神』と呼んでも、さして過言ではないと思うのだが、とにかく見惚れてしまうほど綺麗だ。
キリッと整った顔立ち、男らしく威風堂々としながらも、女らしさが見えるその顔。
黄緑色の髪が、燦々に降り注ぐ日光をキラキラと反射させている。
一番、ダントツで、その人が美しかった。
「どうですか姫様。私直属の部下たちです」
「素敵な方たちですね」
素直に、彼女たちを賞賛する。
戦闘能力より、容姿を賞賛した。容姿テストでもしたのかなぁ〜、とか思ったりする。
「これなら、悪逆非道で傲慢無礼な魔王も討ち滅ぼせます」
「私は彼の妻です。夫の危機を、妻が見逃すとお思いですか?」
「姫様。貴方は騙されているのです」
ヒナの表情が、少しだけ歪む。
「貴方は昔から、流されるままにその状況を受け入れてきた。今回の事も、流されているに他なりません」
勇者の声が、うっとおしい。
「姫様は魔王に利用されているのです。例え、姫様が魔王を理解しても、魔王は貴方を理解できないでしょう」
その言葉は、聞きたくない。
「魔王は化け物。貴方は人間。化け物と人間が理解し合うなど、到底無理な話です」
化け物という呼称が、彼を見下している様に聞こえて。
ヒナは心の中で吐く。
――彼は、お前より強いんだぞ。
――彼は、化け物なんかじゃ無いんだぞ。
――彼は、優しいんだぞ。
――彼は、『人間』なんだぞ。
沸々と、なんか真っ黒っぽい感情が湧き上がってくる。
なんかもう、色々考えるのがめんどくさい感じになって来てる。
油断したら、声を荒げて怒鳴りそうなほど怒っていた。
でも、表に出せない。
勝てない。四対一。いや、きっとこの中の誰と一対一で戦っても勝てない。それほどに自分は弱い。
どうしようかなぁ〜。とか思った。
正直、な〜んの作戦も計画も無しに来てしまったのだ。
どうせ魔王と勇者は戦うんだから、とか思う自分が居たり。
彼をまた頼るのはいけない、とか思う自分が居たり。
あと色々。いろ〜んな事考えて、最終的に「どうしよう」状態になってしまった。
「ん〜……」
しかし、
やっぱり結果は同じなのだ。
クシャクシャクシャ、と、草を踏む足音が聞こえる。
後ろから、一定のリズムで、私は、振り返らない。
そうして、私の横に並び、私を呼んでくる。
その声に私は反応して、彼を見る。
そこには、《約束》の彼が立っている。
土日で頑張ろうと思います!