091 怪奇現象
「いひッ? うッ、うひゃッ?」
おかしい。
さっきから、身体がオカシイ。
なんかコソバユイというかイタ気持ちイイというか。
具体的には、顔を撫でられたり脇をつねられたり左手の小指を噛まれたりしてるような感覚がするのだ。
何者かに。
ここは朝の教室。
時刻は午前8時前だ。
俺以外、まだ誰も居ない。
当然、男子高校生に過剰なスキンシップしかけるような特殊性癖持ちなど存在しない。
いたらコワイわ。
俺が一人でよがっちゃってるだけなんだが。
ナンだよコレ?
手を振ってもナニもいない。小指も自由に動く。
でも弄られている。
その見えない何者かは小指責めを気に入ったようだ。
熱い口に含んだり甘噛みしたり強噛みしたりと執拗に攻めまくってくる。
明らかに歯を立てて噛みついている。
強弱をつけて、時には優しく、時には厳しく、時には艶めかしく。
ちょっと待て。妙にイタ気持ちイイんですけど。
声が出ちゃう。……あッ、らめぇ。
ナゾの感覚は5分ほどで治まった。
ふー、助かったぜ。
が、今度は胸元にナニカが抱きついているような感触が残っている。
ナンだよコレ?
ほのかに柔らかくて温かい。心地好くはあるんだが。
「おーい、土方。どした? ゲームの話しようぜ?」
「邪魔すんな。俺は今、予習中なのだよ。
そのゲームのためにな」
抱きつき魔の幻覚に悩まされながらもせっせと早朝学習に励む俺。
そこにノンビリ登校してきたゲーム友達、略してゲー友どもがちょっかいかけてくる。
俺もゲー友とゲー話に花を咲かせるのは大好きだ。
しかし今はダメ。
「そう言うなって。
実は時間制のゲームルームがオープンしてさ。
体験版だけどD&Cもそこに置いてあるんだよ。
俺、予約取ってさ」
おおッ? それは無視できんな。
俺は教科書から顔を上げた。
東条である。
相変わらずのイケメンスマイル。このヤロ。
「いつ頃だ? 今日か?」
「うん。今日の5時から3時間だけ予約が取れた。
最初のキャラメイクとか時間かけたらもったいないだろ?
要点教えておいてくれよ」
いい心がけだ。
俺、適当に始めたから苦労したのだ。
指南して進ぜよう。
……………………………………。
キーンコーンカーンコーン。
は、時間を忘れてしまった。いかん。
「サンキュー。
あとは公式サイト見ながらアバター決めとくよ。
助かった」
ああ、そこ大事だからな。
俺みたいな素顔そのまんまとか良くない。
「じゃ、ログインできたらメール送るから。
ゲームの中案内してくれよ。頼むぜ」
え? いや、まぁ、いいけどさ。




