088 新商品とおやつタイム
さっそく工房に移って新商品の相談です。
「毒キノコが余ってるので活用できれば嬉しいのですけど?」
薬草と一緒に大量買取しましたからね。『傷薬☆2』の材料として。
だけど薬草の5分の1の量しか使わないんですよね。
その分浮いてしまいます。
「毒キノコ関連ならいくつかレシピがありますが、今すぐ作れそうなのは『付与薬[毒]』でしょうか。
油で煮詰めて濃縮させて作ります」
ほほう。それはどんな効果があるのですか?
「武器に塗ることで一時的に『毒属性』を付与できます。
特に長期戦で搦め手を好む冒険者がよく使うと聞いたコトがあります」
「マスターの場合は両手に塗ればいいのでしょうか?
ステゴロなんですけど」
「そんなコトしたら毒が回っちゃいますよ」
あのヒト毒とか効くんでしょうかね?
いちど飲ませてみましょうか。
「調合用の油は組合で安く扱ってます。
使い途の多い素材なので常備すべきですね」
なるほど、追加で必要なのは油と瓶ですね。
あとで組合から仕入れときましょう。
「付与系のアイテムはあまり出回ってないので私も興味があります。
万が一の用心に『解毒薬』も作成しておきましょうか。事故防止に」
ミライナさんも乗り気なようです。イロイロ考えてくれてますね。
『解毒薬』の素材は『毒消し草』と『元気キノコ』だそうです。
両方とも近場で採取できる素材で、もともとの手持ちにも幾つかありました。
さらに買取ラッシュの結果かなりの量が集まっているのです。
ガンガン使ってしまいましょう。
「じゃあ、それでお願いします。『付与薬[毒]』と『解毒薬』20個ずつ追加で。
作成費は売れ行きに関係なくお支払いしますので」
商品が売り切れたおかげで運転資金もかなり余裕ができました。
懸案の先払いもOKです。
そもそも、こういう需要の分からない商品については店がリスクを負うべきなのです。
マスターの談なんですけどね。
商品作成はミライナさんにお任せして、わたしは錬金術組合までやって来ました。
調合油等、イロイロ購入するためです。
瓶とか包み紙とか、素材以外にも必要なものは多いのです。
シロはお留守番ですね。ミライナさんの癒やし係として頑張ってください。
「いらっしゃい、イズミさん!
ミライナはちゃんとやってますか?」
職員さんが、妙に青白い顔でテンション高く応対してくれました。
「はい、とても頼りにさせて頂いてます。
……あの、顔色、お悪いですよ?」
「ええ、もう完徹3日目だから身体がオカシクって、あはは!
だけど例のブツの研究が楽しすぎてゼーンゼン寝られないのぉ! 幸せ!!」
見渡すと他の白衣さん達も皆おんなじ表情を浮かべてます。ヤバイ。
わたし達の持ち込んだ『マンドラゴラ☆5』がこんな事態を……。恐ろしや。
「イロイロ購入したいモノがありまして……。
このメモにある資材をゼンブ頂けますか?」
ミライナさんが書いてくれたメモを手渡しました。
少し胸は痛みますが、ご本人達が幸せだというのですからそうなのでしょう。
野暮は言いません。
「ヒジカタ錬金堂には期待してますよ。
この町の生産系錬金術を大いに盛り上げてくださいッ!
研究は我々に任せて!!」
お願いした購入物をドンッと置くと、足早にフラスコ瓶の前に戻っていかれました。
ウットリ笑みを浮かべて中で蠢く怪しい液体を眺めています。コワイ。
「あの、代金、ここに置いておきますね……。
ありがとうございました」
一歩二歩と後ずさり、わたしは後ろ手にドアノブを握りしめました。逃げねば。
「いらっしゃい、イズミちゃん。今日もカワイイわねぇ」
ゾンビの巣窟と化した錬金術組合を脱出し、わたしが次に向かったのは『魔界飯 新宿』。
とても美味しいのにお客が少ない不思議なお店です。
実は『卵焼き』について大将にアドバイスをいただきたいのです。
そう思ってきたのですが。
「どう? ちゃんと『吸血』してもらってる? 優しくしてもらってる?」
カーミラ様が放してくれません。とても心配していただいてます。
「大丈夫です。毎晩、それはもう優しく丁寧に可愛がって頂いています」
「よかったぁ。ヒジカタくん奥手そうだから心配してたのよぉ」
カーミラ様さすがです。みごと見抜いておられます。
ヘタレなのです。
「この間、帰り際に頂いたビキニ。
有り難うございました。強力でした」
「でしょう? だけど連発しちゃダメよぉ。
要所でガッと見せつけるのよぅ。ガッと」
勉強になります。ギャップが大事、というコトですね?
ひとしきりカーミラ様とおしゃべりしました。
イロイロ勉強になります。
はい。次は下着にも気をつかって。
え、網タイツ?
どうなんでしょう。お店で探してみます。
は。女子トークに夢中になってしまいました。
大吸血鬼と魔女ですけど女子ですよね?
「今日、来たのはコレについてなんです。
プロの方の意見を伺いたいたくて」
わたしが取り出したのは『卵焼き☆1』。
どうもしっくり来ないのです。
「どれどれ、ひとくち味見を。
……うん。ココは大将の出番ねぇ」
パチンと指を鳴らすカーミラ様。
カウンターの奥から大将が笑って出てきました。
「うむ。『卵焼き』は奥が深いぞ。
ココに持ってきたのはいい判断だ」
「『オムライス☆5』を作るには避け得ぬ道なのです。
よろしくお願いします」
わたしの決意表明。おふたりは笑顔で深く頷いてくれました。
わたしはやるのです。
「ただいま、シロ。イイ子にしてましたか?」
「わんッ」
店に戻ると、いい返事でお出迎えが。
うふふ。頼もしいお留守番ですね。
けっこう時間をくってしまいましたね。
とりあえずお茶でも淹れましょうか。
商店街でオヤツも買ってきましたし。
……『料理』スキルのためですよ?
工房のミライナさんに声をかけます。
放っておくと、いつまでもお仕事を続けちゃうんですよね。
こっちで休憩を決めてあげないと。
「こ、コレは……!?」
そのミライナさん、テーブルに並んだコップとお皿を見て打ち震えています。
「『ヒジカタ錬金堂』オープン記念です。遠慮無くどうぞ?」
商店街で美味しそうなケーキ屋さん見つけましてね。つい。てへ♡。
「感動です……。
組合でオヤツと言えばカロリーバーとエナジードリンクで……」
それオヤツでいいんでしょうか? 全く気が休まらないような。
成分的には強力そうですけど。
そもそも癒やしとドーピングって別物ですよね?
「あ、そうだ。
あさってお店を閉めたら、食べ歩きに付き合っていただけませんか?
全部マスターのおごりで。そう命じられてますので。はい」
「……労働基準って、ほんとピンキリなんですねぇ……」
本人は徹夜とかしてましたけど。
他人をあんまり働かせちゃうのはイヤみたいなんですよね。
ミライナさんがちょっと遠い目をしてますね。
まぁ、ウチに居るときはウチの基準でお願いします。
ヌルくてもイイじゃないですか。




