077 販売会議
さて、落ち着いて話そうと工房からリビングに移ってきた。
「はい、どうぞ。ミライナさんはこちらで」
イズミがコーヒーを淹れてくれた。
ありがとう。よくできた眷族ちゃんだよ。
本人もコーヒー、ただしミルク多め。
オレンジジュースを出されたミライナ先生が恐縮している。遠慮しなくていいですよ?
シロは水皿でミルクを舐めている。ご満悦だな。
テーブルの上に俺作『傷薬☆2』と、先生作『マナポーション☆2』が並べてある。
これから売価とか相談するのだが。
「だけど、存在感がゼンゼンちがいますね、この2品。
ポーションのガラス瓶だけで、マスターの傷薬より確実に高価ですよ?」
イズミがズケズケ指摘する。このオンナ、正直すぎる。
俺も思ってはいたけどさ。
「あ、あの、ガラス瓶と包み紙は組合で仕様が統一されてるんです。
だから、ヒジカタさんの作った傷薬が特に質が低いとかじゃなくて」
有難うございます。先生。優しさが身に染みます。
「わうーん?」
ありがとなシロ。
だけど、俺別に傷ついてなんか無いから。元気ですから。
まぁ、中盤必須のMP回復薬と序盤だけの最安回復薬を並べてるのだ。
見劣りぐらいはする。当然だ。
…………くそ。いずれ、俺もコレ作ってやるからな?
「で、この2つ、標準価格はどれくらいなんだ?」
『査定』スキル持ちのイズミに振る。
品評会はもう勘弁してください。
俺の惨敗に決まってるので。
「『傷薬☆2』が銀貨1枚半。
『マナポーション☆2』が銀貨75枚です」
なんという格差社会。
まぁ、材料費からしてゼンゼン違うのだが。
ん? マナポーションなんだが前にギルドで聞いた値段と違ってるな。インフレか?
「パルミットさんが教えてくれたのは『マナポーション☆1』の価格ですね」
あー、そうか。
コッチの方が高品質なんだな。凄いぞミライナ先生。
「ですが町じゃ両方とも流通してませんでした。
売っている傷薬は☆1ばかり。
マナポーションに至っては☆1さえゼロです」
マナポーションは聞いてたけど、傷薬は意外だな。
☆2の作成、そんなに難しくなかったぞ?
最初こそ苦労したけどさ。
俺の疑問にはミライナ先生が答えてくれた。
「他の町からの輸入品は☆1で統一されています。
これは地元の産業を守るための取り決めなんですが。
地元産の稀少な☆2以上の商品は、高位の冒険者が高値で確保してしまうので残らないのでしょう」
へー。高位の冒険者なら自前で作れそうなもんだけど……。
いや? 待てよ。
「先生。☆2以上の作成に『器具操作』スキルは関係してくる?」
「必須です。『調合』だけでは☆1しか作れません」
なるほど。
『器具操作』は取得が重いのだ。スキルポイントが6要る。
『調合』も6だったから合わせて12。
前線突っ走るプレイヤーでこれに躊躇しないヤツはないだろう。
SPの使い途はキャラの強さに直結するのだ。
戦闘系スキルには魅力的なのがいくらでもある。
なるべくソッチに振りたいのが人情だ。
俺自身ゲゲッとなったもんなぁ。
先生の前だったから黙ってたが。
『調合』だけで☆1は作れる。
だからプレイヤーは『器具操作』取得を優先しないんだろう。
そもそも『器具操作』取得すれば自動で品質アップ、てワケでもないもんな。
練習する時間が要るし、より高い品質を狙えば上位の設備と素材だって必要だ。
即効性がないのだ。そりゃ敬遠される。
生産系のプレイヤーなら取得してるかもしれないが、少数だろうから需要全てを賄えない。
そうなると得意先も決まってそうだ。
「……と、いうことは。
マスターの『傷薬』でも☆2なら需要がある。と」
そういうことだな。頑張った甲斐があったぜ。
しかしね、イズミさんや。
俺ブランドをマイナス要因のように言うのは、ちょっと……。
いや、バンパイア作成の回復薬ってイメージ悪いか?
悪いな。呪いでもかかりそう。
うーむ。身バレを避ける理由がまた1つ増えてしまったぜ。
ウチの商品は安心安全、品質保証ですよ!
「ところで、☆が1つ違うと効果はどれくらい変わるんだ?」
そういえば考えたコトなかったな。作りたいばっかりで。
「回復系なら☆1つで回復量5割増しが目安でしょうか。
例外もありますが」
「マスター作成の『傷薬☆1』がHP回復50。
『傷薬☆2』が75になってますね。
ちなみに『マナポーション☆2』はMP回復150です」
先生の説明をイズミが『鑑定』スキルで検証する。仕事が速いぜ。
5割増しかぁ。そりゃ大きいな。
「『査定』結果も同じ比率ですね。
銀貨1枚と1枚半。コストパフォーマンスは同じ?」
「いや、一度のアクションで1.5倍の効果だ。
特に戦闘中は大きい」
俺なら迷わず☆2を選ぶ。
クールタイムがあるから連続使用もできないしな。
「あと冒険者ギルドで『ポーション☆1』が銀貨15枚で売られてました。
効果はHP回復300。さすがにお高いですね」
一発で全回復のノリだな。
その代わりコスパが落ちている。
銀貨1枚あたりHP回復20か。
トータルの回復量は優秀だが普段使いはしたくないな。高い。
コスト的には、戦闘終了後に細かく傷薬でケアする方が遙かに安くつく。
「いけそうですね。売価はどうします?
標準価格に+-50%まで選択できますけど」
「とりあえず標準価格そのままでいいだろ。
微調整は結果が出てからで」
薄利多売する気は無いが、暴利で閑古鳥も困る。
感じの良い店にしたい。
品揃えは少ないが品質のいいモノを。
そんな感じで明日から………。
……あ、いかん。
駄目すぎだろ俺。致命的だ。
「イズミ。俺は明日から3日間ログインできない。
店、どうしよう」
いま、8時間ログインの後半部分。
ログアウトしたらリアルの朝だ。
学校に行かないと。




