074 吸血鬼は生産向き?
エネミーの群れをもう一つ蹴散らしたトコロでMPが満タンになった。
さっさと工房に戻る。
シロは暴れたりないみたいだが、また後で。
日が暮れたらまた活躍させてやるから。
『巨狼シリーズ』の検証な。
「もう魔力が回復したんですか?」
戻りが早かったので先生が目を丸くしている。
ざっと30分足らずか。
通常、消費したMPは時間経過で回復していくがその効率は遅い。
「ははは。レアスキル持ちなもので」
適当にごまかした。
まぁ、嘘じゃない。『吸血』はレアだろうし。
先生が素直にうらやましがっている。
聞くと『錬金術』を使った生産活動は、MPをやたらと消費して燃費が悪いそうな。
素材のひとつに過ぎない『蒸留水』作成にもMPが要るしな。
品質を求めればさらに必要。たしかにやたらMPを使う。
MP回復効果のあるマナポーションは、高価で素材が稀少だから普段使いできないしな。
「ヒジカタさんは意外と生産向きなのかもしれませんね」
お褒め頂いてこそばゆいな。
どちらかというと格ゲー好きなので。
さて、『蒸留水』作成再開だ。
おっと、その前に。
「『蒸留水』の品質をもっと上げるにはどうすれば?」
☆3を目指してみたいのだが。
「品質の高い原水と、より上位の『蒸留フラスコ』が必要になります」
うーん。井戸水と居抜き設備じゃここまでというコトか。残念。
ひたすら『蒸留水』を作成してお昼前。
ようやく必要量に達した。
専用タンクにたっぷりの『蒸留水』はまとめて☆2だ。
頑張ったぜ。
「『調合』がLVアップしました。
『器具操作』がLVアップしました」
途中でも何度かLVアップの告知はあった。
現在、『調合』がLV3。『器具操作』がLV5だ。
成長にばらつきがあるのは作成物の特徴だ。
熟練度の貯まり方がそれぞれのアイテムで違うらしい。
『蒸留水』は『器具操作』に貯まりやすく、『傷薬』は『調合』に貯まりやすい。
この2つのスキルをバランス良く成長させるのが無駄のないペース配分なんだそうな。
「午後からは『傷薬』作成に移ってください。
素材は大丈夫ですね?」
OKです、先生。
なにしろ素材は『薬草』と『毒キノコ』。たんとある。
昨日、必要な素材を聞いたときは『毒キノコ』にハテナ?となってしまった。だって毒でしょう?
傘の部分を少量だけ混ぜることで強い殺菌作用が得られるそうな。ただし食べたらNG。
この『毒キノコ』にそんな使い途があったとはね。
正直ドロップ品としてはハズレの評価をしてしまってた。
スマン、紫キノコ氏。
「マスター、ミライナさん。お昼ご飯できましたよ?」
呼びに来てくれたイズミが、俺の手の『毒キノコ☆1』に眉をひそめる。
いや、ちゃんと手は洗うから。念入りに。だから怒るなって。
イズミの用意してくれた昼ご飯のオカズは2品。
『ミートソースパスタ☆1』と『野菜サラダ☆1』だ。
小洒落た喫茶店のランチ風ですな。
「はい、召し上がれ。オカワリもありますよ?」
いただきます。うーん、美味そう。
トマトソースの香りが食欲をそそるじゃないか。
「ミートソースも手製なのか?」
「まぁ、レシピ通りですけど」
たいしたモノだ。
俺ならレトルトで済ませちゃうもんな。
野菜サラダも丁寧に刻んでドレッシングを馴染ませてある。
マメだ。
フォークでクルクル巻いて口に運ぶ。
ハフッ。熱い。そして美味い。
「うまい。イズミは才能あるぞ」
「テキトーばっかり。
味見しながらレシピ通りやってるだけですよ?」
素っ気ない返事と赤らむ頬。
これもイズミならではのスパイスだな。
2重の意味で美味しいやつだ。褒め甲斐がある。
才能ウンヌンもおだてじゃない。
手抜きせずに丁寧にやり切る、というのは立派な才能なのだ。
爺サマがよく言ってた。
逆に面倒くさがりで飽きっぽいヤツはナニをやっても身につかない、とも言ってたな。
肝に銘じとこう。
パスタもサラダもおかわり頼んでたちまち平らげた。
ごちそうさまでした。
「じゃあ、コーヒー淹れますね。
ミライナさんはジュースの方がいいですか?」
「は、はいッ。ありがとうございます」
大きくお辞儀するその様子にイズミは満足げだ。
上機嫌で支度にかかる。
オモテナシの喜びに目覚めつつあるな。良いことだ。
3人で食後の一服をしながら店の相談をした。
まったりと。いいね。こういう雰囲気。
「ワンッ」
足下で抗議の声。
すまんすまん。3人と1ワンコな。
お前もスタッフの一員だよ。当然。




