072 ミライナ先生の『錬金術師促成栽培コース』
「『錬金術師』の職に就くには先達の指導と、一定の水準まで上げた2つのスキルが必要です。
生産系スキルの『調合』と『器具操作』です」
朝、約束通り訪れたミライナちゃんは俺の格好を見てたじろいた。
しかし、すぐにナニもなかったかのように挨拶した。落ち着いている。
慣れているのだろう。組合は白衣だらけだったしな。
ココは地下の工房。
ミライナ先生のレッスンが始まっている。
スキル取得画面を開く。
両方ともリストにあるな。取得した。
「『調合』は簡単なアイテム作成。
『器具操作』はアイテムや器具の操作に修正のあるスキルです。
両方のスキルLVが20を超えることで『錬金術師』の職に就くことができるようになります。
そうして初めて専用スキルである『錬金術』が取得可能です」
なるほど。
なら俺のやるべきはこの生産2スキルのLV上げだな。
しかしLV20か。
なかなかに長い道のりだ。一朝一夕じゃない。
「はい。ですが、ヒジカタさんは冒険者であって研究者ではありません。
知識よりもスキル取得を目指した促成栽培で進めるつもりです。
いいですか?」
おお、そんな便利なコースがあるのか。それは是非。
「よろしくお願いします。ミライナ先生」
俺が頭を下げると、ミライナ先生は顔を赤らめて手をバタバタ振った。
こんなノリは苦手らしい。
いいと思うのだが、ミライナ先生。
明らかに年下の少女にコウベを低くして教えを請う。
うむ。ちょっと複雑な気持ちよさがあるね。目覚めちゃいそう。
さて、ミライナ先生の指示した『錬金術師促成栽培コース』とは。
まず、ひたすらに大量の『傷薬』と『蒸留水』を作り続けるコト。であった。ジャジャジャーン!
「『傷薬』は調合の基礎です。
材料も安価で揃えやすいのでスキルの鍛錬には最適です。
作成物はそのまま商品として販売できます」
まずは基本からと。
商品が作れるのは嬉しいな。
「『蒸留水』はポーション類の素材として欠かせないモノです。
特に『マナポーション』の作成過程で大量に消費するので頑張ってほしいです」
なるほど。マナポーションの素材のひとつでもあるんだな。コレは手を抜けない。
「『蒸留水』は『水』を『蒸留フラスコ』で蒸留することで作成します。
『蒸留フラスコ』の操作には魔力を消費するので注意してください」
詳しく聞くと『蒸留フラスコ』は魔力、つまりMPを注ぐコトで洗浄・発熱・沸騰するらしい。
ということはMPの量=『蒸留水』の作成量になってくるな。
『マナポーション』の作成に必要なら優先して作成するべきだろう。
「まずは『蒸留水』を作れるだけ作って器具の扱いに慣れてください。
『傷薬』作成はその後で。
私も並行して『マナポーション』の作成を準備します」
ミライナ先生がマンドラゴラを前にして腕まくりしている。
彼女も『マナポーション』の量産は初めての試みらしい。
緊張してるな。
まぁ、じっくりやりましょう。
急がず丁寧に。失敗OKで。
『蒸留水』作成の手順をミライナ先生が教えてくれた。
難しくはない。
水は沸騰させることで水蒸気になる。その水蒸気を再び冷やすと水に戻る。
元のフラスコには沸点の違う不純物が残る。
この作業を蒸留といい、得られた純度の高い水を蒸留水と呼ぶ。
これはリアルと同じだな。授業で習った。
工房にある『蒸留フラスコ』は、沸騰させるフラスコと水蒸気を冷やして受けるフラスコが一対になっている。
コレに井戸水を注いで沸騰させ、水が減ったら継ぎ足す。
受けるフラスコが満タンに近づいたら専用のタンクに移す。
水を運んでフラスコにMP注ぐだけの簡単なお仕事です。
「小まめに洗浄することで品質を上げることが可能です。
ちょっとだけですけど。
魔力に余裕があれば試してみてください」
いいコトを聞いた。さっそく試してみよう。
洗浄は多少のMP注ぐだけでできるからお手軽なのだ。
なに、MPなら心配無用。
無くなったら外に出て『吸血』で補給すればいいのだ。
フィールドの近い町外れでよかった。買い物とか遠いけど。
一対のフラスコ、蒸留水専用タンクとたっぷりMPを注ぐ。
工房に置いてある器具は、だいたいが魔力起動の簡易マジックアイテムなんだそうだ。凄い。
こんなの込みでも安いって。
『☆5マンドラゴラ』の時価、とてつもないな。
速攻で手放してよかった。
水補給、MP注入、洗浄と繰り返し、できあがったのは『蒸留水☆2』。
手間をかけた甲斐があったぜ。
ふふふ。上にいるイズミにも見せてやろう。
俺の初作品だ。讃えていいぞ。
「水ですね」
いや、そうなんだけどさ。
もうちょっと、ナニか、感動とかさ。




