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錬金堂繁盛記  作者: 三津屋ケン
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007 再び『魔界飯 新宿』

挿絵(By みてみん)


 タッタッタッタッタッ!


 飲食街の石畳を駆けに駆ける。

 俺は居酒屋『魔界飯 新宿』に飛び込んだ。ぜぇぜぇ。


「カーミラさんッ!

 カーミラさんはいますか!?」


 早朝の居酒屋に客なんているわけないのだが。


「あらぁ? 昨夜の新人くんじゃないのぉ。

 今日もジンギスカン?」


 目当ての銀髪シスターは同じ席で飲んでいた。

 他に誰も居ない。大将も外してるようだ。


 昨夜と同じ愛想のいい微笑み。

 しかし違うのだ。

 この美人姐さんは、ただの美人ではない。


「俺、朝起きたら吸血鬼になってました」


 ひとつ深呼吸し、なるべくゆっくりと語りかけた。

 濡れ衣の可能性だってゼロじゃない。


 カーミラさんは? 

 なんとニッコリ嬉しそうに笑うではないか。


「あら、おめでとう。

 じゃあ、私の後輩くんねぇ。嬉しいわぁ」


 関係者確定でした。不思議にさえ思ってないようだ。

 俺はツカツカと詰め寄った。


「なんでこうなったのか、知ってるんですね!?

 教えて下さい、カーミラさん!」


 白い笑顔は微塵も揺るがない。

 うんうん、と頷く。

 笑顔も美人だ。ああ、なんかコレだけで許しちゃいそう。

 美人て得だなぁ。


「それはカンタンよぉ。

 新人くんが供物を捧げたから。

 だからあのヒト達は喜んで祝福を与えたの。

 何十年振りかしらぁ」


「供物?」


「神々に捧げる供物は『羊』が定番なのよぉ。

 ほら、ジンギスカンも」


 供物って、え?

 俺はただ、羊肉提供して一緒にジンギスカン食っただけですよ?


「充分よぉ。料理のカタチは関係ないの。

 肉と信仰に飢えた忘れられた神々にとってはね。

 君は供物を捧げて宴会、祭事を執りおこなった。

 ともに食べ、ともに飲み、ともに歌って、ともに笑った。

 君はとても良い司祭、シャーマンだったわよぉ。

 みんな楽しそうだったでしょう?」


 まぁ、盛り上がってくれたのは嬉しかったですけども。


「祝福はみんなからの応援のエールよぉ。

 軽い気持ちで受け取ってくれると嬉しいわぁ」


 笑顔でそう言われるとなんだか有り難い気もしてくる。

 俺も楽しかったし。


「あの、コレってなにかのイベントなんですか?」


 ゲーム的に今ってどういう状況なんだ?

 イベントの導入部のような感じもするのだが。


「そうねぇ。

 そう解釈してもらった方が分かり易いかもねぇ。

 わたし達は、夢を通じてログインしてきた『魔界』の住人。

 君はイベントに巻き込まれて『魔界ルート』に入ってしまった元人間、てトコ?」


 いや、疑問形で返されても。まいったなぁ。


 なんてこった。

 知らずに転職フラグを踏んでしまっていたらしい。

 ゲーム開始初日だったというのに。


「だけど吸血鬼ならかなり穏当な方よう?

 あの時の顔ぶれなら、もっとヘンなのもあり得たから」


 なんですかヘンなのて。凄く不安なワードなんだが。


「ほとんどハエの悪魔だとか、

 タコ系の海魔だとか、

 八つ首の大蛇だとか、

 宇宙恐怖的な名状しがたいナニカとか、かしらねぇ」


 ひどい。ヒト型でさえない。

 あと名状しがたいナニカってなんですか。コワイ。


「私も祝福には参加したの。

 きっとそれが通ったから吸血鬼になったのねぇ。

 感謝しなさいよう?」


 いや、勝手に転職とか困るんですが。


「転職でなく転生よぉ。

『魔界転生』。

 かなりレアなイベントなのよ?」


 なんとレアイベントだったのか。

 ううむ。良い響き。レア。


「レアですか」

「うん、激レアよぅ」


 さらに激レアと言われると悪い気もしないね。

 我ながら単純だが。


「だけど、ジンギスカンをご馳走するだけで転生できるって。

 そうレアでもないんじゃ?」


 情報さえあれば誰でもイベント発生できそうだし。


「わかってないわねぇ。

 あのヒト達は『魔界』のお偉いさん。

 今回、このゲームにリンクするかどうか視察にきてたのよぉ?」


 リンク? ドコとドコが?


「『魔界転生』は魔界側のシステムだからコッチにはまだ実装されてないの。

 昨日のはホントに臨時の特別。

 あのヒト達も帰っちゃったし正式リンクはまだまだ先。

 再現は当分ムリねぇ」


 えーと。よく分かりません、先生。


「つまり、激レアってコトよぉ」

「わかりました。先生」


 うん。詳しいコトはわからんが、レアだというのは嬉しい。

 それでイイのだ!


「今の新人くんは魔界側のテストプレイヤーみたいなものね。

 できれば協力して欲しいわねぇ。イロイロと。

 報酬もだすわよぉ?」


 おお。報酬とな。魅惑ワードですね。

 だがしかし。


「いや、俺ムリですよ。超絶弱いんで」

「なに言ってるのぉ? 吸血鬼は強いのよう?」


 妖しく笑った瞳が紅い。深紅の血の色だ。

 さっきまでは青かったハズ。

 正体を見せてくれた、ってコトかな。

 ちょっと迫力ある。


「嘘じゃないですって。ほら」


 ステータス表示を可視化して見せる。

 ん? と妖しい瞳が変な感じに寄った。驚いてる?

 さすがにステオール1は予想外だったようだ。

 ははは、凄いでしょコレ。悲しいけど。


「うわぁ。潔い数字ねぇ。

 滅多に見れないわよう、コレ」


 俺もそう思います。

 多分、弁当屋のオバチャンより弱い。


「だけどコレ、陽光ペナルティのせいよぉ。夜は大丈夫」


 マジですか!?


「ダンジョンなら昼でも平気なはずよう?

 だいたい暗いトコだし」


 なんと!?


 これは重要な情報だ。冒険生活を続けるメドが立った。


「この『陽光ペナルティ』ってワード、鑑定してあげる。

 ちょっと待ちなさいな」


 おお。カーミラさんは『鑑定』持ちらしい。


 『鑑定』スキルがデフォルトのゲームも多いが、ここではかなりのレアスキルだ。

 さらにステータス中の単語まで鑑定できるとなれば相当な高LVだと思われる。

 うらやましい。


「俺も鑑定スキルほしいんですけど、どうすれば取得できますか?」

「さぁ? 最初からあったわねぇ。

 ランダムじゃないの?」


 違うでしょ。絶対経験の差だ。亀の甲より年の功だ。

 年齢は聞かないけどさ。凄い数字が出てきそうだし。


「出たわぁ。

『陽光下で継続ダメージ。

 各ステータス値にマイナス100の補正効果』。

 へー、面白いわねぇ」


 ま、マイナス100って。えげつなさ過ぎる。


「まぁ、マイナス値にめり込まないだけ優しいんじゃないのぉ?

 むしろオイシイ?」


 のんきなコトをおっしゃる。

 ヒトゴトだと思ってからに。


 うん?


「そういやカーミラさんはどうなんですか。

 ペナルティ。吸血鬼なんですよね?」


 ニンマリと悪戯っぽく笑うカーミラさん。

 美人の笑顔は素晴らしいね。


「私は大丈夫よぉ。

 『始祖』ってスキルがあってね。コレが強いの。

 種族弱点全無効なんだって」


 凄い。いいなぁ。

 しかしカーミラさんは首を振った。


「とんでもない。

 メチャクチャ迷惑なスキルよぉ」


 そりゃまたどうして。良いことずくめにしか見えませんけど。


「弱点っていうのは個性なの。芸風と言ってもいいわね。

 吸血鬼は強いけど弱点がたくさんある。

 それを利用してハンターは吸血鬼を倒す。

 それが私達の伝統芸にしてお約束。

 長年かけて確立した定番の芸風。

 せっかくのそれが台無しになっちゃう」


 へぇぇ。芸風ですか。そういう解釈はなかったな。


 ふーむ。

 言われてみればそうかもしれないな。


 例えば、ドツキ漫才やってる芸人さんが『物理無効』スキル持ってたら興ざめかもしれない。

 熱湯風呂コントも『高熱無効』スキルとかあったらリアクション芸人は廃業だろう。

 どーせ熱くないんでしょって。


 ふーむ。

 なら、俺ももうちょい強めのリアクション取るべきだろうか。

 日光浴びたら燃え上がったり灰になったりとか?

 ……無理だな。

 どうやんの。そんなの。


「ともかく、やっと確立させた『お約束』を台無しにしてくれるスキルなんて、正直ありがた迷惑なのよねぇ。

 ……もっとも」


 紅い唇をペロリとなめる。色っぽい。


「餃子の美味しさを教えてくれたのは感謝してるけどぉ。

 ロザリオも可愛いし」


 お気に入りらしい。

 胸元の十字架をチャラチャラと揺らせる。

 白銀のロザリオ。神秘的に煌めいている。

 なんか凄そうだ。マジックアイテムかもしれない。


 俺が触れたら、ヤケドとかするんだろうなぁ。それ。


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 弱点を芸風と捉えることが類を見ず素晴らしい解釈だと思いました。
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