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錬金堂繁盛記  作者: 三津屋ケン
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621 青年組の主張

 バイキングでお腹を満たした次はマイホームの展示即売会(無料)。


 リリパット族の生活は群生する巨大キノコ『コビトノアマヤドリ』と密着しているそうです。

 皆さん真剣な目で吟味していますよ?


 特に大きく育ったキノコを屋台骨に、天幕を張って家族が生活します。

 この茸ハウスの装飾に工夫を凝らすのが彼らのステータスだそうな。


挿絵(By みてみん)


 先に用意しておいた数反の布地が喜ばれていますね。

 衣服はそのまま、天幕には彼ら独自の防水加工を施して活用するとか。


 いくつか彼らにしか使えない特殊な技術があるみたいですね。

 いずれ勉強させて頂きたいものです。


 特に関心が高いのが☆2素材を狙ってゲットする技術。

 高品質商品を売りにしている《錬金堂》にとって極めて重要なのです。


「なんと、そんな秘密が?」


「リリー♪ リリリ!」


 えっへん胸を張るリリパット族の長老様。白いあごひげがキュート。

 住宅選びに夢中な皆さんを見守りつつ、入手法を伺っているのですが。


 なんと彼らの歌に奇跡の効果があるそうですよ?


 自生している野草に数日、彼らの《豊穣の歌》を聞かせるとグングン元気に生育。

 私達でいうところの☆1から☆2に昇格するとか。


「リリリ♪ リリリ~リ!」


「この森は土が素晴らしいのでたくさん収穫できるだろう。と言っている」


 それは素晴らしい! ラフレ様の通訳にも感謝です。


「リリリリ。リリリリリ…」


 付け足した口調がちょっと残念そうです。なんでしょう?


「湧き水がもっと良ければ更に豊作間違いなしだった。と言っている」


 お水ですか? それは盲点でしたね。


「この森の湧き水は豊かで澄んではいるが普通の水だ。

 『楽園の土』と比べられると見劣りは致し方ない」


 『天然水☆1』ですもんねぇ。生水だとちょっと心配です。


 今日のお料理には黒土山で汲んできた『天然水☆2』を使いました。

 そのままでもお美味しい水ですが、煮てお料理に使うと出汁の出が違うんですよねえ。

 よく溶け出してマイルドというか。うん?


「ラフレ様。

 ひょっとして、これを石版に捧げればいいのでは?」


挿絵(By みてみん)


 無限収納ポーチから『天然水☆2』の樽をひっぱり出しました。

 マスターが渓流に腰まで浸かってひぃこら取水した一部です。

 水も冷たくてなかなかの重労働でしたよ? お疲れ様でした。


「おお。良いモノを持っているではないか。その通りだ」 


 さっそく『迷宮主の石版』を操作して捧げます。これでよし?


「湧き水には即座に反映されるだろうが、森全体の水が入れ替わるまではしばしかかろう。

 気長に待つことだ」


 長老様に説明するとご納得の様子。

 そのまま素材の買取契約を結びます。


 家賃代わりに献上するとおっしゃられましたけど、それは遠慮しました。

 質の高いサービスは相応の対価から生じます。

 継続してこその商売ですよ?


 しかしこの森で『天然水☆2』が湧くようになったら万々歳ですよ?

 加工すれば『蒸留水☆3』になり得る重要な基本素材なのです。

 今のところ黒土山で汲むしかないそれを、こんな近くで補給可能とか。


 うきうきでそうラフレ様に話したのですけど。


「残念ながらそうそううまい話はないぞ?

 ここのような若い迷宮では水や土といった基本構成物は、モノではなく環境としてカウントされておる。

 野草や魚とは扱いが別なのだ。

 そのまま持ち帰ることはできぬ」


 やれやれと苦笑顔で否定されちゃいましたよ?


「え?

 じゃあ、もし湧き出る『天然水☆2』を樽に詰めて持ち帰ったら?」


「迷宮を出た途端ただの『天然水☆1』になっているであろうな。

 この森の『楽園の土』を持ち出そうとする輩がたまに出るが、そやつらが繰り返すことはまず無い。

 持ち帰ったらただの土だからの。くたびれ儲けよ」


挿絵(By みてみん)


 同じ事が既に試されてましたよ?

 しかも遙かに貴重な『楽園の土』で。そりゃそうですよねぇ。


 さっき取り出した『迷宮主の石版』を改めて確認します。


 現状、迷宮樹ダンジョン第0階層《迷宮樹の森》の基本パラメーターはこう。


 迷路強度[1]

 トラップ強度[0]

 モンスター強度[0] 

 採取・宝箱[1]

 施設[1]

 環境[5]


挿絵(By みてみん)


 前の3項目は迷宮の危険度、つまりリスクに関する項目。

 後の3項目は迷宮の報酬と居住性、つまりリターンに関する項目。

 おおまかに言えばそんな感じですかね? 


 環境だけが5と突出してるのが我が迷宮樹ダンジョンの特徴。


 これは腐葉土、土魔石、料理、蒸留水と生産系に偏った育成をしたタメ。

 今思えばそれもかなり過剰に栄養摂取させたような?

 マスターの育成テーマが《楽しいダンジョン》でしたからね。


「野草素材やザリガニは採取・宝箱[1]枠。だからそのまま持ち帰れる。

 土、水は環境[5]枠。だからそのまま持ち帰れない。

 てことですか?」


「そうだ。それは他のケースでも同じ。

 仮に施設のパラメーターを上げて『体力回復の泉』を設置したとする。

 その水を水筒に汲んで施設の外で飲んでもただの水だ。

 泉から直接飲んでこそ効果を発揮する」 


 たしかにそれが可能なら都合良すぎますよねぇ。

 あれ? じゃあ黒土山の水は?


「実体ある山から生じた渓流の水なら迷宮のシステムに縛られまい」


 なるほど。迷宮関係なく本当に綺麗な水なんですね。

 『天然水☆2』が欲しいときは冒険者ギルドに依頼を出すとしましょう。

 楽に儲けちゃ駄目、ってことですよね?


 今回、リリパット族の皆さんと素材買取の契約が結べただけでも上出来です。

 皆さんは今回の件をとても感謝してくれてますけど。

 ぜんぜんWin Win なのです。

 こちらこそアテにしてますよ?


 なによりこれでマスターを調合素材の属性合成から解放できます。

 その時間で『護りのネックレス☆3』を追加作成させたいのです。


 攻略組からの予約メールが殺到中。

 単価が凄いので売上予測も凄い額。


 迷宮樹ダンジョンを得たことでいろいろ先行投資の機会が増えてしまって。

 正直まとまった現金をプールしときたいのですよ?

 世知辛い話ですけど。 



「このあたりに自生する野草を利用するなら、一般の方の立ち入りは少し制限した方がいいですかね?」


 このコビトノアマヤドリ群生地は森の中心《迷宮樹》へと続く小道の奥に面しています。

 かなり《迷宮樹》に近い奥の方ですけど。


 最近は《るるいゑ寿司》と《銀の鍵大図書館》のオープンもあって、《迷宮樹》内の遺跡階層までくるお客さんも増えているのです。


 育成中の野草を知らずに採取してトラブルとかあり得る話です。

 いえ、それどころか。


「その方が無難であるな。

 周知はさせるが子供も多い。魅力的であろう」


 網で捕まえて虫かごに入れるだけで誘拐監禁が成立しちゃいます。

 なにしろ小さくて可愛いのです。リリパット族は。


 そんなわけでリリパット族の住まう群生地内は関係者以外立ち入り禁止の方向で相談していたのですけど。


「「「リリ! リリーリリリ!」」」


 リリパット族の若者が数名声を挙げて走ってきました。なにごと?


「とんでもない!

 俺達も町の人達と交流すべきだ!

 と言っている」


「リリ! リリリリーリ!」


「なにを言っておる!

 事故が起こってからでは遅いのだぞ! 

 と長老が言っている」


挿絵(By みてみん)


 若者組と長老さんの間で激しい議論が始まりました。互いに鈴のような声。


 通訳のラフレ様が楽しそうです。

 あの。結論出てからでいいですよ?

 

 激論の末でた最終案は。


 ・小道に面したキノコ群生地は観光地として開放する。

 ・メインの居住地は更に奥側のキノコ群生地に設ける。

 ・野草栽培は居住地よりさらに森奥側で行う。

 ・メイン居住地より奥側一帯は原則立ち入りを遠慮してもらう。


 となりました。激しかったですよ?


 若者組は観光地で歌や踊りを披露して土産物販売とか企画してるようです。

 居住地も奥側の方が立派なキノコが多かったので反対は無し。


挿絵(By みてみん)


 治安に関してはラフレ様が太鼓判押してくれました。頼もしい。

 手の空いた配下の方がまだまだいるそうです。

 どんな大軍団なんですか。


「草木に同化して待機している間はのんびり土を摘まんでいるようなもの。

 むしろ居住地に駐在したがる配下が多かろう」


 小道周辺はともかく、森のこの辺りから更に奥とかまず誰も来ませんしね。

 採取を巡ってトラブルも起きなさそうです。


「決まりましたね。

 観光地化にあたって必要な物資があれば教えてください。

 手配しますよ?」


「「「リリリリ!」」」


 ありがとう! て言ってるみたいですね。

 なんか覚えてきましたよ?


 シロとカゲリはバイキングの残りをたいらげて爆睡しています。


 その腹毛と黒繭の中にくるまる無数のリリパット族。可愛い♡

 うちのモフモフの前にはさすがのコビトさん達も無力なようです。最強♪

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