060 金物屋?
「食材なら市場の朝市で。
服や日用品ならその奥の筋の商店街だな」
買い物については大将が詳しかった。さすがプロ。
朝市は終わっていたので商店街に来た。
なかなか賑わってるな。
ブラブラ冷やかしてるうちに見つけたのは金物屋。
台所用品とか扱ってるようだ。
ディスプレイに高級品らしき鍋や刃物が飾ってある。
「うわぁ、綺麗ですねぇ。包丁って……」
イズミがソワソワしてるので先に入ることにした。
うん。職人さんの丁寧な仕事って綺麗なんだよなぁ。
金物屋だから鍋とか包丁とか置いている。
他にもイロイロ、本当にイロイロな金物が置いてある。
つか置きすぎだろう。
入店してすぐのスペースは包丁や鍋、フライパンなどが飾ってあった。
ここはイイ。問題はその奥だ。
奥はかなりのスペースがあり陳列棚が並んでいる。
その上に。
一見、木や青銅の素朴な箱。それが様々なサイズ、形状でズラリと展示されている。
特に形は見覚えがあるぞ?
それぞれの箱の前には説明書きが貼られている。読んでみる。
「マスター? なんですかコレ?」
「こ、これは……」
他の箱、商品の説明書きも読んでみた。
うわぁ、全部そうだ。
魔法の炊飯鍋、魔法の冷蔵庫、魔法の加熱・解凍器、魔法のオーブン、魔法のトースター、魔法のコーヒーメーカーなどなど。
魔法の。魔法の。魔法の。
台所電化製品ゼンブ魔法のアイテムにしてやがる!
しかもお値段安い!!
商品の説明見ると、リアルのメーカーとタイアップしてるアイテムらしい。
ゲーム中で使用感を味わあせて、リアルでも購入してもらおうという魂胆だ。商魂たくましいな。
うーん、賢い。
ゲーム中ならみんな財布の紐がユルユルだしな。
リアルじゃ腰が引ける高級電化製品も、銀貨払いならあっさり買ってしまいそうだ。
課金アイテムじゃないからリアルの財布は無傷だし。
店員さんに聞くと、他にも食材や調味料でもタイアップはお盛んなようだ。
なるほど、食品、家電メーカーからしてみれば試食・試用し放題の展覧会のようなものなのだ。
ゲームで美味けりゃリアルでも食いたくなるよな。
「ま、マスタぁー。ゼンブ欲しいですぅ」
イズミが情けない声あげて俺を見上げている。
オモチャ欲しがる子供か。
ダメ。置くトコないでしょ。
とりあえず3つまでな。
これらの魔法アイテム?は完全に『料理』専用で、他の用途、例えば『調合』や『錬金術』等にはいっさい使用できないらしい。
『料理』に関してはリアルと同様に使える。
そして持ち歩くことはできない。ホーム限定だ。
冒険先で料理がしたいなら専用のアイテムを揃える必要がある。
ちょっと残念だがしかたあるまい。
便利すぎるのも面白くないからね。
俺が思うに、運営側は料理に関してプレイヤーに不自由を感じさせたくないのだろう。
やっぱ料理だけはリアルが最強だ。
その中でも日本は特にLVが高いらしいし。
ゲーム序盤だから食事は堅パンと干し肉、じゃあゲンナリするもんなぁ。
食材と調理道具がリアル同様なら手軽に美味いモノが食べられる。
よしよし。頼むぞ、イズミ。
ガンガン美味いモノ作ってくれ。
俺とイズミはどれを買うかよくよく相談した。
そして決まったのが。
魔法の冷蔵庫、魔法の炊飯鍋、そして魔法のポットである。
魔法のポットはコップ何杯かのお湯を一瞬で沸かすアレ。
俺はリアルでアレに頼り切っている。外せん。
ちなみに魔法のレンジは見送った。
お手軽すぎて自分で作れなくなりそうだし。
魔法じゃない台所用品はイズミの求めにゼンブ応じた。
包丁、まな板、小鍋、ハシ、スプーン、フォークなどなど。
まぁ、必需品ですな。
足りないモノがあればまた来ればいい。
とりあえずこんなモノかな。
イロイロ買ったのでかなりの荷物になった。
とはいえプレイヤー標準装備のポーチは積載量無限だ。
重さも感じないし入れてしまえばいい。
そうしようとしていたトコロ、店員がオススメしてきた。
店が無料で配送、設置してくれるという。
へー。
せっかくだし頼むことにした。
店の住所を伝えると、小柄な黒い猫の獣人達がトトトトとやって来た。可愛い。
店の表にはいつの間にか猫印の荷車が待機している。
そこにドンドン商品を積み上げていく。
瞬く間に出発。
帰ったらリビングに置いてあるそうな。
「黒猫まで……」
「可愛い猫さんたちですねぇ」
「わうん?」
完全にタイアップだな。ココまでやれば凄いよ。
再配達とかケッコウなんで。適当に置いといてください。
金物屋?での支出はゼンブで銀貨50枚ほどで済んだ。
銀貨1枚1000円くらいの感覚だから、5万円くらい?
やっぱり家電はかなり安く売られているようだ。さすがタイアップ商品。
リアルなら桁がひとつ違ってるハズだ。
調子に乗ってかなり高級品をチョイスしてしまったからな。
イズミの欲しがりようがマジだったので。
それでも昨日までの俺にすれば結構な散財だ。
マンドラゴラ様々だな。
ああ、これがリアルだったなら。
……まぁ、即死絶叫でお陀仏だろうね。あっさり。




