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錬金堂繁盛記  作者: 三津屋ケン
54/651

054 錬金術組合

8/25更新2つ目です。


誤字報告ありがとうございます。

ついでに何カ所か修正しました。

 たまに遭遇するエネミーを無難に撃退しつつ、俺たちは町に帰還した。


 ホッとするね。なんとなくだが。


 まだ朝の9時過ぎ。いいペースだ。


 まず錬金術組合にやってきた。

 先に裏手を覗いてみる。

 が、前にここで子犬を世話してた少女はいなかった。中かな?


「もー。そんなに急いで返そうとしなくていいじゃないですか。

 イジワルなマスターですねッ」


 こっちの少女がお冠だ。

 いや、犬連れて屋内訪問もどうかと。


「じゃあ、わたし達はこのへんで待ってますよ」

「話、長くなるかもだぞ?」

「大丈夫。ブラッシングしてますので」


 どこで入手したのか木のブラシを取り出した。

 それを見て子犬もワフンと嬉しそうだ。

 ホント仲いいねキミタチ。


 仲良しさん達はほっといてサッサと依頼を済ますか。

 職業のコトも聞きたいし、☆5マンドラゴラの売却先も相談しなきゃならん。

 錬金術組合自体が買い取ってくれるのがベストなんだけどね。

 まぁ、そのアタリは流れだな。当たって砕けろだ。


 玄関先で要件を告げると慌てて職員さんが出てきた。


「マンドラゴラを採取できたと聞きましたが」


 俺が頷くと職員さんはまず丁寧に礼を言い、悲しげに目を閉じた。


「あの、子犬は元気ですよ?

 いま、裏でうちの子と遊んでます」

「! ……そうですか。

 よかった。でも、どうやって採取を?」

「まぁ、レアスキル持ちなもんで」


 なるほど、そうですか。と職員さんは納得してくれたようだ。

 いいな、この言い訳。これからもコレで通そう。


「そのおかげで採取も沢山できました。

 多めに引き取って頂けますか?」


 勿論ですッ。と興奮気味かつイイ笑顔の職員さん。

 俺たちは隣の事務室に入った。


挿絵(By みてみん)


 依頼のマンドラゴラを取り出す。

 職員さんのメガネが輝く。


 全部で9本あるうち、大きい順に6本を引き取ってもらえた。

 残った3つは自分用だ。なんか使えるだろう。


「鮮度が高くて処置もしっかりされています。

 本当はもっと高値で引き取りたいのですが……。

 我々も予算が限られていまして」


「いえいえ。こんなに頂けて恐縮してますから」


 余剰分は1本あたり銀貨40枚で引き取ってもらえた。

 1本分だけはギルドで報酬として受け取るから、カケル5で銀貨200枚だ。


 ふふふ。財布がいきなり重くなったぜ。


 達成メダルも受け取り、依頼は無事完了だ。

 さて、ここからが相談だ。


 イロイロあるのだが、一番ヤバそうな話から始めるか。小出しは良くない。


「職員さん。実はもう一つ見ていただきたいモノがあるのですが」


 ナンですか、他にも珍しいモノが? と興味を示す。

 俺は例のブツを取り出して置いた。


『マンドラゴラ☆5』


「こ、コレは…………」


 職員さんは絶句した。

 鑑定などせずとも知っているのだろう。

 机の上に鎮座したそれに手が伸び、寸前で止まった。

 なんと微かに震えてさえいる。


 え、そこまでのモノ?


挿絵(By みてみん)


「えーと、実は群生地の守り神みたいなヤツが出てきまして……」


 ここは話してしまうコトにした。

 売り先を考えてもらうためだ。仕方ない。

 ただ、特に即死絶叫連発することは念入りに言っとかないとな。

 もしチャレンジ精神発揮されたらヒドいことになる。


「ガーディアンですか……。

 我々には危険過ぎますね……」


 ご理解いただけたようだ。よかった。


 まぁ、俺の推測だと出現条件はマンドラゴラを10本以上採取するコトだと思われる。

 まず、この条件が鬼だな。

『即死無効』のスキルでもあれば別だけど。

 そんなスキル存在するかどうかも不明だ。


 吸血鬼プレイヤーってのは完全に想定外なんだろうな。

 なんなんだろうね、俺って。


「………ヒジカタさんは、コレをどうするおつもりですか?」

「錬金術組合に引き取っていただくのがベストだと思っています」


 俺は正直に答えた。


 もともと依頼の延長で拾ったようなモノなのだ。

 それに錬金術組合なら素材のプロだろう。

 エリクサーはじめ使い途には詳しいに違いない。

 イズミも言ってたが、俺たちが持っててもネコに小判だし。

 素材は活用してこそだと思うのだ。


 まぁ、一番の理由は子犬関連でいい印象があるコトなんだけどね。

 少女の小細工を見逃していたあたり、イイ人そうだ。


「我々としても喉から手が出るほどに欲しいのですが……。

 予算がとても足りません」


 ありゃ、こっちを先に見せるべきだったか?

 訊いてみると違った。


「コレに適正な価格をつけたなら、先ほどの銀貨を100倍積んでもとうてい不足。

 それほど貴重なモノです。

 特に我々錬金術師にとってはまさに夢の素材。

 私、汗が凄いですよ」


 苦笑しながら手を開いてみせる。手のひらがビッショリだ。


「もし入手できたら、エリクサーを?」

「それは夢ですが現実的ではありませんね。

 他に必要な素材も同じぐらい貴重で技術も足りません。

 中央の錬金術大学でも作成は技術的に賭けでしょう。

 まず失敗するでしょうが」


 そんな凄そうなトコでも無理なのか。

 思ってたより遙かに厄介だな。


「エリクサーでなくても、この素材で試してみたい研究は無数にあるのです。

 成功の見込みがあって、高い効果が見込めるモノもたくさん。

 我々ならそこに賭けます」


 ☆5を見つめる瞳が悩ましげだ。

 本当はひったくってでも研究したいのだろう。

 正直な人だ。こういうヒト、好きである。


「……実は、別口で相談しようと思ってたコトがありまして」


 まず、職業として『錬金術師』に就きたいコト。

 そして、拠点にできる住居を探しているコト。


「この2つに協力して頂けるのなら、コレはお譲りしますよ?」


 グアッと職員さんが俺を見た。凄い目だ。ド迫力。


「本当ですかッ!?」


 はい。嘘は言いませんよ。

 正直、俺も困っているのだ。

 職員さんの反応から浮いてくるのは、☆5の特盛り厄介さだ。

 もし他で話を洩らしたら、俺、そのまま拷問でもされかねない。コワイ。


「『錬金術師』については、しばらくウチで修行するか先達に指導を受けるかで資格を得られます。

 『住居』については……」


 職員さんは数秒目を閉じ、そしてカッと見開いた。


「組合が管理している物件に、長く空き家になっている工房があります。

 町外れで機材も古いモノですが。

 それを譲渡します」


挿絵(By みてみん)

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