053 町へ戻ろう
奥さんの朝食はとても美味かった。
またイズミが感動してたね。
パンは手作りでサラダは森番オヤジの採りたて山菜。
なんてオーガニック。
スッカリ腹ごしらえを済ませ、俺たちは拠点を出発することにした。
森番さんにお裾分けを受け取ってもらうのは苦労したよ。
そんなつもりではないって、頑固なのだ。
けっきょく宿泊代と技術指導料込みで、と強引に押しつけた。
☆2のマンドラゴラは地元の森番さん達でも貴重らしい。
特に本人より奥さんが喜んでくれたね。
聞くと年季の入った錬金術師で、ここの素材で不老薬の研究を重ねているそうだ。凄いな。LV高そう。
一番驚いたのが旦那よりかなり年上だという事実だ。
不老薬、すでに完成してるんじゃないの?
完全に美少女と野獣なんですけど。
それなら☆5もいっそ渡してしまおうかとも考えたが、コレはホームの頭金だ。
また次の機会に。ガーディアンに付き合ってもらおう。
森の拠点である森番小屋は冒険者ギルドと錬金術組合が共同で設置した施設らしいのだが。
そもそも森番さんが冒険者ギルドの代表、奥さんが錬金術組合の代表という建前であったそうな。
そのお二人が夫婦になったというのだから縁だね。
「この朴念仁を口説き落とすのは苦労した」
ローブの奥で奥さんが誇らしげだ。
森番オヤジは仏頂面だけどね。
春街道 勇んで駆ける わらべ犬
「オン!」
町への帰途、街道をのんびり歩く俺たちを子犬が先導している。もうヒモは繋いでいない。
これでエネミーとの戦闘時には結構な戦力になるのだ。
とにかく身が軽い。俊敏だ。
くやしいがステ値なら確実に今の俺より上だろう。というかイズミもそうだが。
考えてみれば俺よりステ値の低いキャラクターというのはこの世界に存在してないんじゃないか?
システム上、ステータス値がゼロやマイナスになることはないみたいだし。
ゲーム内最下位か……。まぁいいや。
『見下ろして立ち止まるより、見上げて歩み続ける方がゼッタイに面白い』
爺サマもよく言ってたしな。かえって迷わなくてイイよ。
種族特性なのか子犬は特に鼻がきく。
遠くにいるエネミーでも事前に嗅ぎつけるので不意打ちを食らうことがない。
地味に便利だ。やるな子犬。
「組合についたらお別れか。そう思うと寂しいな」
「そうですね……。せっかく仲良くなったのに」
イズミが本気で寂しそうだ。
犬の代わりに吸血鬼で、という悪魔のアイデアを生んだ少女には思えん。
しかもマスターなんですけど。俺。
子犬より扱いが悪いと思ってしまうのは、俺のやっかみなんだろうか。




