045 心配されてました
8/18更新5つめです。
「さぞかしお楽しみだったようで、とてもようございました。
しかし、少し遅すぎるんじゃございませんか。
森番さんなんて、捜索に出る準備までしてくれていたのですよ?」
心配されてたのは俺でした。
日の暮れた森の入り口、拠点の門前にイズミは立っていた。出発時よりギロリと座ったジト目で。
そりゃ単独で森の奥まで入って、夜になっても帰ってこなけりゃ騒ぎにもなる。
すまない。心配かけた。だけど仕方ないんだ。
まずボス戦になってしまったし、帰り道も夜エネミーが手強くて楽しくてつい相手しちゃったのだ。
と、いうか、その。イズミさん?
「ごめんなさい。ご心配おかけしました」
俺は深くアタマを下げた。
心配してもらえるのは、とても尊いコトなのだ。理由があろうとなかろうと。
「分かって頂ければ結構です。
まぁ、わたしも途中まではついていくべきでした。
マスター、森に入るなりヤラれてましたし」
げ、知ってたのか。開幕袋だたき。
眷族ってそういうの分かるの?
「少しだけですけど。その後、順調そうなので放置しましたが」
静かに怒る眷属サマをなだめつつ、俺たちは小屋に入った。ごめんな?
拠点小屋の中はちょっとした宿屋のようだった。意外と広い。
「おう、にいさん無事戻ったか。遅いから心配したぞ」
長椅子に腰かけてた森番さんがホッとした顔をしている。
すみません。ご心配お掛けしました。
大丈夫、ピンピンしてます。
「夜の森だ。迷ってるんじゃないかと思ったが、嬢ちゃんが夜は大丈夫と太鼓判押すもんでな。
大したモノだ。いや、ヒトは見かけによらんな」
森番さんから見れば、素人が一人でマンドラゴラ採りなんて不安の塊だったんだろう。
タネを明かせないのが心苦しいな。
「今日はもう遅い。泊まっていくとイイ。
飯は妻が用意している」
おおっ、ありがたい申し出。
お言葉に甘えさせて貰うことにした。ありがとうございます。
マッシブ森番さん、いい人だ。
俺たちも長椅子に腰掛けた。
イズミがお茶を貰ってきてくれた。ありがとう。
ふぅー。生き返るな。アンデッドだけど。
「それでマスター、ご首尾は?」
「ああ、バッチリだ。かなり多めに採取できた。それと」
森番さんに聞いてみるか。ガーディアンのことだ。
話を振ってみるとたいそう驚いている。
これまでそんなの出たコトないらしい。
職員さんも言ってなかったよな。
「御神木のコトは知っていたが……。
まさか化身が出るとはな。どんな奴だった?」
詳しく教えておいた。
耐性の無い人間が遭遇したら全滅間違いなしだからな。
あの絶叫はヒドイ。
「一度に10本も掘ったから、御神木が怒ったのかもしれませんねぇ」
数を聞いて森番さんは呆れ顔だ。
普段は捕まえた野獣に引っ張らせて1本ずつらしい。
それだって月に3本も取れれば御の字だそうな。
貴重品だな天然マンドラゴラ。そりゃ依頼も出るわ。
「錬金術組合とギルドが専属にほしがるぞ。にいさん、どうだ?」
ありがたいお話ですけど、そればっかりてのも困るので。すみません。
森番さんの奥さんが夕食を用意してくれた。ありがとうございます。
小柄なヒトだな。ローブを目深に被ってて顔はよく見えない。
かなり若い? 筋肉オヤジと並ぶとむしろ妹か娘みたいだ。
「おいしそう……」
またイズミが感動している。
お前、もう料理スキル取っちゃえよ。
俺たちはテーブルで手料理を頂きながら今日の首尾を語り合った。
ちなみに子犬は足下で骨付き肉をかじっている。幸せそうだ。
「こちらの採集はかなりの成果があがりました。森番さんがご指導してくれたので。
野草採集の継続可能な作法もレクチャー頂きました」
ああ、アレだな。俺も勉強になったよ。
「嬢ちゃんは飲み込みが早くて教え甲斐がある。
それに『鑑定』もしてくれたからこちらもイロイロ助かった。お互い様だな」
へぇ、スキルを明かしたのか。信用できそうなヒトだしな。
☆5の件は……。コレは危険だな。
知ってしまったら無理するかもしれない。
耐性無いヒトにガーディアンは死神そのものだ。
「にいさんもレアスキル持ちらしいが、ナニも言うことはないからな。
冒険者が手の内を明かす必要は無いぞ。こっちも聞かん」
人生の先輩らしく、俺の逡巡を読み取ってくれた。
そう言ってもらえると助かります。




