041 マンドラゴラ
8/18更新1つめです。
38話の一部に誤りがあり修正しました。
「リアルで6時間」→「リアルで3時間」です。
ゲーム中の時間経過は6倍なので。
さてと。もらった地図によるとそろそろなんだが……。
探し探し歩いていると、鬱蒼としていた森が突然ひらけた。
お、あったぞ。淵だ。
か細い澄んだ水の流れが小さな淵に注ぎ込んでいる。
森の奥は山に続いている。そこから湧き出る幾筋もの清水がココで集まり清流を作る。
そして山に沿って流れ、合流を重ねて川になる。ココが源流なのだ。
この淵の周囲、岩場と接した狭い草原がマンドラゴラの群生地なのである。
やれやれ。やっとついたよ。
地図の端っこには葉っぱの絵が描いてある。
シンプルだが特徴を捉えてあってとても分かり易い。
とてもあのマッシブ親父の手によるモノとは思えん。絵心があるとは……。
地図片手にしゃがんで見渡せばそこら中に同じカタチの葉っぱが茂っている。
これ全部マンドラゴラか? ちょっと怖いんですけど。
ひと通り見渡して一番太い茎を選んで掴む。
抜くのは簡単らしいが……。
『呪いの即死絶叫』VS『呪われた吸血鬼ボディ』なワケだが。
大丈夫だよな? イズミ、信じるぞ?
グズグズ迷っても仕方が無い。
俺は力を込めてマンドラゴラを引っこ抜いた。
キイィヤアァァァァァァァァァァァァッ!!
耳を衝撃が貫いた。
とんでもない大絶叫が襲いかかってきたのだ。
ひぇー。鼓膜が痛い。
絶叫が止んでも耳の奥でまだキンキン鳴っている。
アレだ。
友達に誘われていってみた素人バンドのライブ大会。
そこで知らずに巨大スピーカーの前に陣取ってしまった時と似ている。
あれも酷かった。3日くらい耳鳴りが取れなかったもんだよ。
だが今、俺はまだ生きているようだ。
手には土の付いたマンドラゴラ。
太い根っこがホントにヒト型をしている。キモいぞ。
HPバーはちょっと減ってるが『再生』スキルが仕事を開始した。すぐに埋まるだろう。
よっしゃッ!
身代わり犬無しのマンドラゴラ採集、コンプリート!!
この場合は俺が身代わり吸血鬼か。コレはコレで酷い作戦だよな、イズミ。
大音声によるダメージは通ったが即死効果は弾いたようだ。さすがアンデッド。
吸血鬼ボディの勝ちだ。
あいつの目論見通りになったみたいだな。
さてと。乾かないうちに処理しないとな。
腰のポーチから採集用のナイフを取り出す。
抜いたマンドラゴラの根元、人型根っこで見たら額のラインで刃を入れる。
そして草部分と根っこ部分に分離させた。資源保護のタメだ。
根を残した草部分を植え直せば、時間はかかるがまた根っこは生えてくるらしい。
森番さんからそうするよう念を押されたトコだ。手は抜けない。
いわく野草採集は常に未来を考えておかねばならぬ、そうだ。
根こそぎ採ったらそれきりで終わってしまう。
それでは森の恵みはすぐ枯渇する。
良いことを聞いたぜ。
俺は採集クエストに癒やしを感じるナチュラリストゲーマーなのである。
こういう心がけは大好きだ。
残す草部分だが、広くて日当たりの良いとこに植え直してやれば復活も早かろう。
ついでに水も掛けてやろうか。肥料があればよかったんだが。
うーん。スコップとジョウロが欲しいとこだね。
うむ。植え替え完了。
大きめのマンドラゴラはゲットした。
とりあえずは依頼達成なワケだが。
せっかくココまで来たのだ。もう少し貰っていくかね。
職員さんもできれば数欲しいようなコト言ってたしな。
それに依頼だけでなく自分用も欲しいのだ。
使い方はイズミの『鑑定』でチェックすればいい。
ふふふ。楽しみだ。
せっせとマンドラゴラ採集に励む俺。うーん、癒やされるね。
絶叫のたびに耳がキンキン痛いがそれも慣れてきた。慣れってコワイ。
『再生』スキルは今日も大忙しだけどね。いつもアリガトな。
植え直しもずいぶん手際よくなってきた。
マンドラゴラも密集してる株から間引いてくとか、もはや家庭菜園のノリだ。
いっそ、このまま『農家』に就職しちゃおうか。いま無職だし。
ふおんふおんふおん…………。
そんなコト考えながら10個目のマンドラゴラをポーチにしまった時、背後でなにやら妙な気配を感じた。
振り返る。目を凝らして警戒する。
群生地の端っこには妙に太い木が1本生えている。太さの割に背が低くて樽のような形をしている。
パイナップルに似てる。見たことない木だな、とは思ってたんだが。
その太っちょの幹から半透明の影がジワジワ湧いている。
このポップ演出は樹精か?
いや、樹精じゃないぞ。コレは?




