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錬金堂繁盛記  作者: 三津屋ケン
38/651

038 子犬と少女

8/15更新5つめです。

 錬金術話が思ったより長くなってしまった。

 巻かないとな。

 俺は今日リアルで3時間、こっちで18時間しかログインできないのだ。


 最後に犬を受け取らねば。正直、気が進まんが。

 職員さんの案内で作業場の裏口に回る。


 そこでは小柄な少女が白い子犬に食事を与えていた。

 がっつく子犬を愛おしそうに見つめる少女。可愛がってるんだなぁ。


 えーと。困ったな。俺たち、悪役だぞ?


挿絵(By みてみん)


「冒険者ギルドから依頼を受けた方たちよ」


 職員さんの呼びかけに少女はうなずいた。


 壁際に置いてあったボロい鞄を開き、丈夫そうなヒモを取り出す。

 食事を平らげて満足げな子犬の首にクルクル器用に巻く。

 簡単だがリード紐だな。そのヒモの一端を俺に手渡した。


「この子をよろしくお願いします」

「は、はぁ」


 とっさにどう答えたモノか困った。間抜けな声しか出ない。

 イズミの口元が苦笑に歪んでいる。

 見逃さないね、キミは。


 渡されたリード紐を確認。特におかしなトコロはない。

 軽く振ってみた。


 うん?

 ……微かな違和感。


 身体の無駄な動きを『五体連動』に矯正されたときみたいな感覚が走った。

 スキルを取る前じゃゼッタイに気付かなかった微かな違い。


 振るのはやめて少女をのぞき見る。

 なぜか緊張しているようだ。

 ……なるほどな。


 職員さんと少女に挨拶して俺たちは出発した。

 白い子犬はおとなしく付いてきている。

 俺たちは西門をくぐって町の外へ出た。




 目の前に広がる広い草原とそこを走る白い街道。


 広い広い世界。ここをどこまでも駆け巡ってイイのだ

 この遠景をみるたび夢のファンタジー世界だと実感するな。


 目指すは『叫びの森』の森番拠点。

 そこからマンドラゴラの群生地、なのだが。


「わざとヒモを切るのはナシですよ? マスター」


 リード紐の真ん中あたりを手に取って釘を刺すイズミさん。


「お前もわかったのか?」

「ヒモの方はゼンゼン? なのでマスターの表情をみてました」


 イズミが調べてるのはさっき違和感を感じた部分だ。


「なるほど。ココですね。ある程度引っ張ると切れる細工ですか」


 子犬を逃がすための仕掛けだろう。

 あの少女の仕業だ。


 逃げた子犬はまっすぐ少女の元に駆け戻るのだろう。

 少女はそれを隠す。

 身代わり犬が行方不明でクエストは無事失敗。

 そして、また依頼が出る。


 職員さんは、気付いてるんだろうなぁ。知らないフリか。

 クエスト失敗したプレイヤー達はどうだろうか。

 案外わかってるかもなぁ。俺でも気付いたんだし。

 子犬も少女も可愛いから、あっさり引き下がったんだろう。

 優しい話だよ。


「優しいイイお話だと思うんだけどさ。俺は」

「気が合いますね。わたしもですよ?」


 じゃあ、なんで新しいヒモ用意してるの?


「クエスト達成のタメですよ。

 きっと、この子が帰還した時点でクエスト失敗だと思うので。

 ……はい。交換済みました」


 手渡された新しいヒモはとても丈夫そうだ。

 絶対に切れまい。


 それを繋がれた子犬は心なしか青ざめてるように見える。

 うん。ゴメンな? 運が悪かったな。



挿絵(By みてみん)



 この世界の町と町は割と整備された街道がつないでいる。

 今回は途中から森方面の脇道に入ってしばらく歩く。

 街道から脇道にさしかかったトコロで昼食にした。


 安全地帯でこそないがとても見晴らしがイイ。

 もしエネミーが近づいてきてもすぐ分かるだろ。


『魔界飯』大将謹製の『サンドイッチ弁当☆3』だ。美味い。


「食事って素晴らしい……」


 またイズミが感動している。


「素晴らしいのは大将の腕だからな。あのヒト名人だよ」

「そうですか。『料理』スキルが卓越して高いんですね」


 あれは地の実力だろう。リアルでも店やってるらしいし。


 いや、それも設定か? 魔界のヒトだし。うーん。


 なんかプレイヤーなのかNPCなのか分からんヒトばかりだよな。

 分けて考えるのが面倒になってきた。

 まぁ、ゲームの中じゃみんなリアルだ。それでイイよ。


「ほらほら、お前も食べなさいな。オイシイですよ?」


 イズミが差し出したハムを、子犬が美味そうにパクついている。平和だねぇ。


 いい天気だ。


 コイツをどうやって逃がすか、考えとかないとなぁ……。



挿絵(By みてみん)

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