037 錬金術組合
8/15更新4つめです。
「おい、イズミ。犬、可哀想じゃないか」
「はい。それはもう」
冒険者ギルドで正式に依頼を受領してしまった俺たちは、町の錬金術組合に向かっている。
わりと近いらしいが。
マンドラゴラの自生場所の情報と身代わりの犬を受け取るタメだ。
しかし、俺はかなり乗り気ではない。
だって可哀想だろ。犬。
俺がどう断ろうか迷ってるうちに、イズミがさっさと手続き済ませてしまったのだ。
即キャンセルはペナルティがあるそうなので、やるだけやってみるけどさ。
「そう思うなら、なんで受けたんだ?」
「報酬がいいですし、マンドラゴラにも興味ありますし」
まぁ、それはそうだけどさ。
銀貨50枚は魅力だし、マンドラゴラはファンタジーの定番だ。
入手しておけばイロイロ使い途もあるだろう。
だけど犬、それも子犬を犠牲にってのはイヤすぎだろ。
「大丈夫。なんとかしてくれますよ」
「誰がだよ」
「お強いマスターが」
コッチに打ち返された。ぎゃふん。
錬金術組合は小さな研究室といった雰囲気だった。
10人ほどの白衣姿のヒト達がナニやら忙しそうに作業している。
フラスコの怪しい液体を渋い顔で味見している研究者。
ゴンゴンと轟音響かせるボイラーの圧力計とにらめっこしてる研究者。
みんな錬金術師なんだろうか。
いかにも理系の研究室って感じだ。化学系だな。
玄関で冒険者ギルドで依頼を受けたと伝えると、
担当者らしき白衣の女性が応対してくれた。
「新薬の研究で新鮮なマンドラゴラが必要なのです。
急いでもらえると助かります」
若干対応が素っ気ない。
まぁ、冒険者ギルドに依頼をだしたものの、失敗続きでイロイロ滞っているのだろう。
内心ウンザリしてるのかもしれないな。
同じ説明繰り返してるだろうし。
マンドラゴラの自生場所と注意点を教えてもらう。
場所は町から西へ進んだ危険区域『叫びの森』。
その奥に群生地があるらしい。
現地には番人が駐在しているらしいから、詳しい場所はそのヒトに聞けばいいそうだ。
『叫びの森』はモンスターは強いが、貴重な素材が多く自生しているらしい。
冒険者ギルドと錬金術組合にとっても重要な場所らしく、共同で拠点を建てて管理しているそうだ。
ひとまずそこを目指せばいい。その後は番人さんと相談だな。
マンドラゴラのノルマは1本だけだが、なるべく大きいのがイイらしい。
本当はもっと欲しいのだが、採取方法がアレなのでゼイタク言えないそうだ。
可哀想だし、と職員さんもこぼした。
犬とかどうなってもいい、とかは思ってないようだな。
ちょっと安心した。
普段は精製済のマンドラゴラを商都から仕入れているそうだが、今回は成分的に使えないそうだ。
身代わり犬の扱い方も聞いておく。
マンドラゴラは誰かがその叫び声を『聞く』ことで魔術的な成分が湧くらしい。
耳栓したり遠くからヒモで引っ張ったり、ではイカンのだ。
ただの雑草同然になるそうな。面倒な作物だな。
ひと通り話を聞いたトコロで、ふと思い出した。
そういやカーミラさんが教えてくれたな。錬金術で。
「依頼と関係ない話なんですが、錬金術のコトで教えてもらってもいいですか?」
「結構ですよ。お答えできることなら」
あっさり引き受けてくれた。助かります。
「錬金術で装備の強化ができるって話を聞いたんですが。本当でしょうか?」
職員さんは少し考えてから口を開いた。
「装備の強化ですか。
可能ですが、それはかなり上位の魔法アイテムのケースですね」
上位の? あれ? タダの黒服とか蝶ネクタイの話ですけど?
「金属で言えばミスリル銀以上。
木材なら樹齢千年以上の霊木。
繊維なら神霊から祝福を受けた霊布と言ったトコロ。
そういう魔力や霊力の塊のような素材なら可能です」
出てくる名前が凄そう。こりゃ違う話だな。
強化自体は『錬金術』の基礎『合成』アーツで出来るそうだ。
他の素材を融合させることで強化が可能らしい。そんな難しい話ではないようだ。
「しかし実際には試したコトはありませんね。
ベースになる素材が稀少揃いですから」
すみません。そんな高級品の話じゃないんです。
防御力紙同然の固定装備をナントカしたいだけなので。
いや、待てよ。
凄い素材でなくても珍しい素材ではあるかもしれん。
なんせ『吸血鬼の礼服』だ。
そこらでバーゲンしてないのは間違いないのだ。
お試しで頼んでみるか?
「マスター?
そんなホイホイお見せしてよいモノなのですか?」
はッ。言われてみれば。
装備名に『吸血鬼の』と大書きしてあるではないか。
一発で身バレしてしまう。
そして討伐エンドだ。心臓に白木の杭だ。ヤバイ。
うーむ。残念だがいまは諦めざるを得まい。
『錬金術』は自力でスキルを取得するしかないな。
そう思って覗いてみた取得可能リストに『錬金術』がない。
職員さんに訊いてみたら、錬金術師の専用スキルとのご返事。
つまり俺が装備を強化しようと思ったら、自ら『錬金術師』の職に就くしかないということだ。
思ってたより大ごとだなコリャ。とりあえず保留だ。




