031 眷族の望み・始祖の哄笑
カーミラさんは気前がいいです。
「わたしは、『人間』になりたいです」
長い沈思黙考のあと、イズミが口にしたのは予想外の望みだった。
「……………イズミちゃん。理由を聞いてもいいかしら?」
カーミラさんの口調は優しい。
しかしイズミは首を振った。
「わかりません。ただ、自分の中の、奥の奥の方にこの衝動がありました」
イズミは少し苦しそうだ。額に汗が浮いている。
自分の中を覗き込む、というのは苦しいコトなのかもしれない。
もし俺なら……。
イロイロ恥ずかしい思い出が転がってるだけだな。封印。
しかし『人間』ねぇ。
俺は『人間』なのが普通だから、そんな特別イイモノとも感じられない。悪いとも思わないけどね。
イズミはNPC、つまりAIだ。そっちから見るとよく見えるモノなんだろうか。
…………いや。
「AI、人工知能はそもそも人間の代わりが出来るようにと開発されたって聞きました。
イズミの望みは、本能みたいなモノなのかもしれません」
ただの思いつきだったが、カーミラさんはなにかを感じたようだ。
「本能……。イズミちゃん、ホントによく自分を覗き込んだのねぇ」
とても優しい顔でイズミのアタマを撫でる。おばあちゃんの笑顔だ。
「エライわぁ。こうなったら、私も後には引けないわねぇ」
白い歯を剥いて不敵に笑う。
おお、一転して妖しい迫力が。悪者っぽい。
「NPCを人間にする。これはまさに真理への反逆。
邪悪なる吸血鬼にふさわしい課題。
ああ、何十年振りかで燃えてきたわぁ。
アハハハハハハハハッ」
甲高く笑う。
それは、とてつもなく巨大なモノに挑む、挑戦者の笑い声だった。
『人化』の具体的な方策については、カーミラさんにお任せするコトになった。
というかお任せするしかない。俺たちでは完全にお手上げだし。
凄い張り切ってるからなんとかなるだろう。
このおヒト、なんでもできそうだしな。
話がひと段落した俺たちに、大将がモーニングセットを用意してくれていた。
気配りが渋いぜ。
「食事って、素晴らしい……」
生まれて初めてらしい食事にイズミが感動している。よかったな。
お昼用のサンドイッチまで持たせてくれた。大将、超ありがとう。
出がけにカーミラさんが、イズミに1冊の辞典を手渡した。
「お祝いよぉ。役立つスキルだから鍛えなさいな」
アナウンスが鳴る。
「イズミは『鑑定』を取得しました」
ちょッ、レアスキル!?
俺のときはスルーだったじゃないですか!?
「男の子には戦闘系の方がいいでしょぉ?
なんか考えとくわぁ」
ニンマリ笑った。
はぁ。ありがとうございます。かなわんなぁ。




