030 NPCの見る夢
「フォローは、私がするべきねぇ。
……ヒジカタくん、どうしたい?」
ここで俺に振ってきた。
うって変わっての真剣な目。
ふざけちゃいけない目だ。
現状、俺にできるコトなんてナニもない。
ただ希望はある。それでいいのかも分からないけど。
イズミを見る。不安げに俺を見ている。
そんな顔もするんだな。
「彼女に正当な報酬が渡せれば、と思います。
眷族だから当然、ムリヤリ、とかじゃなくて。
気持ちよく俺の冒険の道連れになってくれるような報酬が」
考え考え、そう答える。タダじゃいかんよな。
カーミラさんはそんな俺の顔を興味深げに見ている。
「……イイ答え。とてもイイ答えよぅ。
そう、言ってくれるとおねえさんも頑張り甲斐があるわぁ」
ご本人もとてもイイ笑顔で笑ってくれた。
まるで白い花が咲いたようだ。
「イズミちゃん。望みを言いなさい。
生まれたばかりで難しいかもしれないけど、ナンでもいいから言いなさい。
よく考えて、自分の中をよく覗き込んで。
この『吸血鬼カーミラ』がなんとかしてあげるわぁ」
カーミラさんはイズミを強く抱き締めた。
愛おしげに。
なんだろうな。
大吸血鬼でも始祖でもない、
この『吸血鬼カーミラ』という言葉にこもる迫力は。
跪かずにはいられないような、そんな威厳が。
抜けそうになる膝に懸命に力を込めた。
カーミラさん、マジだ。
マジで『始祖』だ。恐ろしい。
抱き締められたイズミは青ざめている。
この迫力に充てられたのだろう。
もともと青い顔がさらにドンドン青ざめて……。あ。
「カーミラさんッ、『怪力』! 発動してます!!」
「あ、いけない。久しぶりに興奮しちゃったかしらぁ?」
あわてて腕を解いて、てへッと舌を出す。可憐ですけど。
「ごめんねぇ、イズミちゃん。ゆっくり考えていいのよぉ」
「は、はい。ゲホッ」
俺は急いでイズミの背中をさすった。よく死ななかったな。
カーミラさんのステ値とか想像もつかないけど。
短時間でよかった。
イズミはうつむいて考え込んでいる。
その背中が妙に小さくて、俺はなんとなくさすり続けてた。
誰一人喋らない、長い沈黙が落ちた。
「…………………………わたしは」
どれほどの時間が経ったのか。イズミが口を開いた。
「わたしは、『人間』に、なりたいです」




