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錬金堂繁盛記  作者: 三津屋ケン
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029 眷族とは

「ここだ」

「居酒屋、ですか? 早朝ですよ?」


 普通、そう思うよなぁ。

 連れだってやってきたのは『魔界飯 新宿』。

 俺はこの店の暖簾が外れてるのを見たことがない。


 そして案の定、いつもの席。

 あの美人の姐さんは朝から飲んでいた。

 肝臓だいじょうぶですか?


「まぁーッ!! なんて可愛い眷族ちゃん!

 コッチ、コッチおいでなさい!」 


 カーミラさん、大興奮である。

 いつもの席に腰掛けたままブンブン手招きしまくっている。


「ま、マスター?」


 ビビって後ずさるイズミさん。


 その背中を俺はグイと押した。

 ほらほら。せっかく歓迎してくれてるんだから乗っとかないと。

 大丈夫。親切なヒトだから。大吸血鬼だけど。


「うーん、可愛いわねぇ。

 やだ、肌なんかスッベスベ! 

 羨ましいわぁ。生まれたてなのねぇ。

 髪もツヤツヤでいい匂い。

 もー、食べちゃいたいわぁ!」


 ガバッと抱きついて頬ずりしたり髪をいじったり。

 果てには指を捕まえてパクリと口にくわえてしまった。

 

「ひぃッ」


 鳴くイズミ。完全に腰が引けている。


 うーん。可愛がりようが凄い。

 ホントに喰われちゃいそうだな。



挿絵(By みてみん)



 ナンだろうね、これ。愛犬家と子犬?

 いやむしろ、おばあちゃんと生まれたての孫だ。


 カーミラさんは自称『真の始祖たる大吸血鬼』とか言ってたっけ。

 そういうヒトからみると眷族って孫的なモノなのかね。


「私はカーミラしゃんでしゅよぉ。

 アナタのお名前はなんでしゅかぁ?」


 とうとう赤ちゃん言葉まで飛び出しました。

 完全におばあちゃんです。ありがとうございました。


「い、イズミと名付けて頂きました。カーミラさま」


 コッチを涙目で見つめてるが我慢してくれ。


 ごめん。凄い面白い。


「イズミちゃんでしゅかぁ、イイお名前でしゅねー」


 愛おしげにアタマを撫で撫でする。

 ニッコリ笑顔で俺を見た。


「ふふふ。ヒジカタくんの相棒がイズミちゃんかぁ。

 ご主人様の懐刀としてキチンと頑張るのよぅ?」


 おおッ!? 見抜かれてる?


「カーミラさんって、日本の方なんですか?」


 このゲームは同時通訳が超優秀らしいので言葉じゃ国籍もわからないのだ。アバターはイジりたい放題だし。

 ネットも超高速超容量が当たり前だから海外からでもログインできるし。


「見ての通りのヨーロピアンよぉ。

でも本が和訳されて長いからねぇ。本棚にいるのはみんな友達よう?」


 ? よくわからん。

 まるで原作の化身みたいな口ぶりだ。そんなワケないし。


 幕末期の京都で暴れ回った『新撰組』。

 その副長土方歳三が常に傍らに置いた愛刀が、

和泉守兼定』(いずみのかみかねさだ)だ。


 ちょっと歴史に興味のある日本人なら知ってる豆知識ではある。

 ただ、シスター姿の銀髪美人がご存じだとは意外だった。

 博識だな。カーミラさん。底が知れないぜ。


 そんな強者が遠縁にいたかもしれない、と教えてくれたのは爺サマだ。

 猫のイズミの背中を撫でながらだったな。

 今となってはホントか嘘か分からんけど。


 土方歳三は歴史の流れでは敗者だが、己の信念に生きた一人の人間としては美しいと思う。

 なんとなく憧れるヒトだ。

 俳句が好きだがゼンゼン上手ではない、というトコも愛嬌でイイ。

 俺が不意に一句捻ってしまうのもこの人の影響だ。

 さらに比べようもなくヘタだけどさ。


「その方は、マスターのご先祖様なのですか?」

「うーん。正直、かなり怪しいな。

 俺の先祖は京都の芸者で、歳三さんと馴染になって後にこっそり子供を産んだのがルーツだって聞いた。

 明治維新のドサクサに勝手に土方姓を名乗って続いているらしい」


 コッソリかつドサクサというのがかなり怪しい。

 それを語った爺サマも怪しさは相当だ。信憑性は限りなく低い。

 ま、多く見積もって、話半分だね。


「ゲイシャの子孫、の方がガイジン的には魅力かもねぇ」


 まぁ、そんな気分だけの家系ですよ。うちは。


 まぁ、ウチの家系の怪しさはどうでもいいのだ。


「カーミラさん、吸血鬼の眷族について教えてもらえませんか?

 正直、俺も彼女もどうしていいものか」

「お安い御用よぉ」


 軽くうなずくカーミラさん。懐にイズミを確保したままだけど。


「ごほん。

『眷族』は吸血鬼作品におけるトリックスターね。

 昼間動けない主人に代わって墓所を守ったり、獲物をさらってきたりするのが主な仕事。

 吸血鬼ではないけど主人とは強い絆で結ばれているわぁ」


 ほほう。吸血鬼、ではないんだな。

 じゃあ、ペナルティは大丈夫か。


「作品によってはいずれ吸血鬼になるのかもしれないけどねぇ。

もしくはそれを目的に仕えている邪悪な従者って感じかしらぁ」


「わたしは吸血鬼じゃありませんし、なりたいとも思ってません」


 抱き枕状態で愛でられながら、イズミが抗議する。


「だけどシステムより『眷族として仕えるべし』と規定されています。

これはちょっと不当ではないでしょうか」


 不満げに口をとがらせる。


 その背中をポンポンと叩きながら、カーミラさんは思案している。


「ああ、無理矢理システムに介入しちゃったか。 称号が強力すぎて一人歩きしてるのねぇ。

魅了される前に眷族化とか乱暴もいいトコ。ふぅ」


 ヤレヤレ、とため息をつく。


 すみません。面倒ゴト持ち込んじゃって。


「いいのいいの。貴方達が悪いんじゃないのよぉ」


挿絵(By みてみん)

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