028 眷族
「なるほど。これがマスターのお好みですか?」
「違うからね。サイズ的にコレしかなかったからで、
別に俺の性癖がどうとか関係ないからね。ゼンゼン」
「ご主人様とかお呼びすべきでしょうか?」
やめてくれ。目覚めてしまいそうだ。
しかも似合ってるんだ、これが。
深紫のメイド服と薄紫の肌がよく調和してる。
薄灰の髪も落ち着きがある。目に優しいメイドさんだよ。
メイド服は受付のオバチャンが若い頃着てた制服なんだそうな。
コレで旦那を捕まえたとか、訊いてもない情報までくれて困った。
しかし宿屋でメイド装備一式が買えちゃうとはね。
このゲーム融通が利くにも程がある。
防御力もそこそこあるし。
エプロンとカチューシャもくれたが今はやり過ぎだ。しまっとこう。
「それではマスター。ご命令を」
は? 今度はナニ?
「眷族としてお仕えするのがわたしの存在意義です。
ご命令がなくては困ります」
俺は手を上げた。
「ごめん、質問。ケンゾクてなに?」
「!? ご存じないのですか!?」
うん。リアルじゃ聞かない言葉だ。
「わたしはマスターの『眷族化』スキルによって、
コンなことになってしまったのですよ?
その当人がご存じないと?」
呆れ顔もカワイイですよ?
うーん。そのスキルも初耳なのだけど。確認してみるか。
一緒に見てもらおうか。ステータスを可視化して、と。
『眷族化LV1』
「ありゃ、確かにあるな」
いつの間に生えた? 検証バトルに夢中になりすぎてたか?
「! ナンですかこの、冗談みたいなステータスは!?」
イズミさんがアングリ口をあけて驚いている。
ステ1が鉄板ネタになってるな俺。
気軽に披露できないのが残念だ。
「あぁ、俺、昼は弱いよ。吸血鬼だから」
「弱すぎでしょう!?」
最近、だからこそ面白いのだけどね。戦闘の緊張感がもう。
「とんだマゾヒストですね。なんでこんなヒトが主人なのか……」
マゾはちょっと言い過ぎだろう。
ガジガジ草に叩かれても気持ちよくなんかないぞ? まだ。
「簡単に言えば、眷族とは強い繋がりをもった従者のコトです。
血縁のある集団を指すこともあるようですが」
呆れながらもイズミは説明をしてくれる。イイ子だ。
「わたしはマスターにお仕えするようシステムに規定されています。
裏切ることはありませんし出来ません。遺憾ながら」
遺憾ながら多いな。
「ただし『吸血鬼の眷族』になにか特別な意味や規定があるかどうかは存じません。
今の説明はあくまで一般的な語彙です」
ふむ。つまりイズミは眷族として役割を振られているが、吸血鬼うんぬんについては知らない。ということだな。
「よし。それじゃあ詳しいヒトに聞きに行こう。
ついてきてくれ」
俺としては可愛い道連れができたようで嬉しい。ソロだったし。
だが、それが彼女に苦痛を与えているのなら不本意だ。
ちょうどいい落とし所を見つけないとな。




