026 薄紫の少女
やっと登場です。
もう一人の主人公。
コレはどういうことだ。
半裸の女の子がベッドで寝ている。
先に言っておく。
俺は無実だ!
自分の部屋からログインしたとこなのだ。
こっちで目を開けたらいきなり裸族が隣に寝てたのだ。
少女誘拐も援助交際もやってません! アリバイあり!
うわぁ。
タオルみたいなの巻いてるだけでほとんどハダカだ。
なんかイロイロ見えそうなんですけど。ごくり。
いや、いやいや。
どうなってんのこの状況。
とりあえず落ち着いて観察だ。
決して視姦ではない。ないのだ。
肌はなんか薄くパープルがかっている。
閉じられた両目の下にはチョンチョンと模様が入っている。
タトゥーか? ヘンな柄だな。
プレイヤーではなさそうだ。NPCか?
酔っ払ったNPCが部屋を間違えちゃったとか?
リアルではたまにあるご近所トラブルらしいけど。
くんくん。酒の匂いはしないな。
むしろリンゴみたいな甘酸っぱい匂いがする。
好きな香りだ。
は、まさかコレは。
コレがあの伝説の『ぱふぱふ』イベントってやつなのか?
その気になって前のめりになったら、
屈強なオッサンとかが出てきて微妙な体験をさせられてしまうアレか?
ドコだオッサン!? チェックだ! ここか!?
………いないなオッサン。
ちょっと残念。
まぁ、現実逃避はここまでにしておいて。
困ったな。このままにしておくのもどうか。
なんせ半裸の少女だ。
放置してなんか間違いがあっても可哀想だ。
この宿の部屋もそのうち誰かが使うだろうしな。
とりあえず起こすか。話を聞けばなんか分かるだろう。
『すみませーん、間違えましたー』で終わるちょいネタかもしれんし。
うん。きっとそうだ。
揺すってみた。反応はない。
さらに揺するとようやく身じろぎした。
うぅん、と微妙な吐息が漏れる。
心臓に悪いぜ。
閉じていたまぶたが震えて徐々に開いていく。睫毛長いな。
開いた瞳は灰色だ。光は薄い。
それが俺を見た。視線が一致した。
「……マスター…? いきなり、セクハラですか?」
目が合うなり、告発された。俺は無実だ。
「この身の全てはマスターに捧げるよう設定されています。遺憾ながら。
しかし運営規程によりセクハラは禁止です。
ご遠慮ください」
「い、いや、違うんで」
無実を主張せねば。
このままでは眠る少女にイタズラしようとした変態紳士に認定されてしまう!
戦慄する俺を尻目に薄紫少女は立ち上がった。
ズレる! タオルズレ落ちかけてますよ!?
「転生NPCに名前を与えてください」
アナウンスが流れた。
突然目の前に巨大な契約書が展開された。
羊皮紙?なのか妙に厚ぼったい契約書だ。
真ん中にある四角い記入欄だけが白く輝いている。
いつの間にか俺の手には羽根ペンが。アナログだな。
「え? 俺が決めるの?
いやいや。
そもそも君はドコのダレコちゃんで……」
裸族少女は契約書を指さした。憮然とした顔だ。
指の先には俺が催促されてる記入欄がある。
いや、よく見ると四角い枠は空欄ではなく、薄い字でデフォルトらしき名前?が入っている。
あー、こういうのってデフォルトが一番なんだよな。違和感なくて。
そう思って確認した。
……いや、これはダメだろう。そもそも名前ではない。
どこの親が可愛い我が娘に『解放された魔女』なんて名前をつけるのか。
役所に突っぱねられるぞ。
いや、突っぱねられるのは俺かもしれない。警察に。
なんと『魔女さん』でした。




