023 日常
学校回です。
「おはようさーん、と」
いつも通りの朝。俺はいつも通り登校した。
ちなみに自転車通学である。わりと近いので。
「土方ッ! 昨日、あのゲームやったんだろ! どうだった!?」
「おはよう、東条。いきなりかい。
ああ、最高だったよ? ひひひ」
教室で顔をみるなり級友が詰め寄ってきた。東条という。
イケメンである。彼女持ちである。リア充である。このやろう。
他のゲーム好きも寄ってくる。
始まるのはゲーム談義だ。このクラス、ゲーマーが多い。
「感覚が凄いリアルで戦闘がメチャクチャ楽しい。
ゲームの中だって忘れそうになる。
ひと晩でスゲー遊べるし、時間的にも凄いお得だぞ」
「「「「「おおー。うーん」」」」」
皆、感嘆のあとで一様に考え込む。
皆『D&C』がプレイしたいのだ。気持ちは分かる。
ただ、ひとつだけ、どうしようもない問題がある。
ハード代だ。高価なのだ。車1台が買えてしまう。
そんなゲームを俺が楽しめているのは、この間亡くなった爺サマのお陰だ。
βテストを楽しんでる最中に心臓麻痺で亡くなったのが2ヶ月前。
享年118歳。
人生のほとんど全てをゲームに捧げた廃人ジジイだった。
若い頃、仮想通貨で一発当ててから死ぬまで、仕事もせず完全にゲーム中心の生活を送った。
118歳で死ぬまでそれを続けたんだから、ほぼ妖怪だ。
俺は、幼い頃から爺サマのトコに入り浸っていた。
爺サマコレクションの古いゲームソフトが大好きだったからだ。ピコピコ系ね。
よく対戦ゲームで徹夜したもんだよ。爺サマ本気なんだもの。
そこを気に入って形見分けしてくれたんだろう。
いつおっ死んでもいいように書き残してた遺言状には、ゲーム、オタク関係一切合切譲ると書いてあった。
嬉しいんだけど、他のオタク系はいらなかったよ、爺サマ……。凄い量だし。
ちなみに、俺がいま一人住まいしてるのが爺サマのコレクション部屋である。
俺の生活スペース以外には謎のコレクションがギッチリ詰まっている。
お宝もあるのかもしれんがチェックする気にもなれない。
冗談でなくギッチリなのだ!
あと、爺サマといっても祖父ではない。
父方の祖父の更に祖父の弟……、だったかな?
仕事も結婚もせずに一生ゲーム漬けだった。
まさに妖怪ゲーマーだ。
そんな爺サマに薫陶を受けた俺。
入学したのがこの学校である。
通信技術系に強いオタク学校だ。ソフトもハードも強い。
生徒にゲーム好きも多いので話が弾んで嬉しい。
まぁ、爺サマほどの猛者はいないけどね。
「やぁねぇ。男の子って遊ぶことばっかり」
あーだこーだとハード入手について議論する男子ども。
その中に分け入ってきた女生徒がいる。
ちょっとポッチャ、いやフクヨカ、もといグラマラスな女子である。
「その話のなかに、私の誕生日の予定は入ってるのよね?
克也くん?」
なんとこの女子がイケメン東条の彼女、ふっくら西崎である。
「と、当然だろ。さっちゃん」
コレを彼女にチョイスするあたり、このイケメンのご愛敬といえる。目が肥えている。
身も心も貫禄たっぷり愛想が良くて面倒見もイイ。クラス女子のリーダー格だ。
いいカップルですな! 羨ましくて涙がでるよ。
「あんまり搾取すると彼氏が痩せちゃうぞ? 西崎」
「わたしのお弁当毎日食べてるから大丈夫♡」
語尾にリア充感が漂ってますな。ケッ。
「土方くんはそういうノリ、改めないと彼女できないよ?」
ぐぐぐ。痛いトコロを。
しかし生来の性格はナントモならんのだ。
「言い回しもなんだかジジむさいし」
それは多分、爺サマのせいだ。
クレームはあの世にヨロシク。
「土方、ちょっといいか?」
「はい?」
4時限目、情報処理の授業が終わってから担当教諭に声をかけられた。
あまり話したことのない先生だ。情報処理の笹山先生だっけか。
「噂で聞いたんだが。君は、あのD&Cをやっているのか?」
「はぁ。といっても、つい昨日からですけど」
噂になってるのか? まぁ、ゲーマー多いからなぁ。
「妙なコトを訊くようだが、なにかオカシイことはないか?
特に体調や精神面で」
おかしいコト、ねぇ。
ゲーム内じゃありまくりですけど。それは違うんだろうなぁ。
「体調は凄くイイですね。気分もいつも通りです。
まぁ、中の時間とリアルの時間で違和感は凄いですけど」
マニュアルにはレム睡眠とかノンレム睡眠とか書いてたけど。よくわからんし。
「異常がないならいいのだが……。
土方。覚えておきたまえ。
人間の脳が夢を見る仕組みは、まだ解明されきっていない。
それなのにあのハードはゲームとして実用化してしまっている。
それはある意味危険なコトだ。
どうにも不安に感じられてな。私は」
ああ。心配してくれてるのか。ありがとうございます。
「そういや爺サマがβテスト中に亡くなりましたね。
118歳でしたけど」
「それは、……ご愁傷様だが大往生だな」
俺もそう思います。
アレぐらい好きに生きた人間もいまい。




