199 露天風呂とお誘い
「おや、マスター? どうしました?
そんな残念そうな顔して」
「してません」
「わう?」
ホントにしてないぞ?
ただ、ちゃんと水着持ってきてたんだなー、とか思っただけで。
「あら、全裸で混浴とか期待してました?
水着はわりと準備してるんですよ。
ほら、飽きちゃってもいけないでしょ?
マスターが」
まるで俺が露出を期待してるみたいなコメントはやめなさい。
それに、ハダカが見たくて風呂掘ったワケじゃないからね?
「俺は辛い強化合宿にせめてもの潤いを、とだなぁ」
「はいはい、わかってますよ?」
わかってねーだろ、そのドヤ顔は。
「心配しなくても、マスターの潤いはわたしがちゃんと用意してますよ?」
「わう!」
俺の潤いを心配してるんじゃありません。
シロも誤解しちゃいけないぞ?
「あぁ……。極楽ですよぉ……」
「おおぉ……、身に染みいるなぁ……」
「わうぅ…」
みんなして露天風呂に浸かっているのですが。
まったり熱いお湯に浸かってると、身体の芯から蕩けるようです。
久しぶりの冒険行でしたしね。
結構カラダは疲れてたみたいです。
ああぁ。最高ですね、お風呂。
死ぬほど気持ちイイです。
人類の生み出した最強の文化ですね。
巨大宇宙戦闘民族も最後の使徒も、この魅力の前にはフロトカルチャーで人類ホカホカ計画なのですよ?
せっかくなので露天の上に『ライト』の光球を浮かせてます。
『暗視』スキルで見えはしますが、情緒が足りませんしね。
煌々と照らしてますが、ヨソの冒険者さんがやってくる気配はありません。
儲からないダンジョンとして、知れ渡っているからですかね。
確かに金額的にはそうかもしれませんけど。
山頂まで1本道で迷うこともありませんでした。
木々の茂る山道は爽やかな空気で快適でした。
フィトンチッド、とかマスターが言ってましたね。
エネミーはお手頃でドロップ品は美味しい高級食材。
しかも、ひと工夫するだけでこうして露天風呂を独占できる。
つまり空気は綺麗で、人混みも無く、美味しい食事、お風呂付き。
このダンジョンは、保養先としてかなり高LVですよ?
やっぱ風呂は最高だなぁ。
頑張って掘った甲斐があったよ。
しかし、夜のステータスと『怪力』があれば、かなり無茶ができるぞ。
相当デカイ岩も持ち上がったもんな。
豊臣秀吉の一夜城じゃないけど、それに近いことも出来るかもしれない。
戦闘だけに拘るのはモッタイナイ。
ハイパー土木作業員的な冒険だってあっていいのだ。
イズミもシロも好評なようだ。
うっとりと目を閉じて露天風呂を堪能している。
よかった。
そんな風情を楽しんでいると不意にイズミが目を薄く開けた。
数秒、目が合う。
潤んだ流し目が綺麗だ。
「……マスター?」
そう呟いて、もぞりと肢体をコチラに寄せて止まった。
寄ったのは数センチだけ。
それきり目を閉じてそっぽを向いた。
『義務』のお誘いだ。
コレをスルーしてしまうと機嫌が悪くなる。
しませんけど。
「イズミ。……こっち来いよ」
「……聞こえませんよ?」
わがままな眷族ちゃんだよ。
吸って欲しいクセに。
俺は立ち上がって湯の中を歩み寄った。
イズミは澄まし顔だ。




