198 陽が落ちたら
いやー、美味かった。
おなかパンパンだよ。
なんせ肥えたニワトリ1羽分、マルマル食い切ったものな。
『はぐれニワトリ』、アブラのり過ぎすぎだろ。
「ご馳走様でした」
「わうッ」
「お粗末さまですよ?」
手を合わせ、イズミに感謝だ。
ニワトリさんもありがとう。
松茸、シメジも試食するつもりだったが一時延期だ。
もう入りません。また今度よろしく。
かちゃかちゃかちゃ。
渓流の水でのんびり食器を洗う。
うーん、アウトドア。キャンプ生活万歳だね。
「陽が落ちたら、いっきに暗くなりましたね」
「ああ。街灯とかナニもないしな。『暗視』があってよかったよ」
「わう」
河原はまだ、頭上が開けてるから月明かりがある。
山道に戻ったらスッカリ闇夜なんだろうな。
そうだ。
せっかくだし、『暗視』スキルを鍛えるのもいいな。
なかなか使う機会がない。
LVがゼンゼン上がってないのだ。
「夜道をお散歩でもしましょうか。肝試しですね?」
「肝試しか……。面白そうだな」
しかし吸血鬼と魔女と狼の集団を、どんなお化けがおどかしてくれるんだろうな。
チェーンソー装備のホッケーマスク怪人とか?
かちゃかちゃかちゃ。
マスターと並んで食器を洗います。
たまにはこういうのもイイですね。
「ところでイズミ。
さっきナニを土木工事してたか気にならないか?」
「なりませんけど?」
即答です。
どちらかと言えば肝試しの方が気になりますかね。
「まぁ、そう言うなって。
片付けが済んだら見せてやるよ」
マスターがなんだかドヤ顔です。うざ可愛いですね。
「お口にタレが残ってますよ?」
「えっ、どこ?」
手でゴシゴシしてるけど、ことごとく空振りです。
仕方ないので拭ってあげました。世話の焼けるヒトですねぇ。
吸血鬼ですけど。
「ふふふふふふ。見るがイイ。
これが俺の作品であるッ!」
連れられたのは、さっきマスターがシロと落ちた水辺なんですけど。
よく見ると小さなプール状になってます。
水は透明ですが流れてませんね。止水です。
渓流の隅っこを石を積み上げてせき止め、流れから隔離してるようです。
「プールですか? この涼しいのに」
「わう?」
小さなプールには川の本流から竹筒まで渡してあります。
通ってきた水がジョボジョボと水面に落ちてます。
ヘンに凝ってますよ?
「くくく。
最後にこれを放り込むとだな?」
マスターは懐から魔法の木炭を取り出し、グッとMPを込めました。
たちまち赤熱する木炭。
それをプールに放り込みます。
「わッ!?」
「わうッ!?」
ジュボボボボボッ。
水に触れた途端、白い蒸気が沸き立ちます。
凄い勢いです。
沈んでいく赤熱木炭の周りがボコボコ沸騰してますね。
これ、かなりの高温ですよ?
マスターがかがみ込んで、プールに手を差し入れました。
手のひらで大きく水をかき回してます。
しばらくするとプールの水面から湯気が立ち昇ってきました。
「これ、……お風呂ですよね?」
マスターがニンマリ笑います。
してやったり、て顔ですね。
「ご名答。即席だけど露天風呂だ。
夜のバンパイヤモードに『怪力』も駆使したぞ。
やっぱ、風呂入りたいじゃないか?」
モチのロンです!
一日の締めは絶対にお風呂なのです。
「マスターッ! 最高ですッ!!
ゲーム始めて以来、最高のお仕事ですよ?」
「わわうッ!」
「え、そこまでか?
というか、俺のこれまでの仕事軽すぎ……」
微妙にヘコんでますが、そんなコトはどうでもいいのですよ。
「さあ、露天風呂です!
みんなで入りますよ!!」




