193 VSアースゴーレム(Ⅱ)
ゴーレムがゆっくりと立ち上がった。
背中を掘っていたシロは飛び退いて距離を取る。
イズミも下がって呪文の詠唱を始める。頼むぞ。
『空気投げ』
再びアーツを発動。
俺はまた正面に立つ。全身から力を抜く。
かなり怖い。
しかし『空気投げ』は脱力がトリガーだ。
怖くても緊張しちゃいかんのだ。
こいつ、パワーは俺の『防御姿勢』を軽く吹っ飛ばす。
素で直撃したら昇天必至だ。
さらにその重量は『怪力』をもってしても持ち上がりそうにない。
夜なら分からんが。
しかし動きはゆっくりだしパンチ自体の速度もしれている。
ステ1俺の『回避』『見切り』で充分にさばけるのだ。
「サンキュー、イズミ。特訓相手には持ってこいの相手だぞ」
背後で苦笑してるような気配が湧いた。詠唱中だしな。
ゴーレムの左腕が大きく振り子のように引かれた。
『空気投げ』発動中の俺には石拳に集まる青い光条が見える。
しょっぱな俺をぶっ飛ばしたアッパーだな。かなり痛かった。
さっきは打ち下ろしだった。上下の打撃が武器か?
大きく後ろに引かれた拳が加速して帰ってくる。
よし、来やがれ。『空気投げ』もらうぞ?
振り子の軌道を描いて石の拳が襲いかかる。名付けてゴレムアッパー。
ゴウッ。
風を巻き、迫る大きな拳。
俺は半身を切り、皮一枚でそれを躱した。
ギリギリ。
『回避』『見切り』スキル総動員だ。
躱しながらゴーレムの腕を取り、拳の勢いに同調する。
凄い勢いで通過する拳。ゴーレムの超重量が乗っている。
今度は半身を切った自重の勢いも足した。
加速し、カラぶった石拳は止まらず勢いよく頭上を切る。
立ちアッパー(大)空振り、って体勢だな。
さらに後ろに回転しようとする左腕。勢いがありすぎる。
ゴーレムの体勢はグダグダに崩れている。
逆の右腕でバランス取ろうとしてるが追いついていない。
重いモノを勢いよく振り回しすぎだ。足は棒立ちだし。
足下で今度はつま先が浮いている。危ういバランス。
斜めにかしぐゴーレムの巨体。その上半身を俺が引っ張る!
ズズンッ!
今度は仰向けに倒れた。地面が揺れる。
躱してから長いようだが実際は一瞬だ。慣れって凄いな。
まだまだ『青い光ナビ』のおかげだけどね。
「『ロック・シュート』!」
「ガワウッ!!」
チャンスを窺っていた二人が追撃をしかける。
今度は顔面だ。
ガガガッ!
ガチンッ!
イズミの呪文はゴーレムの右目に多段ヒットした。
シロも左目に噛みついている。が。
いかにも弱点っぽい丸い目玉だが、与えているダメージはほとんど変わらない。
僅かにさっきの背中よりはマシ程度か?
「あまり変わりませんね。見込みが外れました」
「がうわうッ」
目玉の次は口だと、シロが横棒みたいなゴーレムの口を引っ掻き掘っている。
自分の顔だとしたらスゲェ痛いんだが。
うーむ、効いていない。
他とあまり変わらないようだ。
ゴーレムの顔は飾りみたいだな。部位破壊もできなさそうだ。
ギギギ。
ゴーレムは立ち上がろうとしている。
自重のせいでゆっくりとだが。
この間に俺も追撃、いや弱点探しだ。ステ1なので。
目玉とかをコンコン叩いてみる。
硬い。顔面はどれも硬いな。
顔面じゃないなら……。
え、他にパーツないんですけど。
このブロック積みの山砦みたいなシンプルフォルムの、どこに弱点があるというのか。
ひょっとして最初から無い?
ブロックヒト型に積んで頭にバルコニー乗っけただけの……。
ん? バルコニー? ひょっとして、なんか置いてるか?
ギ、ギギ。
ようやくゴーレムは起き上がりつつある。
両手で地面を支えて身を起こそうとしている。
急いでその頭頂を覗き込む。
あった。
巨体のバルコニー状の頭頂。
その中心になにか彫刻してある。
マーク? いや文字か?
起き上がる頭頂は俺の目線からどんどん上がっていく。
急げ! 爪を立ててその彫刻に手を引っかけた。
がりッ。
ゴゴゴぉ!?
彫刻に触れた途端、ゴーレムの反応が激変した。
怒ったように腕を振り払う。
げふぉッ!?
その腕が俺の腹に直撃、めり込んだ。
そのまま吹っ飛ぶ。
「マスター!?」
「わうッ!?」
2度目の大ダメージ。そして2度目の『急速再生』だ。
適当に振った腕で助かった。スゲー痛いけどさ。
防御無しの素だったのにHPバーレッドゾーンで済んでいる。幸運だろう。
「大丈夫ですか!?」
「わうッ!?」
「だ、大丈夫だ。げほッ。
それより、弱点はあそこだ。アタマの上の真ん中!!」
アタマのてっぺんにハゲ、いや彫刻が施してある。
アレだ。
そこからは早かった。
迫ってくるゴーレムを『空気投げ』で迎撃。
転倒したゴーレムの頭頂部の彫刻に、イズミが準備済の『ロック・シュート』[タメ強]を撃ち込む。
続いてシロが爪撃、からのココ掘れワンワン攻撃。
これがよく効くのだ。
連携によるボーナス効果もあるようだな。
この間、ゴーレムは怒り狂って腕を振り回している。
俺は『空気投げ』発動しつつ警戒。
腕がシロに当たりそうになったら方向を反らせる。
コレがなかなか神経を使う作業だった。ふう。
弱点が判明したコトで、イズミとシロの与ダメージ量は倍以上に跳ね上がっていた。
俺は変わらんけどさ。
「『再生』がLVアップしました。
『投げ技』がLVアップしました。
『見切り』がLVアップしました」
この連携を4セット繰り返したところでゴーレムは沈んだ。
『空気投げ』は不格好だったが、ちゃんと投げ技としてカウントしてくれてたようだ。助かる。
あと『見切り』が久しぶりにLVアップしたのが嬉しい。
とにかく熟練度が上がりにくいスキルだからな。
この機会に鍛え上げたいトコロだ。頑張ろう。




