192 VSアースゴーレム
バッコォーンッ‼
視界が吹っ飛んだ。
いや、飛んだのは俺だ。
「ま、マスターッ!?」
「わうッ!?」
イズミとシロが駆け寄ってくる。
いやはや、カッコ悪い。
凄い勢いでぶっ飛ばされた。
5メートルは飛んだぞ。
HPバーもレッドゾーンだ。
『急速再生』発動待ったなし。
のっそり接近してきたゴーレムが放ったアッパーカット。
ソフトボールでも投げるような大振りの打撃だった。
とりあえずパワーはどんなものかと、回避では無く『防御姿勢』で受けてみたのだが。
ピーカーブスタイルの鉄壁ガードごと宙に舞わされた。
ド迫力パワーだ。
受け止めるどころじゃねぇ。
「生きてますか、マスター?」
「わう」
「な、なんとかな。パワーが凄い。防御してても吹っ飛ばされる」
確実に回避しないと。
ダメージも凄いが、いちいち吹っ飛ばされてたんじゃカウンター投げなどできない。
「パワーが段違い過ぎますね。夜に出直します?」
「わう?」
「いや、回避できない速さじゃない。じっくり丁寧にいくぞ」
初戦だ。焦らず時間かけていこう。
まずは相手の観察だな。
『空気投げ』
アーツを発動させて待ち受ける。おっかないぜ。
イズミは後方に、シロは迂回してゴーレムの背後を狙う。
ズンッ。
ゴーレムはのっそりと俺に向かって迫ってくる。
うむ、威圧感がある。強者の気配。
アーツを通して見るゴーレムは青い光条に覆われている。
特に光条が集まってるのが右腕拳。
あれでまたぶん殴るつもりらしい。そうはいかんぞ?
ズンッ。
ついにゴーレムは俺の正面に到着。
ゆっくりと右拳を振り上げる。
今度は右の打ち下ろし、チョッピングライトか?
拳の輝きっぷりがヒドイ。重さが尋常でないのだ。
さっきの一撃で思い知った。
こいつ、とんでもなく重い。
ステ1の俺がどう頑張ったところで持ち上げるのは無理だ。
体重差がありすぎるのだ。
ブンッ!
石の塊のようなゲンコツが振り下ろされた。標的は俺の脳天。
ギリギリで躱す。
肌が摩擦で焼ける。
落ちてくる拳に手を添える。
狙うは空振り、その重厚な勢いだ。
俺の顔をかすめて落ちる石の拳。
力と重さの結晶した破壊力の塊だ。こわい。
しかし、こういうのに便乗するのが『空気投げ』の真骨頂。
半身を切ってかわしながら触れた拳の光条に同調、止めるのでは無く力を足す。
ドゴンッ!!
カラぶった拳はそのまま斜めに地面に衝突、音を立ててめり込んだ。
ゴーレムの巨体は振り下ろしの勢いに引かれて前傾、つんのめる。
頭部が下がり、カカトが上がった。グラリと重心が崩れる。
降りてきた後頭部に俺は手を掛け、ヨッと飛び乗った。
さらにバランスが崩れる。巨体のつま先が、離れた。
ズズンッ!
ゴーレムの巨体が前のめりに倒れた。
よっしゃあ!
『空気投げ』成功だ。やれやれ、重いから大変だよ。
「ガワウッ!」
間髪入れずシロが無防備な背中に襲いかかる。
「『ロック・シュート』!」
イズミも溜めていた呪文を放つ。連携攻撃だ。
ガキンッ。
ガガガッ。
噛みついた牙と3連発の魔法の石弾。
しかし硬い音を立てて弾かれた。効いてない?
いや、HPバーがわずかに減ったか? 防御力も高いのか。
「がうわうッ」
噛みついた部分をシロがガシガシと爪で掘り起こそうとしている。
ここ掘れワンワンだな。可愛い。
ごく僅かだがHPバーが削れている。ナイスだシロ。
「でも呪文はほとんど効いてませんよ。相性でしょうか?」
イズミが眉をひそめている。
たしかにアースゴーレムに、土属性の呪文である『ロック・シュート』は効き辛いかもしれない。
「そうだな。それに、防御力も単純に高いみたいだ」
『ロック・シュート』は土属性と同時に物理属性も持っている。
基本的に硬い相手には効果が薄いのだ。
土属性を持ち、硬いゴーレムは二重に相性が悪い。
「だけど、どこかに弱点があるはずだ。
目とか口とか、イロイロ試してみてくれ」
これまでマンドラゴラ・ガーディアンは頭頂の葉っぱが、餓狼のボスは口中の舌が弱点だった。
このゴーレムにも弱点が設定されてる可能性が高い。
ギギギ。倒れたゴーレムが 腕立て伏せみたく両手を踏ん張って身を起こそうとしている。
減ったHPバーは1割もないか?
長期戦になりそうだな。




