019 『支配する杖』
種族LVは4アップし、『五体連動』も取得できた。
なによりステ値と『投げ技』の関係に気付くことができたのが大きい。
今後の成長方針とスキル選択に、とても重要なヒントになる。
ドロップ品もたくさんゲットしたし、今夜は収穫が多い。
頑張った甲斐があったぜ。
気付けば真夜中だ。もうじき日が変わる。
ここは宿に帰ってログアウトだな。
明日は普通に学校なもんで。
そう思って町へ帰ろうとした。その時だった。
午前零時。
夜の平原に白い閃光が爆発した
ビッシャァン!! ドンッ!!!
俺のすぐ背後に雷が落ちたのだ。
おおおッ!?
閃光と轟音にビビり上がった俺は、立ったまましばらく動けなかった。
ま、マジですか。
熱は感じたがダメージはない。それはいい。
しかし、俺が恐れるのはダメージではない。ビックリはしたけども。
午前零時の落雷。
昨日、冒険者ギルドで受付嬢から聞いた。
夜の戦闘を避けるべき理由のひとつ。
「真夜中のフィールドでは、低い確率ですが別フィールドのモンスターが出現することがあります。
『ランダムポップ』と呼ばれる現象です。
ごく稀に午前零時、落雷とともに出現します。注意して下さい」
すみません。完全に忘れてました。
別フィールドのモンスターなんてメチャクチャ強いに決まってるじゃないか。
ここ、最初の町ですよ?
そんなビギナーしかウロウロしてないトコに強いモンスターなんて。
サイクロプスとかデーモンとかドラゴンとかバンパイアとか出現したら大変だよ。
コワイコワイ。
……ん? 俺もバンパイアだよな。モンスターの。
なら、タメじゃないか?
俺自身もランダムポップみたいなもんだし。
「『支配する杖』が現れた」
? 聞いたコト無い名前だな。オリキャラか?
じゃあ、あんまし強くない?
俺は覚悟を決めて振り向いた。
杖、かな? 1本の棒状のモンスターが浮いていた。
まず目に入ったのはシルクハットだ。
その下に白布を丸めたような顔がある。
目は虚ろな黒い穴。口らしき裂け目と長く伸びた白い髭。
その不気味な頭部の下に胴体はなく、代わりに一本の棒が長く伸びている。
赤い手袋が一対、その棒を胴体に見立てて浮いている。
手も足もない。
杖といえなくもないが……。
作りかけで放棄されたカカシというのが一番近いか。
ユーモラスだが虚ろな目が不気味でもある。
そしてそいつから吹き付けてくる、身を切るように冷たい風。圧力が凄い。
ゴゴゴゴゴ。そんな重低音さえ唸らせている。
強そうだ 強者の擬音語 ゴゴゴゴゴ
は、季語が無い。
受付嬢の話によると、ランダムポップにはいくつかの決まり事があるらしい。
一つ、必ず先制できること。ここで逃走を選べば必ず成功する。
一つ、倒せばレアドロップを落とす確率が高いこと。倒せればの話である。
受付嬢は絶対に逃げて下さい、とアドバイスをくれたが。
今は夜。そして俺は吸血鬼である。
カーミラさんは『芸風』が大事だと言った。
俺はナルホドと思った。
『芸風』として、夜の吸血鬼はこういう時どうすべきか。
俺は走った。
『支配する杖』に向かって。
戦闘あるのみである!
夜の吸血鬼に逃走の二文字は無いのだ!!
フハハハハッ!!
さて先制だ。
ランダムポップのルール上保証された先制のチャンス。
超貴重なコレをどう使うか。
俺は突っ込んだ。
どう見ても肉弾系ではない。『影縛り』は意味が無いだろう。
『空気投げ』でカウンターを狙うにも全く動く気配がない。
杖だしね。
いつもの戦術ではいかんというコトだ。
俺は杖の足先?をつかんでクルリと身を切り返し、肩に担いだ。
『怪力』!!
シルクハットの頭?を大きく振りかぶり、地面に向かって思い切り叩きつけた。
バゴォンッ!!
凄い音が鳴った。手応えあり。
杖の頭部はナニが詰まっているのかかなりの重量があった。好都合だ。
間髪入れず向きを切り替えて反対側にも叩きつける。エイヤァッ!
バゴッ!
『怪力』はクールタイム中で間に合わなかったが、これもナカナカの手応え。
ワンモアいけるか?
ドカァンッ!!
赤い手袋が合掌。杖を中心に風が爆発した。凄まじい風圧で俺は吹っ飛ばされた。
イタタタ。結構なダメージだ。
『再生』が大急ぎで仕事する。
立ち上がりながら向こうを窺う。どうだ?
紳士っぽい白髭がギザギザに波打っている。
おお、怒ってるな?
怒ったというコトは、効いたというコトだ。
しかもあの怒り様は、かなりのダメージを与えたようだ。
よかった。物理の効く相手で。
効いた様子が無いようなら実は撤退するつもりだった。ムリだし。
だって俺のダメージ源が物理攻撃しかないのだ。吸血鬼なのに。
あの爆風攻撃の有効範囲はこれくらいか。
連発はできないようだな。
攻撃手段はそれだけか? まだあるだろ? 見せてみ?
赤い手袋が人差し指をこちらに向けた。周囲の魔力が収束する。
魔力の風が光る刃と化した。
シャァァッ!
速い!? 俺の首めがけて殺到するそれを危うく避ける。
次の瞬間、もう一方の手袋も俺を指さしていた。2連発かよッ!?
スパッ!
回避は遅れたが直撃は避けた。
が、心臓を庇った左腕がストンと落ちる。
威力ヤバいな!? このソニック・ブーム。
しかし俺も吸血鬼だ。落ちた腕を拾って断面に押しつける。
『急速再生』
ふふん。スキルLVが上がって急速再生が自在になったのだ。
MP消費が激しいのが欠点だけどね。
何はともあれ腕は元通りくっついた。
よし。続けようか。
しばらく逃げ回って観察に徹した。
おかげで杖の攻撃パターンが見えてきた。
俺が遠距離にいるときはソニック・ブーム連発。
飛び込んできたら自分を中心に爆風攻撃。
その待ち戦術、割とよく見たぞ。主にゲーセンで。
『待ちスティック』と命名してやろう。
さて、この待ちスティック。どう攻略するかだが。困った。
ソニック・ブームはいいんだ。
直撃すればヤバイが、速度も2連発のタイミングも覚えた。
当たり判定は薄いカマみたいに見えている範囲だけ。
避けるのは可能だ。
爆風攻撃が厄介だ。範囲に隙が無い。
手袋が合掌したらそこで圧力が爆発。
球状の範囲に爆風ダメージと吹っ飛ばし効果。
ただ連発は不可で、爆発の直後にはある程度の硬直時間があるみたいだ。
ココかな?
爆発を空振りさせればつけ込む隙ができそうだ。
ソニック2発かわした後で突っ込まず、ギリギリ接近したトコロで爆発を誘うか。
よし、作戦実行だ。
接近しながらソニック・ブームを誘う。
一つ、二つ、よしッ、かわした!
危険地帯へ一歩だけ踏み込む。
手袋が合掌のモーションに入った。
よっしゃ、釣れた!
バックステップを重ねて爆風の範囲ギリギリまで下がる。
ドォンッ!!
爆発した。
爆風の余波が顔を叩くがダメージはわずかだ。
急げッ!
爆発のエフェクトはまだくすぶっている。
しかし当たり判定は既に終わっている。
俺は土煙の中に突入した。
スティックは土煙の中心で硬直しているはず。
いた。そして掴んだ。
えいやぁ!
再びスティックの足先を担ぎ、地面に顔面を叩きつける。
もう一発。身体を切り返して再度叩きつけ。
ここで爆風がくる。俺はスティックの中心を握り直した。
『怪力』!!
爆発の衝撃に温存していた『怪力』防御で備える。
握りしめた杖がミシリと鳴った。
吹っ飛ばされまいと、俺は両手を睨んだ。
ドォーンッ!!
荒れ狂う爆風。
爆発の衝撃が、俺を吹っ飛ばそうとする『力』が見えたような気がした。
『空気投げ』!!!
アーツは発動した。




