185 穏やかな世界
引き続き俺たちは山頂を目指し山道を進む。
ちょくちょくニワトリコンビと遭遇する。
が、すべて危なげなく撃退した。
もちろんオール部位破壊済だ。
『ロック・シュート』無双。
「タマゴも鶏肉も大漁ですよ?」
「わうッ」
イズミがホクホク顔だ。
シロも肉だらけでテンション高い。
「すっかりニワトリハンターだな。
コイツラしかいないのかね」
「望むトコロですよ?
余った鶏肉は孤児院に寄付してもいいですし。
きっと喜んでくれますよ?」
いいな。
それは良いアイデアだ。子供は肉好きだし。
イズミが『鑑定』『査定』スキルを使ってみたところ、鶏肉の販売価格はレア度の割にとても安いらしい。
美味そうなのに。
売っても安いのなら、食べ盛りの子供達に直接食べてもらった方が有意義だ。
ニワトリ1羽丸焼きとかテンション上がるだろう。
値段が安いのは食材系全般に言えることだ。
ダンジョンなのに他のプレイヤーがいないのも納得だな。
依頼報酬は低く、ドロップ品は価格の低い食材。
ここは単純に儲からないのだ。町からも遠いし。
そりゃ敬遠されるよな。
イズミみたく『料理』スキル持ちなら別だろうけど。
「いいトコなんですけどねぇ。
鶏肉も☆2が混じってましたし」
そんな風に話しながら登っていると渓流に出た。
流れる水は清く澄んでいる。
河原に足を踏み入れると視界の端に表示が出た。
『Safety Area』
安全地帯だ。一息つけるな。
「ようやく中間地点かな」
「ちょうどお昼ですね。ここでお弁当にしましょうよ」
「わうッ」
渓流沿いは木も少なく、明るく開けていた。
「空が広いな。ずっと木ばかりだったから気持ちいい」
「ええ。木漏れ日もいいものですけど、ずっとはちょっと」
「わう」
ゴザを敷いて弁当を広げる。イズミのお手製だ。
「今日は『おにぎらず弁当』。
シロは約束の『骨つき肉』ですよ?」
「おおーッ」
「わうッ!」
イズミが朝早くから用意してくれてたモノだ。美味そうだ。
よくできた眷族ちゃんだよ。
「いただきまーす」
「がわうッ♪」
「はい、どうぞ」
シロがガブリと骨つき肉に食いついている。至福の顔だ。
ペットショップで売ってる最高級品なのだ。
『黒土山』まで『巨狼変化』で走り通しだったからな。ご褒美だ。
弁当もうまいな。
おにぎらずの具がバラエティに富んでいる。
「イロイロあって美味いな、コレ」
「お握り作ってたらレシピがヒラメキまして。ピコーンって」
レシピはピコーンで増えるのか。まちがいなく電球のエフェクト付きだろ。
「だけど結構時間がかかってるんだろ。ちゃんと寝てるか?」
「具は晩ご飯の余り物とか使ってますから手間はないんですよ?」
イズミが得意げに微笑む。
「それに最近はシエスタとってますので。自然と早起きなんです。
心配ご無用ですよ?」
寝不足の心配はないようだ。
ふむ。ちゃんと健康的に回してるんだな。賢い。
腹一杯になった後はごろ寝タイム、シエスタだ。
ボワンッとシロが『巨狼変化』して横たわる。
俺とイズミはその巨体にもたれかかった。うーん、モフモフ。
人目も無い。思う存分ゴロゴロしよう。
「MPも減ってたとこですし、ゆっくりさせて貰いますよ?」
「『ロック・シュート』連発してたものな。存分に休んでくれ」
攻撃手段が呪文オンリーのイズミはどうしてもMPの減りが早い。
『吸血』で補給できる俺のMPを回せればいいんだが。
まぁ、そう都合良くもいかんか。
そういう制約こそゲームのスパイスだしな。工夫が楽しいのだ。
横になった巨狼シロはまさに極上のお布団。
山の風は涼しく陽は温い。
俺とイズミは並んで寝転がり、目を閉じた。
サラサラサラサラ………。
渓流の水音が絶えず流れている。
ザワザワザワザワ………。
風が吹くたび、葉がこすれて木々がざわめいている。
ホロホロホロホロ………。
ジージージージー………。
山林の遠くで鳥や虫が歌っている。
山の渓流は、静かなようで自然の音に満たされていた。
ああ、いいな。
とても優しい、穏やかな世界だ。
「すぅすぅ」
「くかぁー」
イズミとシロの穏やかな寝息が聞こえてきた。
ああ、俺も眠くなってきた……。




