181 VS『はぐれニワトリ』
山道に分け入る。
生い茂る木々はまっすぐで背が高い。ちょっと薄暗いな。
『変身』。
念じて装備を吸血鬼モードに戻した。
人目も無いしな。冒険はやっぱこのカッコだろ。
ダテ眼鏡も外してポーチに放り込んでおく。割れたら困る。
「ワウッ!」
突如、シロが吠えた。警告の声だ。
はるか樹上から白い影がふたつ、舞い降りてきた。
コケーッ!!
「はぐれニワトリが現れた!」
一見、ニワトリだ。
但し、でかい。 大型犬サイズだ。それが2羽。
「美味そうだな」
「よく太ってますね」
「わう?」
イズミの目が食材モード。
うん。マルマルとしてるな。アブラが乗ってそうだ。
「俺が足止めする。
イズミは後方から呪文で援護。シロは側面から回り込んで奇襲だ。
いくぞッ!」
俺は突っ込んだ。
ふふふ、久しぶりの新エネミーだ。どんなヤツだ?
コケーッ!!
再びの叫び声。迫り来る俺を見て興奮したか?
ニワトリ含めキジ科の鳥には蹴爪がある。
人間で言えばふくらはぎの部分に太いトゲのような爪が生えているのだ。
リアルでも、たまに気の荒いニワトリがいてコレで蹴られると非常に痛い。
俺が小学生の時、学校の飼育小屋にそんな雄ニワトリがいた。
凶暴なヤツで飼育係だった俺はよく蹴られたもんだよ。痛かった。
距離は詰めるが最初は様子見だ。
『空気投げ』は初見じゃ成功しにくいのだ。見切らないと。
コケッ!
1羽が羽ばたいて足の蹴爪を降リ上げる。
ジャンピング前蹴りだ。意外と鋭い。
おっと! 半身に捌いてかわす。その背後に、
コケケッ!
もう1羽がクチバシで突いてきた。
ワウッ!
側面からシロが体当たり。その1羽を突き飛ばした。
「サンキュー、シロッ」
「わうッ」
「次はこっちです。
『ロックシュート』!」
突き飛ばされ体勢崩したニワトリに、ガガガッ、と石の魔弾が多段ヒット。HPバーを削る。
『怪力』!
さらに俺がその羽を掴み、強引に投げ落とす。
ドオンッ!
コケッ!?
ちっ。巻き添えに狙ったもう1羽との衝突は躱された。惜しい。
ガワウッ!
地面に叩きつけられてもがく1羽にシロが間髪入れず襲いかかった。
丸っこい首の後ろに噛みつく。
うまいぞ。その位置なら、クチバシも足の蹴爪も届かない。
コケケケケッ⁉
なんとか跳ね飛ばそうともがき回るがシロは放さない。いいぞ。
よし、コイツは任せた。
『空気投げ』
スキルを発動して無傷のもう1羽と対峙する。勝負だ。
コケッ!!
ひと呼吸おいて、再びのジャンピング前蹴り。
ふふふ、その技はすでに見たのだよッ!
ニワトリの全身に走る青い光の筋。
その力の導線を捕捉しながら身体を捌く。
前蹴りのつま先を捕まえ、さらにグイと上向きに力を足す。
ニワトリの身体は掴んだ足を中心に、グルリと逆上がりするように回転した。
その回転に逆らわず腰を落とし、力を足す。
グルンッ!
支点に足した力は僅かなのに、丸いニワトリの身体は更に加速して回転する。滑車の原理だ。
エイヤッ!
回転の頂点で投げ落とす。
急転直下。そしてニワトリは頭から地面に衝突した。
ドォォンッ!!
コキャッ!?
高い位置から脳天を地面に叩きつけられてニワトリは悶絶している。
さて、追撃したいのだが。困ったな。
『怪力』のCT解消まで数秒ある。
その間、ステ1の俺にできる有効な追撃は?
無いのだ。
とりあえずトサカでも殴っとくか。
ポコポコ。
お、トサカは他の部位より気持ちダメージが通りやすい感じだな。
弱点かも知れない。
「イズミ、狙うならトサカだ」
「了解。どいてくださいよ?
『ロックシュート』!」
ガガガッ!!
腕を引っ込めたトサカに魔弾が多段ヒットした。
コキャキャキャッぁ⁉
トサカが弾け飛んだ。部位破壊か?
細かい演出だな。ボスでも無いのに。
『怪力』のCTが解消した。よし。
トサカを破壊され、悶絶しているニワトリの両足を掴む。
シロを見る。向こうも見事に押さえ込んでるな。トドメだ。
『怪力』!
ドオンッ‼
天高く持ち上げたニワトリを、地面でもがくもう一方に叩きつけた。
2羽のニワトリは、庭で遊ぶ白いボールのように跳ね飛んだ。
なんちゃって。
KO。




