179 大農場に寄り道
ハッハッハッ。
ザッザッザッザッザ。
巨狼シロが街道を軽快に駆けていく。
白い巨体が風を切り裂く。気持ちよさそうだ。
錬金堂営業中はなかなか全力疾走させてやれないからな。
癒やしの昼寝毛布として有能すぎるのだ。
特にミライナ先生がトリコになっている。
いちど抱きついたらなかなか離してくれないからなぁ。
「ワワウッ!」
よしよし、存分に駆けるがイイ! アクセル全開!
『黒土山』はまだ先だ。ドライブを楽しむのも乙なモノだね。
「風が気持ちイイですねぇ」
涼風に吹かれてイズミの赤面も取れたらしい。
灰色の髪をたなびかせながら流れる景色を楽しんでいる。
『騎獣の鞍☆1』の効果だろうか。
けっこう揺れてはいるのだが疲労も酔いも感じない。のんびり騎乗の旅だ。
鞍無しでロデオとかやってたときとは雲泥の差だな。
ミライナ先生も乗せてやりたいね。きっと喜んでくれるだろう。
街道の外の景色が変わってきた。
緑の草原から開かれた田園風景に。
「見て下さい。畑が広がってきましたよ?」
「ここが噂の『大農場』か」
「ああ、トマトがなってるな」
「トマトって草になるんですねぇ。木になるモノだと思ってましたよ」
「そういうのもあるらしいけどな」
たしか一株から1万個以上収穫できる木もあるらしい。ロマンだ。
「うわぁ、美味しそう。ちょっと見学したいですね」
「そりゃいいな。見せてもらおうか。シロ、スピード落としてくれるか?」
「わうッ!」
ジョギングくらいの速さで進んでいく。ちょっと寄り道だ。
イズミは初めて見る農場に興味津々のようだ。ジト目が輝いている。
俺だって、マンドラゴラ掘りながら一度は農家に心が揺れたナチュラリストゲーマーである。
園芸とか嫌いでは無い。ガジガジ草にもお世話になってることだし。
「町とは空気の味が違いますねぇ」
農場らしく、ちゃんと土や肥料の匂いがする。凄いぞD&C。
いい雰囲気だ。
むむう? 久しぶりに一句浮かんだぞ?
土の香に 鼻くすがれて トマト嗅ぐ
ヒジカタ
「このトマト、もいじゃダメなんだろうなぁ。カブリつきたい」
「ダメですよ。ちゃんとお金払いませんと」
そういうイズミも目が揺れてるな。囓りたそうな顔だ。
これだけ大きい農場ならどこかに直販所とかあるはずだ。探そう。
「きゃあッ、モンスターッ⁉」
なんぞッ⁉
背後からの黄色い悲鳴に俺たちは色めき立った。
ここでバトルか⁉
と、振り向いたら、ホットパンツの健康的なお姉さんが立ちすくんでいた。
視線は俺たち、というか巨大シロだ。
そりゃそうだ。
「スミマセン。俺たちは冒険者でエネミーじゃないです。大丈夫です」
「わうわう」
「そ、そうなんですか?」
「まぁ、モンスターではありますけどね」
しーッ。ややこしくなるだろ?
じっさい吸血鬼・魔女・狼のハロウィントリオだ。
「ははは。ギルドで『腐葉土』の依頼を受けた冒険者です。
お野菜の直販所を探してまして」
お姉さんはトマト満載のカゴを抱えている。きっと関係者だ。
「直販所は向こうですが、今は閉めてます。作物が足りないもので」
残念そうに首を振る。
「ずっと不作で町に卸す分を用意するだけで精一杯なんです。
来月からは、それも不足すると思います。
冒険者の方なら『腐葉土』を持ってきてくださったのですか?」
スミマセン。これからなんです。
「そうですか……。どうかお願いします。土壌改善は農場の死活問題なんです」




