177 『人間化』
やっぱり、イズミの眷族化にはカーミラさんが一枚噛んでたんだな。
いくらエネミーを『吸血』しても『眷族化』は発動しなかった。
させる気もなかったけどさ。キノコのメイドさんとか困るし。
……ふむ。なら『人間化』の方も相談しとくべきだよな。
「カーミラさん。今度はイズミの『人間化』の件なんですが」
「あーら、気が早いわねぇ」
例のカラの肉体にインストール、のプランを話した。
「しかし、リアルで学校の先生に相談したところ、AIと人間の意識の変換は難しいと聞かされました」
「まぁ、人間の意識、つまり『魂』の創造はヨーロッパでもタブーだしねぇ。
神サマの領分ってことで」
うーむ。やっぱりそうか。無理っぽいのか。
ところが、カーミラさんはニンマリと笑みを浮かべた。
「ただ、創造はダメでも、コピーと改変は出来なくもないわよぉ?」
「え? どう違うんですか?」
「つまり、既にある魂の一部をイズミちゃんの中に転写する。
それをイズミちゃんが自分用に改変して取り込む。
この作業を根気強く続ければ、いずれはイズミちゃんは人間と同じく魂を持つことができるはずよぉ?」
悪戯っぽく唇をつり上げる。楽しそうだ。
「転写って、そんなコトができるんですか?」
「あーら、ヒジカタくんだってもうやってるわよう?」
え?
「『眷族化』よぉ。
吸血鬼の呪われた魂を『吸血』を通じて哀れな犠牲者に転写。
犠牲者の魂の一部を上書きして支配下に置く。
これが『眷族化』のおおまかな原理なのよぉ」
うわ、なんかエゲツなさそうなんですけど。
「なんかPCウィルスのハッキングみたいですね」
「仕組みは似てるわねぇ。物語もプログラムも人間の想像力から生まれるモノだから。
発想は似たり寄ったりなのよねぇ」
「……あの。わたしって、マスターの支配下なんですか?」
イズミが頬を赤らめている。なぜ恥ずかしそうなんだ?
「イズミちゃんの場合は、そもそも上書きされる魂が無いから。
逆に、転写されたヒジカタくんの魂を流用してる感じねぇ。
自由な感情表現やプレイヤー並の権限を得たりできてるのは、その結果なのよぉ」
プレイヤー限定の無限収納を最初から持ってるのもそれか。
つまり、イズミは俺のサブアカウントみたいなものなのか?
完全に勝手に動いてるけどさ。清々しいくらいに。
「ところで、二人とも『義務』は順調かしら?」
う。順調、と言ってイイのだろうか。
常にアカBAN紙一重なんですけど。
あとイズミが悪鬼羅刹。
「えーと」
「とても順調です。なんの問題もありません」
俺を押しのけてイズミが断言した。いいのか?
「うんうん。その調子で頑張るのよぉ。
前に『人間化』の希望を聞いてから、『眷族化』の仕様を調整したの。
『眷族化』後も、『吸血』を通じて転写が継続されるようにね」
調整て。
そんなコトできるんですか。カーミラさん凄い。
「いちおう『始祖』だからねぇ。お安い御用よぉ」
得意げにグラスを舐めて喉を湿らせる。美味そうだ。
「最初に転写されたヒジカタくんの魂は、イズミちゃんに改変されて吸収された。
そして流用されるうちにこなれて、『イズミちゃんの魂』に近いモノになっているわぁ。
だけど、それも魂の総量からすればごく一部でしかないの」
俺たちを並べて眺めてニンマリ笑う。
「『義務』を励みなさい。
質の高い『義務』を繰り返すたびにイズミちゃんの中に魂が蓄積、結晶化していくわぁ。
いずれ『人間』と変わらない存在になれるはずよぉ」




