163 『悪鬼羅刹』とパンデミック
ジリリリリリリリッ!
は。
目覚ましがけたたましく鳴っています。
もう30分たちましたか。よく寝ました。
どうも、夢を見ていた気がします。
ジャージ姿のマスターがヒーコラ走っている夢です。
目的地に到着してからも、なんだかションボリしてましたね。
撫で撫でして慰めてあげたかったのですが、できませんでした。
すぐ近くなのに遠くに居るようで、どうしても触れなかったのです。
「うぅ~ん。あと、5ふん」
「わふぅ~ん」
ミライナさんとシロも目を覚ましたようです。
減っていたMPも全回復しています。
シエスタ効果凄いですね。
さて、緑茶でもいれてアタマをシャッキリさせましょうかね。
これから、わたしは夕食の買い物。
ミライナさんには追加商品の作成を頼みたいのです。
シロは癒やし係兼お留守番役。
よろしくお願いしますよ?
買い物ついでに『魔界飯 新宿』にも寄るつもりです。
ちょっと気になるコトがあります。
あの方達ならご存じだと思うので。
「『悪鬼羅刹』? あら、そんなの生えちゃったの?」
「意外だな。そういう性格には見えなかったが」
カーミラ様も大将も、意外そうに目をパチクリさせています。
マスターの『悪鬼羅刹』について相談したのです。
なんとも不穏なスキル名ですからね。
ちょっと心配になりまして。
当のマスターはあんまり気にしてないみたいなんですけど。
「かなりの激情に駆られなきゃ生じないスキルのはずなんだけどぉ」
「かなりというと?」
「手当たりしだい大虐殺レベルかしらぁ?」
なんですかソレ。怖すぎます。
『悪鬼羅刹』の発動した経緯を説明しました。
といっても、わたしも死に戻ってたので伝聞と推測でしかないのですけど。
「なるほどぉ、イズミちゃんが。
ヒジカタくんも男の子よねぇ」
「まったく。将来有望ですな」
なんか褒められてます? よく分かりませんね。
「危険なスキルなんでしょうか。
記憶が飛んでる間に、かなり強い中ボスをズタボロにしたそうなんですけど」
カーミラ様は首をかしげて思案顔です。
「危険と言えば危険かしらねぇ。
ヒジカタくんは『眷族化』も持ってるしぃ」
「ヘタするとゾンビパニックですな」
「嫌よねぇ、アレ。吸血鬼とゾンビがごっちゃにされちゃってて」
珍しくカーミラ様の眉間にしわが寄ってます。
よほど嫌なようです。
「ゾンビパニック? どういうコトなんでしょうか?」
「うーん、説明するとねぇ」
そういってからグラスに口をつけます。
喉を湿らせてるのでしょうか。
「もともと吸血鬼のお話というのは、耽美系ゴシックホラーなの。
例えば、かかわる人物を甘美な死に誘う謎の美少女。
例えば、宵闇と共に現れる怪しい紳士。
そういう吸血鬼とヒロインを守るハンターの相克が肝なんだけど」
再びグラスを傾けます。
「『吸血鬼に噛まれたら吸血鬼になる』という属性と、後から出てきたパンデミック系ゾンビ映画がゴッチャにされちゃってね。
ゾンビなのか吸血鬼なのか分からないような作品が大量生産された時代があったのよ。
そういう作品にも、それなりの味というのはあるんだけどねぇ」
「宇宙人が混ざった作品もありましたな」
「アレねぇ。派手な映画だったわねぇ」
吸血鬼+ゾンビ+宇宙人?
盛り過ぎじゃないですか?
「『悪鬼羅刹』の暴走に『眷族化』がくっついたら、そんなパンデミックになっちゃうわぁ。
それは避けて欲しいわねぇ。
スキルに乗っ取られないよう、気をつけなさいな」




