152 『魔女の大釜』と独占企業
俺とイズミは錬金堂の展望について語り合った。
ワイワイガヤガヤ。
それはそれは有意義なひとときであった。
まだ絵に描いた餅だったが。
「うーむむむむう」
ミライナ先生は、そんなこちらに一切背を向けてグツグツ煮えたつ大釜に集中している。
お喋りしててスミマセン。
悩ましげに眉を寄せ、チャームポイントの広めのおでこに筋を走らせている。
悩んでるみたいだな。
ちょっと聞きたいことがあるのだが、声をかけづらいねコリャ。
「ミライナさん、どうしました?
オナカ空きましたか?」
「ち、違いますッ」
「夕飯はお鍋にしようと思ってるんですけど、気に入りませんでした?」
「お鍋大好きですから!
じゃなくて、『魔女の大釜』でちょっと」
凄いなイズミ。シレッと引き剥がした。
「ミライナ先生、大釜がナニか?」
「とりあえず、上位の調合鍋の代用品として使えそうなのは間違いないのですが。
本来の用途らしき部分がわからなくて……。
私の魔力では反応してくれないのです」
本来の用途。
奥さんが創造系錬金術必須の道具とか言ってた部分か。
これはヒトを選ぶらしいから仕方ないのじゃなかろうか。
「創造系錬金術は私からすれば雲の上の技術。
今はまだ放置ですかね…」
今は、というトコロに野心を感じるね。
ミライナ先生も今後の成長に期待、てコトだな。
一緒にLVアップですな。
「『魔女の大釜』で『マナポーション☆3』は作れそうですか?」
先生に聞いてみる。現状で一番重要なのはココだ。
「それは大丈夫だと思います。
単純な調合道具としては過剰なくらいのスペックがあるので。
『魔女の大釜』に問題はありません」
しかしミライナ先生はここで難しい顔になった。
「むしろ問題は私の方ですね。
『マナポーション☆3』は作ったことがないのです。
組合で試作したときも素材が☆1止まりだったので」
ほー。そうだったのか。
「『マンドラゴラ☆2』なんて、本来は気軽に扱える素材ではないんです。
この素材の調達に関して、ヒジカタさんはとても特別なんですよ?」
苦笑いされてしまった。
「ハハハハハ……」
俺としても苦笑いするしかないな。
技術でも努力でも無く、吸血鬼ボディの耐性でゴリ押しの結果だからね。
正直、誇れるようなコトじゃないのだ。身バレも禁物だし。
「つまり『マンドラゴラ』は錬金堂に任せろ!
てコトですよ?」
満面のドヤ顔でイズミが割り込んだ。
「『マンドラゴラ』市場のシェアNo.1ですね。
独占企業ですよ?」
フンスと胸を張っている。鼻もタカダカだ。
「お前さんはお気楽でいいよな」
「あら、それって褒め言葉ですよね?」
もちろんだ。
束の間流れた微妙な空気が霧散する。
お前がいてくれて、ホント助かるよ。




