149 ロマン武器
皆さん、なかなか引き下がってくれないので困った。
「競争になってるんですねぇ。攻略組さん達って」
まぁ、ネトゲの醍醐味の部分だしな。
燃え上がるのは分かる。
結局『依怙贔屓はしない』の部分で納得して貰えたようだ。
MPの残量が探索の継続時間そのものみたいなトコがあるからな。
『マナポーション☆2』の存在は彼らの競争に影響ありすぎるのだろう。
「『マナポーション』が普通に流通しだせば騒ぎも収まるさ。
それまでは今の調子で販売だ。朝早いが頼むよ」
イズミがうなずく。面倒かけちゃうな。
「それより転売屋さんのパーティが有力な攻略組の一つ、というのが驚きでした。
転売専業だと思ってましたよ」
「ホントにな」
それだけ装備の質が冒険を左右するというコトなんだろう。
イイ装備を序盤で手に入れる、てのも妙な優越感があるし。
「スキルが成長しなくても『転売』をやめられない理由もそれかな」
最初からそういうゲームだと思えば割り切れる。
俺はゴメンだが。
「わたしなら悪夢ですね。
『料理』スキルが成長しないとか」
そこは優先順位の違いだよな。
あと基準の置き場かな。内か外か。
競走ってのは、どうしても自分より他人に目がいっちゃうモンだし。
群れで生きる動物の本能みたいなものだ。
仕方ないよ。
さて、攻略組ならぬノンビリ生産職『錬金堂』としては。
シエスタ後は商品作成は一旦ストップ。
試作、検証作業に移った。
ミライナ先生は夜には帰宅しないといけないからね。
ややこしいコトは先にやっとかないと。
俺とイズミは『傷薬☆3』にチャレンジ。
ミライナ先生はそれを指導しながら『魔女の大釜』の試運転だ。
いよいよ☆3作成だ。緊張するぜ。
「今のお二人なら、特に問題は無いと思います。
☆2の素材と薬研があれば大丈夫ですよ」
先生の太鼓判入りました。心強いですな。
「こちらは『魔女の大釜』で『付与薬[毒]』を試してみます。まず☆1の素材で」
俺のログアウト中に増やした商品だな。
毒属性のエンチャント系アイテムか。
カッコイイな。俺も覚えたいぜ。
「あ、そうそう。
これ、武器に塗布するらしいんですけど。
マスターは使えますかね?」
イズミが完成品を取り出した。
『付与薬[毒]☆2』だ。
む。ステゴロに塗布使用のアイテムか。どうだろ?
「解毒薬ってある?」
「あります」
「ならやってみるか」
「え? ちょっとッ、危ないですよ⁉」
ご心配無用。レアスキル持ちですから。
なんでもチャレンジだ。
「腕をまくって、塗り込んで、と?
ちょっとピリピリするな」
床を汚さないよう新聞紙を引いて実験。
新聞は『運営ニュース』だ。イズミが溜め込んでた。
「うわぁ……」
ミライナ先生が引いている。
イズミと距離を取って観察してもらう。
かかると危ないからね。
「これでよし、かな? イズミ、どう見える?」
「アタマの上に2つアイコンがともりました。
『ステ異常[毒]』と『属性付与[毒]』ですね。
感じはどうですか?」
ふむ。塗った腕がピリピリしてる以外は……。
まずHPバーが小刻みに増減してるな。
『ステ異常[毒]』の効果と『再生』が拮抗してるようだ。
『再生』の方が強力だからか、満タンと99%の間を往復している。
『ステ異常[毒]』にはかかってるが、数値的には支障ないってとこか。
体調的にも異常は感じない。さすが吸血鬼。
「じゃあ、この状態で『解毒薬』を使ってみると?」
ミライナ先生作の『解毒薬☆2』は『傷薬』と同じ紙で包んであるが。
「これは飲み薬です。水飴みたいな触感なので、口に含んで溶かして少しずつ飲み込んでください」
ぱっと見、黒っぽくて怪しいが味はそう酷くは無い。少し苦いか。
「『ステ異常[毒]』のアイコンが消えました。
『属性付与[毒] 』は継続中です。成功ですね」
うむ。とりあえず成功だな。
この手で相手を何発か殴れば、『ステ異常[毒]』を与えられるというワケか。
そこまでは今テストできんが。
ステ1状態のペチペチパンチでも有効なのかね。
うーむ。塗っただけで『ステ異常[毒]』になったコトを考えると有効かも。
昼間使える攻撃手段が増えた、ということかな。
試した甲斐があった。
「一般のお客さんだとどうだろ。
解毒薬とセットで売る必要があるか?」
「ですけど、完全にステゴロのお客さんとか見たこと無いですね。
格闘系の人でも手甲やグローブみたいなのハメてましたよ?」
なるほど。格闘系だからといって素手とは限らんよな。
装備があればそれに塗ればいいのか。
メリケンサックとか。
しかしナンだな。
この素手に毒属性付与の状態って。
「コレってアレだよな。『毒手』。
俺、いま『毒手』の使い手だよ? ふひひ」
「どくしゅ? なんですか、それ」
「聞いたコトないですね」
フフフ、説明して進ぜよう。
「少年格闘漫画伝説の武器、というか技だ。
凄い修行で手刀に猛毒染みこませて必殺の武器にするんだ。
使用者の命をも縮める諸刃の剣なのだよ」
おおお。正にロマン武器。
擦っただけで相手は死ぬ。カッコイイ。
「いえ、そんな即効性の猛毒じゃありませんから」
「しかも致死毒なんて……。
そんな危険なモノ、私、作り方知りませんよ」
そうだった。
効果は『再生』にも負ける程度の弱毒だ。
あくまで長期戦前提の搦め手だよな。
しかし『毒手』には違いない。
ランクアップしたら即死もありじゃないか?
「危ないからサッサと洗っちゃいましょう?」
「消毒液用意しますね」
『毒手』のロマンは女子には理解しづらいようだ。
覚えとこう。




