132 元気だしなさい
10/7更新2つめです。
『巨狼変化』には度肝を抜かれたな。
陰鬱だった空気がだいぶ薄らいだ。シロには感謝だ。
薬研の方の試運転は諦め、ひとっ風呂あびてカンオケ部屋に戻ってきたのだが。
「遅いですよ?」
なんで当然のようにココで寝てるんだ? イズミさんや。
「もう、このベッドでしか寝られないカラダにされてしまったのです。仕方ないのです」
さも俺がしちゃったかのように言ってるんじゃありません。
ステータス低下中だから『義務』は自粛、と決めただろ?
風邪引いたときはおとなしくするものだ。デスペナもそんな感じだろうと思ったのだが。
「して貰わないと目がさえて眠れないのです。逆効果ですよ?」
イズミも引かない。
デスペナルティ中だとは思えない元気振りだ。俺が気にしすぎてるのか?
「じゃ、軽くだけな」
イズミはうなずいたが起き上がろうとはしない。
悪戯っぽい笑みで俺を見上げている。
仕方ないので覆いかぶさる形で首筋に顔を寄せた。
「思い切り吸ってください。
ペナルティごと吸い取っちゃう感じで」
下から腕を回してくる。
コロンでも振ってるのだろうか、柑橘系の香りが包み込んでくる。
う、積極的じゃないか。
最初は嫌がってたはずなんだが。
だんだん慣れてきた、というか楽しくなってきたようだな。
まぁ、俺だって吸いたくないワケじゃないんだ。
イズミは可愛いし血は天上の甘露だ。だからこそだ。
一度、前のめりになってしまえば止まらない自覚がある。
そしてこの行為はギリギリのライン上だ。
顔を寄せる場所を少しずらすだけで、俺は永久追放、アカBANなのだ。
だから隠しなさい。その無防備で甘そうな唇とか。
とんでもない危険物だよ。
うふふ、わたしの勝利です。
『義務』はなによりも優先するのです。
デスペナルティ? そんなのポイで。
今夜のマスターは優しかったです。優し過ぎるほどです。
気にしてますね? わたしの死に戻りを。お見通しですよ?
意外とね、抱え込んじゃうタイプなんですよね。マスター。
きっと『俺が弱いせいだー』とか悩んでたに違いないのです。
まったく世話が焼けますねぇ。
「もっとね、一緒にやりましょうよ」
『義務』を終えて起き上がろうとするマスター。
その腕を引っ張って寝かせます。ええい、乗っかっちゃえ!
「イズミ?」
怪訝な顔のマスターをグッと覗き込みます。うふ。近いですね。
「調合も戦闘も、もっと一緒にできると思うんです。
薬草とキノコ、みじん切りなら自信ありますよ?」
ズルいですよ? ミライナさんとばかり。
わたしも混ぜなさい。
「中ボス戦だって、もっとわたし達をアテにしてくださいな。
守ってくれるのは嬉しいですけど、やっぱり一緒に戦いたいです」
「だけどダメージがな……」
「反撃できないくらいボコボコにしちゃえばいいんですよ。皆で」
反撃できないくらいボコボコに、か。
簡単に言ってくれるな、ウチの眷族ちゃんは。
「お強いマスターならこれくらい楽勝ですよ?」
信頼が重いね。
……やれやれ。前向きに考えてみるか。




