118 転売屋の涙
10/4更新2つめです。
朝の支度も済んでウキウキお出かけタイム、なのですけど。
「ま、待ってくれ錬金堂さんッ!?」
『本日休業』の札を掛けたところで誰か走って来ました。空気読め。
「アンタのとこの『マナポーション』でえらいことになったんだ!
ナントカしてくれよッ!?」
マスターと顔を見合わせます。
なんと、クレーム発生ですか?
よく見れば早朝組のおひとりですね。
毎朝2本ずつ、合計6本お買い上げのお得意様です。
ありがとうございました。
「えーと、俺が店長ですけど。
スミマセン。なにか商品に欠陥が?」
マスターが前に出て応対します。
店長の自覚はあるみたいです。意外ですね。
「知り合いに譲ったら職業が変わっちまったんだよ!?
剣士なのにッ」
「……ひょっとして、『無職』に?」
マスター我が身に置き換えてますね。
剣士→無職→調合師ですし。
「『転売屋』だよ!? 恥ずかしくって外歩けないよッ!?」
あー、譲ったって有償でですか。
転売しちゃったんですね。
「あー、失礼ですが幾らでお譲りに? 一本当たり」
「……銀貨750枚」
わーお。
仕入れ値の10倍じゃないですか。大もうけですね。
「実際に転売行為してるんだし、もうそれで進めればどうです?」
マスターも呆れてますね。
完全にうちの責任じゃないですし。
「考えようによってはレアジョブなんだし、珍しいエンディングが見れるかもしれませんよ?」
「ヤダよ!? どう見てもペナルティジョブじゃないかッ。いくら戦ってもスキルが成長しないんだぞッ。
上がるのは『転売』スキルだけって。
コレでどんなエンディングが見れるんだよッ!?」
「転売しまくってお金持ちエンドとか?」
「VRでやる意味ないよ!?」
マスターの無責任な提案を転売屋さんが涙目で拒否してます。
「成長しないのはスキルだけ?
基本LVとステータスは?
それっぽいアナウンスとかはありました?
もしかして称号とか追加されてます?」
それでもナニが興味を引いたのか、マスターが話を聞き込んでいますね。
転売屋さんからイロイロ情報を引き出しています。
今のトコロ『転売屋』のデメリットはスキルの成長だけのようです。
LVもステータスも普通に成長。
アナウンスも称号も特に無し。
うちから買った6本の『マナポーション☆2』をゼンブ転売した時点で職業が変化したそうです。
ゼンブ10倍、ということは75x6x10で銀貨4500枚ですか。
転売利益が銀貨4000枚超えてますね。
ボロ儲け。羨ましい。
これ、運営の用意したペナルティですね。
『商売』スキル無しで商行為、もしくは価格制限を無視した取引でペナルティが発生してしまうようです。
勉強になりましたね。
だけど、どう見ても商品では無く転売行為のせいですよね。
ウチのせいじゃないです。
「なるほど。
しかしスミマセンが錬金堂じゃなんともできませんね。
ナニか情報が手に入ったら掲示板に流しておきますので。
まぁ、今日はお引き取りを」
柔らかい口調ですがハッキリ、マスターが断言しました。
転売屋さんはまだナニか言いたげでしたが諦めたようです。
トボトボと遠ざかる背中を、わたし達は見送りました。
「あの人、あんな立派な装備はしてませんでしたよ?
この前は」
「荒稼ぎした資金で買ったんだろうなぁ。
装備の性能でゴリ押しにゲームを進める。
それも有りなんだろうけど」
あまり面白くはなさそうですね。
マスター的には無しでしょう?
うーむ。身につまされるなぁ。
「マスター? 転売屋さんはいっちゃいましたよ?」
「わう?」
「ちょっと思い出してた。
吸血鬼になった朝、俺もカーミラさんのトコに突撃したなぁ、って」
こないだの俺ってあんな感じだったのか?
迷惑かけたなぁ。
「だけど、実際にカーミラ様が関係していたのでしょう?」
まぁ、そうなんだけど。
その時もイロイロ教えてくれたし、イズミの時もお世話になった。
『鑑定』スキルとかカンオケとか貰いっぱなしだ。
俺は今、なんやかんやで吸血鬼ライフを満喫している。
イズミが眷族になってくれたのも俺が吸血鬼であればこそだ。
つまり何から何までお世話になりっぱなしなのだ。カーミラさんの。
「お返ししたいなぁ。
だけどナニも不自由してなさそうだし」
マンドラゴラとか、ゲーム中のアイテムあげても仕方ないような気がする。
あのヒト、ナニを喜ぶんだろうか。やっぱお酒か?
「ご本人に聞けばいいじゃないですか。
お昼は『魔界飯』にして」
「そうだな。他にも聞きたいコトいっぱいあるしな」
吸血鬼シリーズのコトとか、ログアウト中の同調のコトとか。
転売屋のコトは……。
ギルドに聞いた方がいいかな。
既に聞いてるかもしれないけど。
まぁ、コレはどうでもいいや。




