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錬金堂繁盛記  作者: 三津屋ケン
115/652

115 ココでしよう

10/3更新2つめです。


イズミさんは恥ずかしがり屋です。

「……マスター。あの」


 帰り道へと踵を返そうとした俺だが。

 なぜか白衣の裾をイズミが引いている。

 妙に上目遣いで。


 ……あ。忘れてたな。


「『義務』か。だけど、もうすぐ日が変わるな」

「……はい」


 いつもなら積極的なイズミが今日は恥ずかしげだ。

 そりゃお客さんの前じゃな。

 言うに言えなかったのだ。追求されても困るし。

 主に俺が。


「店に戻る前に日が変わりそうですし。

 今日はもう無しですね」


 まぁ、1回飛ばしたくらいでペナルティとか考えにくいよな。

 そもそもログアウト中はしてないんだし。

 問題はないんだろうが。


 しかし、せっかくの皆勤賞が途切れてしまうのもモッタイナイような。

 一日の締めだし。


「いや、それじゃあココでしてしまおう」

「えッ?」


 大丈夫だ。

 よく見ればカップルらしきのがチラホラいる。

 夜の広場はデートスポットなのだ。

 紛れてしまえば『吸血』だとは分かるまい。


「いえ、あ、あの、さすがに野外とか、は、恥ずかしいですし……」


 店じゃ強気なイズミがえらく弱々しい。

 なんだ、外じゃイヤか?


「い、イヤじゃないですけど、その、はしたないと言うか」


『義務』を嫌がるイズミというのも新鮮だな。

 両手を振って拒否をアピールしている。


 なんか、『魔女さん』だったあの時を思い出した。


「……」

「ひッ」


 俺は黙ってイズミの腕を掴んだ。

 脅える顔も可愛いぞ?

 

挿絵(By みてみん)


 マスターがイジワルです。


 広場のスミまで引っ張られて、ソコでされてしまいました。

 イヤだって言ったのに。

 恥ずかしいって言ったのに。


「どうした? いつもと随分ちがうじゃないか?」


 うなじを甘噛みしながらからかいます。

 うぅ。いじわるマスター。

 当たり前です。『義務』は家の寝室でこっそりするものなのです。

 それを、こんな、公共の、ヒトがいるところで。

 もし、見られたら。


 あ、目が合った。

 向こうの女の人と目が合ってしまいました。

 笑いかけられました。

 向こうは、恋人らしき相手とイチャイチャしてます。


 違うんです。

 これは『義務』なんです。

 仕方ないんです。見ないで。


挿絵(By みてみん)


 わたしは悪くないんです。


 甘噛みされて声が洩れても。

 腰を抱かれてゾクリとしても。

 絡めた指に爪を立ててしまっても。

 牙が食い込んでビクッときても。

 浅いところで焦らされてウズウズしても。

 牙が動く度にヘンな声が出ても。

 うなじから全身に甘美な悪寒が走っても。

 そして深く食い込んだ牙に大きな声をあげてしまっても。


 仕方ないんです。

 全部マスターのせいなんです。

 わたしは悪くないんです。

 淫らな女じゃないんです。

 激しく優しくイジワルに吸血するマスターが悪いんです。

 ダメなのに。イヤなのにぃ。


 ……ああ、オカシクなりそう。

 わたしの『枠』が壊れてしまう。

 壊れて、流れて、広がっちゃう。


 ……ああッ、マスターのバカぁッ。

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