115 ココでしよう
10/3更新2つめです。
イズミさんは恥ずかしがり屋です。
「……マスター。あの」
帰り道へと踵を返そうとした俺だが。
なぜか白衣の裾をイズミが引いている。
妙に上目遣いで。
……あ。忘れてたな。
「『義務』か。だけど、もうすぐ日が変わるな」
「……はい」
いつもなら積極的なイズミが今日は恥ずかしげだ。
そりゃお客さんの前じゃな。
言うに言えなかったのだ。追求されても困るし。
主に俺が。
「店に戻る前に日が変わりそうですし。
今日はもう無しですね」
まぁ、1回飛ばしたくらいでペナルティとか考えにくいよな。
そもそもログアウト中はしてないんだし。
問題はないんだろうが。
しかし、せっかくの皆勤賞が途切れてしまうのもモッタイナイような。
一日の締めだし。
「いや、それじゃあココでしてしまおう」
「えッ?」
大丈夫だ。
よく見ればカップルらしきのがチラホラいる。
夜の広場はデートスポットなのだ。
紛れてしまえば『吸血』だとは分かるまい。
「いえ、あ、あの、さすがに野外とか、は、恥ずかしいですし……」
店じゃ強気なイズミがえらく弱々しい。
なんだ、外じゃイヤか?
「い、イヤじゃないですけど、その、はしたないと言うか」
『義務』を嫌がるイズミというのも新鮮だな。
両手を振って拒否をアピールしている。
なんか、『魔女さん』だったあの時を思い出した。
「……」
「ひッ」
俺は黙ってイズミの腕を掴んだ。
脅える顔も可愛いぞ?
マスターがイジワルです。
広場のスミまで引っ張られて、ソコでされてしまいました。
イヤだって言ったのに。
恥ずかしいって言ったのに。
「どうした? いつもと随分ちがうじゃないか?」
うなじを甘噛みしながらからかいます。
うぅ。いじわるマスター。
当たり前です。『義務』は家の寝室でこっそりするものなのです。
それを、こんな、公共の、ヒトがいるところで。
もし、見られたら。
あ、目が合った。
向こうの女の人と目が合ってしまいました。
笑いかけられました。
向こうは、恋人らしき相手とイチャイチャしてます。
違うんです。
これは『義務』なんです。
仕方ないんです。見ないで。
わたしは悪くないんです。
甘噛みされて声が洩れても。
腰を抱かれてゾクリとしても。
絡めた指に爪を立ててしまっても。
牙が食い込んでビクッときても。
浅いところで焦らされてウズウズしても。
牙が動く度にヘンな声が出ても。
うなじから全身に甘美な悪寒が走っても。
そして深く食い込んだ牙に大きな声をあげてしまっても。
仕方ないんです。
全部マスターのせいなんです。
わたしは悪くないんです。
淫らな女じゃないんです。
激しく優しくイジワルに吸血するマスターが悪いんです。
ダメなのに。イヤなのにぃ。
……ああ、オカシクなりそう。
わたしの『枠』が壊れてしまう。
壊れて、流れて、広がっちゃう。
……ああッ、マスターのバカぁッ。




