114 ありがとう
「はぁーッ、今日は遊んだわねー」
「メチャクチャ濃かったよ」
深夜の『始まりの広場』。
とうとうトージョ達はログアウトの時間だ。
「どうだった? 楽しめたか?」
俺が問うと二人はニンマリと笑顔を返した。
「まさに大冒険だったわねッ」
「リアルじゃたった3時間とかマジか?」
ご満足いただけたようだ。それはナニより。
サッチーが歩み寄ってイズミの手を取った。
両手で握りしめる。
「特にイズミちゃん。ありがとね。
ゴハンは美味しいし、冒険はドキドキだし。
ぜんぶイズミちゃんのおかげ。
楽しかったわ!」
「い、いえ、あの……。
はい。ありがとうございます」
「シロもいろいろフォローしてくれてありがとう。
凄く助かったよ」
「わわんッ」
イズミもシロも照れくさそうだ。
そして嬉しそうである。
頑張ってたもんな。
ナイスおもてなしだったぞ。
「ヒジカタは……。遊んでただけだな」
「うん、一番遊んでたわ」
おい、お前ら。他に言うことはないのか。
抗議してると二人の身体が白く光りだした。
タイムリミットを迎えたらしい。
「ハハハ。また来るよ」
「イズミちゃんに迷惑かけちゃダメよ!」
感謝の言葉と捨てゼリフを残して、二人の姿は輝きの中に消失した。
ヤレヤレだな。
まぁ、いつでも来いよ。
俺も楽しかったし。
「ありがとう、だってさ。がんばったな」
「お二人とも優しい方でよかったです。
プライベートのお客様なんて、初めてなので緊張しましたけど」
頑張りが評価されてイズミはひと安心といった風情だ。
シロも自信たっぷりにシッポを振っている。
「うん、お前もがんばったな。
バトルに癒やしにと大活躍だ」
しかし、そう考えるとやっぱり俺は働いてないな。
いつも通りプレイしてただけだ。
森じゃ単独行動までしてたし。
「同じプレイヤーとして楽しんでみせるのも重要では?」
そうかもしれんが、俺としては納得しにくい。
気分だけなんだけど。
「……そうだな。がんばった二人にご褒美だ。
欲しいモノを言ってくれ」
「いいんですか?」
「わうんッ」
いいのだ。
俺が反省するより頑張った二人をねぎらうコトが重要だ。
「じゃあ、明日、みんなでお買い物に行きましょう」
「わわうッ」
お安い御用だ。
お店も利益が出たし、強気の買い物もいいだろう。
ああ、奥さんに貰った『魔女の大釜』。
ミライナ先生に伝えとかないとな。
使い方とか分かればいいんだが。
組合で聞けば知ってるか?
「さて、俺たちも帰るか」
うむ。今日もイロイロ楽しかった。
店に帰って俺もログアウトだ。




