112 巨狼VS同級生
体験版のラスト。
何故か俺とサッちゃんはボス戦に参加している。
ボスは乗用車くらいある巨大オオカミだ。コワイ。超コワイ。
だけど、それとタイマンで格闘戦してる同級生もかなりオカシイ。
ズバァッ!!
「ぐあッ」
うわッ。ボスの必殺技ぽい斬撃がヒジカタを吹っ飛ばした。
視界端のHPバーがいきなりレッドゾーンに。
ちょ、ヤバイんじゃ。
「向こうは大丈夫です！ コッチも来ましたよ！」
「ガルル!!」
イズミちゃんの叱咤が飛ぶ。
慌てて構え直したトコロに手下オオカミが突っ込んできた。
くッ、このッ⁉
とっさに振った鉄剣が間に合った。オオカミをはじき返す。
『ロック・シュート』！
『ウィンド・カッター』！
体勢の崩れたオオカミに呪文が殺到。
１頭が沈んだ。ふー。
「ガアァア⁉」
「ハハハ‼」
突然、大きな悲鳴と快哉が響く。
そして、ボスの巨体が宙に舞った。
ズズンッ‼ 激しく落下。
ヒジカタがさらに駆け寄っていく。イイ笑顔で。
怖いんだけど。お前が。
「もういっちょ‼ 『怪力』！」
立ち上がろうとしてたボスが、今度はコッチに吹っ飛んできた⁉
「「ギャインッ!?」」
迫ってた手下オオカミが２頭、巻き添えにぶっ飛ばされた。ナニコレ。
「『ファイア・ボール』！」
「「ぎゃいいん!?」」
ダウンしてるボス＋手下２頭にイズミちゃんが大技を繰り出した。
オレンジの爆炎の中で手下達が沈む。
ボスは……、まだまだ元気なようだ。
「がうッ」
「ガルルル！」
巻き込まれなかった最後の手下をシロちゃんが追い詰めている。
体格ゼンゼン違うのに凄いな。
軽快なステップで着実にダメージを積み上げる。
「ギャインッ」
「す、スキ有り!!」
ハラに体当たりを食った手下オオカミがこっちに背中を見せた。
そこを俺はズバッと斬りつける。
よしっ。見事仕留めたのだが。
「ワンッ」
「あ、ありがとう」
花を持たせてくれたようだ。おもてなし力半端ない。
「マスター！ こっちは片づきましたよ！」
「おうッ！ ゆっくり休んどけ！」
立ち上がりかけてたボスに再びヒジカタが組み付いている。
お前、なんでそんなに元気なんだよ。
さっき死にかけてたろ？
見ればHPバーはほぼ満タンに戻ってる。いつの間に？
「『ロック・ウォール』
さ、傷薬です。いまのうちに回復を」
展開した防護壁のカゲでイズミちゃんが傷薬を取り出す。
おお、スキがない。
「だけど大丈夫なの？
あんな大きいのをヒジカタくん一人に任せて」
傷薬を塗ってくれてるサッちゃんが心配そうだ。優しいなぁ。
「だいじょうぶ、というか任せるしかありませんね。
わたし達だと一撃で死に戻りしかねませんし」
たしかに、さっき食らってた必殺技はヤバイ威力だった。
「それに邪魔するのも悪いじゃないですか。
あんなに楽しそうなのに」
「ああ。目がヤバイな」
「ヒジカタくんのあんな顔初めて見たわー」
サッチャンは土方と小中学校が同じだった。
俺との馴れ初めもあいつ経由だ。
顔なじみぐらいのものらしいけど。
……ちょっと気になる。
「しかしボスの強化が予想以上でした。
申し訳ありません。
もっとガンガン参加しないと面白くないですよね？
突撃します？」
「アイツと一緒にしないで!?」
「もうオナカいっぱいです！」
そうですか、とイズミちゃんは残念そうだ。突撃したいの？
「無力化できる弱点はわかっているのでチャンスを待ちましょう。
マスターもそれを狙ってるハズですし。
少しの辛抱ですよ？」
ひょっとして、プレイヤーはもれなく狂戦士だと思われてる？
身近なサンプルがアレだからか基準がオカシイです。
「生死の瀬戸際じゃなくても俺たち十分です」
「安全が一番よー」
石壁の端から覗くと、ヒジカタが巨大オオカミ相手に奮闘している。
そりゃまぁイイ笑顔で。
甲子園の野球部みたいに楽しそうだ。
