011 最後の武器
ヒジカタくんはしつこいオトコです。
『影縛り』!
呪文が発動。
影から生じた無数の柔腕がガジガジ草を絡めとる。
自慢のムチも拘束状態だ。
その懐に俺は飛び込んだ。ムチの根元を掴む。
『怪力』!
ムチを巻き込んで身体ごと回転。
同時に発動させた『怪力』スキルで強引にガジガジ草を浮かせた。
腰に乗せる。
「どっせぇいッ!!」
もろとも縦回転!
ドッスンッ!!
背中?から地面に叩きつけられたガジガジ草。
そのHPバーがググッと減った。
よっしゃッ! 大成功!!
打撃が使えず、武器を持たず、攻撃魔法なんて覚えているハズもない。
そんな俺が選んだ最後の武器。
そう、『投げ』である!!
格闘ゲームの基本技のひとつ。
ガードをガチガチに固めた相手を、あらよっと投げてやるのはとても気持ちイイ。
格ゲーで『ハメ投げ』と呼ばれる技術がある。
アクションの速い小パンチや小キックであえて相手にガードさせ、その硬直モーションが解ける前にひょいとカンタンに投げてしまう。
防ぎにくいタメ対戦だと嫌われるテクだが、実力差のある相手にひと泡吹かせるにはイイ。
だいたいその後、ボコボコにされちゃうのだが。
『影縛り』と『怪力』そして『投げ』のセットは、俺にとっての『ハメ投げ』になり得るのではないか?
投げ倒されてジタバタしているガジガジ草に追撃だ。
二,三発殴っておく。
『怪力』はクールタイム中だ。
ステ1だからダメージなんてほとんど無いがゼロでもない。
なにより攻勢のリズム作りだ。
再び距離を取る。呪文の詠唱を始める。
反復練習だ。
このセットを自分のモノにするのだ。
何度も繰り返して精度を高めろ。磨き抜け。
『影縛り』!
ようやく起き上がったガジガジ草に3度目の『影縛り』だ。
そして懐に飛び込む。
悪いが練習につきあってくれよ?
やっと、見えてきた暁光なのだ。
ファンファーレが鳴った。
「勝ったぞぉーッ!!!」
思わず叫んでしまった。
何度も回避し損ねたからボロボロである。
だが嬉しい。超うれしい。ルナティック嬉しい。
感動の勝利だ。
合計5回投げたトコロで決着がついた。
『ヒューマン剣士LV1』の頃は2、3回斬れば倒せていた相手だ。
それだけ俺が弱体化したというコトだろう。
素手でもあるしな。
ただ、それでも戦える方法を見つけたのはとても大きい。
「『格闘』がLVアップしました。
『再生』がLVアップしました。
『影魔法』がLVアップしました。
『回避』がLVアップしました。
『投げ技』が取得可能になりました」
おおおッ。イロイロ上がった。
スキルは経験値と使用回数でLVアップする。
相手が弱敵一匹だけでも、スキルを駆使して戦えば熟練度が貯まるのだ。
俺みたいな弱小にはホント嬉しい仕様だな。
『格闘』スキルLVが上がれば与えるダメージも増えるはず。
ステータスは1だがゼロでもないのだ。
確実に前へ進んでるな。
もっとも、普通のプレイヤーならスキルの出番さえなく勝っちゃう相手なんだろうけどね。
ともかく、俺にとっては格上の好敵手である。
今後ともヨロシク頼むぜ。
『投げ技』が取得可能になった。ぜひ取得したい。
が、スキルポイント、略してSPが足りない。
必要SPが4。所持SPはゼロなので。
ここは我慢するしかないな。
ふふふ、早く取りたいぜ。
よしッ、次だ次ッ。
もっと連戦して『投げセット』の精度を高めるのだ。
スキルLVも上がるだろうし一石二鳥だ。
経験値は……、あんまり期待できんな。後で考えよう。
とにかく戦いまくろう。ただし、ソロの相手限定でね。
うん。手近な目標が決まるとやる気がでるな。
フハハハハハッ!
投げバンパイアを極めるのだ!!
俺の戦いはこれからだ!!
あ、最終回じゃないですよ?




